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八話 白雪の気持ち

 元々に春波はるばのことも山襞やまひだのことも嫌いではなかったし、しかして特別好きというわけでもなかった。

 ただ好意的な態度で接してくれていたから俺もそう返したというだけ。楽しかったのは事実だけどね。


 しかし昨日のような態度をとられれば不愉快なのは当たり前だ。だから関わりたくないんだよ。


 少なくとも 俺はやっていないとハッキリ言ったわけだが、それを嘘だと断じて睨んできたわけだからそれだけ関係値は低いということだろう。

 白雪が言った、俺の机からペンが出てきた という言葉を信じるのならまだしも、どうしてその前から怪訝そうな顔をしていたのか?

 そんなふうな態度をとられたことで、彼女らの情緒が分からなくなった。

 だからせめて百歩、いや千歩譲ってほとぼりが冷めるまではそっとしておいて欲しいと伝えた。


「あんなことがあった直後だし、すぐに仲良くだなんて無理だよ」


「そっか……そうだよね、ごめんね」


 俺の言葉に沈んだ表情をしている春波だが、俺も十分気が重いっての。

 流石にあんな態度を見せられて、昨日までのように心置き無く関われるだなんてことはないだろう。

 あの表情は俺の心にずっと刻まれるわけだから、時間をかけてようやく友人関係になれたらいいねといったところか。俺としては無関係でいいんだけどね。


 こういう独り善がりなタイプは、取り敢えず応える体を装っておけば一度飲み込んでくれる。

 今はそれでいいだろう。心を落ち着かせるためには時間を置きたい。



 とりあえず彼女らには時間が欲しいと、また今日は一人で帰ると伝え、二人には先に教室に戻ってもらい俺はしばらく一人で残って頭を冷やす。

 自分の心に向き合いながら、少し大きなため息をしてすぐそこの窓のフチに手をかけて、そこから空を見つめる。そしてもう一度、さきほどより小さめのため息をした。


「なにを 黄昏たそがれているのかしら?」


 後ろから声が聞こえ、首だけでそちらに振り向く。声の主は白雪で 彼女はゆっくりとこちらに近付いてきた。


「まぁ、ちょっとね」


「……春波さんたちのことかしら?」


「あー……見てた?」


 もしや見ていたのだろうかと思い、彼女にそう問いかけるとコクリと頷いた。

 知ってるのならほっといて欲しいんだが……


「覗いてしまってごめんなさい、どうしても気になってしまったの……あなたと少しでも一緒にいたいから、隣にいさせてくれる?」


 いや普通に有り得ないだろ。心を落ち着けたいと言うのに彼女がソコにいたらその通りにならない。帰ってもらおう。


「……好きにして」


 僅かに逡巡した後に結局 俺はそう言った。もうなんか疲れたのでほっといてくれればそれでいいや。


「ありがとう」


 そう微笑んだ白雪は一人分の距離を開けて隣に立つ。なんとなく見た目以上に距離が近い気がした。

 時間にして十分弱は経っただろうか?しばらくしてササクレ立った心を落ち着かせた俺は、何も言わずに立ち去ろうと歩き出す。


「蔵真くん」


 三歩ほど歩いた俺の後ろから聞こえてきたのは白雪の声、ソレに足を止めて振り向く。

 俺を見る彼女の瞳は、とても優しく感じた。


「これからも春波さんたちとの関係を続けるつもりかしら?」


「……なんとも。ただ少なくともああでも言わないとずっと食い下がってきそうだからさ。もしある程度関係が戻ったとしてもギリギリ友達でいられるかって所じゃない?」


 本当ならあれくらいのことは流せるのが器といものなのだろうが、生憎そこまで大人になったつもりはないからな。

 やっていないと言ったわけだから、もしあちらを信じるとしても少しくらいは悩んで欲しかった。もう過ぎたことだが。


「いいじゃない、無理しなくたって。あの二人が嫌なら私があなたの隣にいるわ。いえ、それは不適切ちがうわね……あなたの隣にいさせて?」


 白雪はそう言いながらゆっくりと俺に近づく。

 俺の腰に手を回し、ふわりと優しく包み込む。

 思いの外彼女の体は華奢で、こうしてくっついていると細身な身体の感覚が伝わってくる。

 それに反してドコかが大きいみたいだが、すぐにそのことは意識の外へと弾かれる。


「辛いならそばにいるわ。嫌なことがあれば愚痴でも恨み言でも聞くし、なんでも吐き出してくれても構わない。もし昨日みたいなことがあったなら、私が守るわ」


 普段から向けてくる敵意にも似た態度は今の彼女に無く、あるのは大きな優しさだった。

 俺を包み込む腕をゆっくりと離す。

 

「せめて辛い時は、一人で抱え込んだりしないで。あなたは、そういう所があるから」


 その胸から俺を解放した彼女は、俺の両頬に手を添えて真正面から見つめてそう言った。

 今までに知らないほどに母性のようなものを感じるが、果たしてそれは俺が好きだからだろうか?


「……色々とごめんなさい。でも、あの時のあなたを知っているから、どうしても伝えたかったの……それじゃ」


 アレコレと言い終えた彼女は、ばつの悪そうに帰ってしまった。

 ただ一人残された俺は、どうすればいいのかと呆然と立ち尽くしていた。

 白雪との距離感が分からない今日この頃であった。

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