八十七話 馴染みつつ
唯那さんに挨拶をしたその翌朝、俺は繭奈と共に学校に向かっていた。いわゆる登校というやつである。改めて言うことでもなかったね。
その道中にて彼女から、前に唯那さんが言っていたことを話してくれた。どうやら唯那さんは元々、俺と繭奈が付き合っていることに色々と思うところがあったらしい。
たしかに昨日繭奈が、嫌がっていたとかなんとか言っていた。俺の素性が分からない以上、親としてはその交際を認めたくなかったのだとか。
その時の唯那さんの言い分としては、成績を理由に挙げたとのこと。互いに信頼して高め合える関係なら良いが、俺のせいで繭奈の足が引っ張られることがあったらダメだと。
成績かぁ、別にそこまでテスト順位に気を配ってなかったし、評価だってそこそこあるくらい。
一学期の通信簿は、4と5がズラリと並ぶ内容であった。ほぼ同じくらいの数なので、悪くはないが特別良いものでもなかったな。そこを突かれると耳が痛い。
そんなわけで、俺と繭奈の関係に反対していた唯那さんから、俺を連れてくるようにと言われた時は警戒したみたいだ。なにか変なことを言うんじゃないかってね。
それがいざ話をしてみれば、俺の母さんと知り合いだったというオチである。
「龍彦くんのお母さんがママと知り合いで、本当に良かったわ。そうじゃないとなに言われたか分からないもの」
溜め息を吐くような繭奈の言葉に、俺は 確かにと返す。なにはともあれ、親公認のカップルということなれば、これから先の関係は安泰である。
今度繭奈には、うちの父さんに会ってもらわないとな。
そんなこんなで、学校に到着。教室にて茂と話していると、冬夏が挨拶をしてきた。
「おはよ、龍彦」
「おっ、冬夏おはよう」
「蓮っちも、おーはよ」
「おう」
恒例となった俺たちの朝の挨拶。周囲もだいぶ慣れたようで、チラチラと見てくる奴はいるもののそれもだいぶ減ったようだ。
ちなみに、冬夏と茂も俺を介して、それなりに話す仲になっていた。
「そいや龍彦、唯那さんと会ったんだね。繭奈から聞いたよ」
「あぁ、挨拶してきたよ」
昨日のことを話しながら、冬夏が俺の後ろから両肩に手を置く。もみもみしながら。
「唯那さん、さすが繭奈のお母さんって感じだよね。すごい美人だもん」
「そっくりだよな」
冬夏の言うとおり唯那さんはとても美人だった。繭奈と違ってつり目ではなかったけどね。
そんな俺たちの会話に、麗凪が質問を投げ掛ける。
「えっ、龍彦くんもしかして、白雪さんのお母さんに挨拶したの?」
「そうだよ。なんなら夏休み前には、お義父さんにも挨拶したしな」
告白してくれた麗凪にこんなことを言うのは、些か意地悪だっただろうか?しかし、事実でもあるのだ。聞かれたことはちゃんと答えないとな。
変に気を遣うのも違う気もするし。
「そっそんなに早く進んでたの……?」
「まぁね」
告美の声は、少し震えているように感じた。驚き余ってのものなのだろうか。
ちなみに、それを聞いた周囲の連中は驚きの表情でこちらを見ている。
ふと、繭奈の方に視線を向けると、彼女は自分の席に座りながら友人たちと話をしていた。すると、俺の視線に気が付いたのか、こちらを見てニコッと笑いかけてくる。
そんな彼女に、おいでと手招きしてみた。それを受けて、すごいスピードでこちらにやってくる。
「どうしたの龍彦くん」
「はやっ」
あんまりの速さに、茂が驚きの声を上げた。手招きしてから十秒と経ってないぞ。
せっかくなので、繭奈の目を見ながら膝をポンポンとしてみる。その意図を理解したのか、彼女は俺の膝に腰を下ろした。
向かい合うようにして。
俺を背もたれに、という意図は理解できてなかったみたいだ。まぁこれでも間違ってはいないか。
「それで、なにかあったの?」
「いや、ただ単にこうしたかっただけ」
「うわ見せつけてきた」
ニコニコとした繭奈が、膝の上で問いかける。俺たちのやりとりを見た冬夏が、呆れたような声を出している。
もう隠す必要はないわけだし、これで良いのだ。それに、唯那さんが認めてくれたわけだし、今まで以上にくっついていたいと思う。
「妬けちゃうわね。私もそんなふうにイチャイチャしたいわ」
「麗凪ならそのうち、良い相手ができるだろ」
軽い嫉妬を向けてきた麗凪に、そう無責任な返事をする。彼女だって魅力的な女の子なのだから、きっと良い彼氏ができるはずだ。
彼女が言っているのは、そういうことではないだろうけど。
「アタシはー?」
「冬夏だって、良い相手ができると思うぞ?」
「いやアンタしかありえないわ」
「あ、はい」
正直な話、俺だってすっかり冬夏に絆されてしまっている。だから、なんだかんだ離れて欲しくないという気持ちもあり、彼女の言葉が嬉しかったのは内緒だ。あとで言うけどね。




