八十二話 繭奈ママ
麗凪からの告白を終えて、近くで待っていた繭奈と冬夏の元に向かう。二人は俺を見るなり手を振って、ニコッと笑顔を向けてくれた。
事情を知っている二人は、敢えて俺の答えや麗凪のことを聞かずに、そっと手を握ってくれた。
正直、麗凪が俺を好きになったそのきっかけはよくわからない。ただ友達のように喋って、お昼を共にしたことが始まりだ。
夏休みもそうだが、それから遊ぶこともあったわけで、もしかしたら一緒の時間を共有したのが良かったのだろうか?
「お疲れ様、龍彦」
「あぁ、ありがとう。冬夏」
「今日はたくさん楽しみましょう、スッキリさせてあげるから何でも言ってね♪」
繭奈と冬夏がそう労ってくれ、家に帰った後はいつもよりも盛り上がる夜を過ごしたのだった。
そんな時間も終わり、夜の道を三人でぬるい風の中、手を繋いで歩く。冬夏を彼女の家まで送り届け、別れ際にキスをしてから繭奈を家まで送る。
すっかり恒例となっている流れであるが、今日は少しだけ変化があった。それは、繭奈の家に着いたことで発覚するのだが、そこには見慣れぬ女性がいたのだ。
おそらくその人は繭奈のお母さんなのであろうが、彼女は顔を合わせることなく家に入ってしまった。
「今のは、繭奈のお母さん?」
「ええ、仕事終わりかもしれないわね」
繭奈の父である舞智さんもそうだが、こんな時間までお仕事お疲れ様である。うちの両親もそうだが、そういう人には頭があがらないよ。
「挨拶したいな。ダメかな?」
「また今度で良いわよ。予定空けとくように話しておくから」
「お願いね」
繭奈とそんな約束をしてから、彼女とキスをして別れた。別れ際、なんとなく視線を感じて足を止めて振り向いたが、気のせいかと考えることをやめた。
──────────
龍彦くんと別れて靴を脱いで家に上がって自分の部屋へと向かう途中、リビングにいるママが声をかけてきた。
「おかえりなさい繭奈」
「ただいま」
そう挨拶を交わすと、スーツ姿のままソファに座っているママが手招きをしたので、それに従いそちらへ向かい、促されるまま隣に座った。もしかして、龍彦くんのことを気付いているのかしら?
そう思ったが、その予感は間違っていなかった。
「ねぇ繭奈、ママに隠してることはない?」
「隠してることはないけど、まだ伝えてないことはあるわ。私に恋人ができたの」
実を言うと、龍彦くんと付き合ったことを知っているのはパパだけで、ママには恥ずかしくて伝えないままであった。
そのせいで心配かけたのかもしれないと、悪いことをしたと反省する。
「そう、あなたがね……それで、相手の子はどうなの?」
「すっごく素敵な人よ!優しいし気が利くしかっこよくて家庭的で──」
「分かったわ。あなたがその人のことを好きなのは理解したけれど、私が聞きたいのはそうじゃないの。例えば成績は?」
龍彦くんのこと聞かれて思わず語ろうとしてしまったけれど、ママはそれを求めてはなかったみたいで止められてしまった。
そうして尋ねられたのは、そんな下らなくて陳腐な質問だった。
「成績って、別に悪くはなかったはずよ。期末テストでも少なくとも上から数えた方が早かったわ」
龍彦くんの成績は決して悪くなかったと思うけど、実際にその話をしたわけではないので予想である。夏休み前にした、山襞さんの家での勉強を思い出すと、強ち間違っていないはずだ。
「そう?最低でも一桁は欲しいわね。繭奈はどうなの?」
「三番だったけど……それがどうかしたの?」
最低でもって、別に競いあっているわけじゃないのだから、そんなものに意味はないと思うけど……
それに、みんな真剣にテストに臨んでいるわけだから、点数の優劣だけじゃ量れないだろう。ほぼ全問正解だった私の上にも二人いたくらいだったし。
「そう。それなら繭奈の恋人さんには四か五位あたりが妥当かしら?一番二番なら言うことはないけれど、それはどうなのかしら?」
「ねぇママ。みんな真面目にやっているのだから、上には上がいて当たり前でしょう?それに彼だって決してふざけてはいないわ。変なことを言わないで」
まるで成績だけで人を決めるような言い分に、少しばかり不愉快な気持ちを抱きママにきっぱりと言っておく。いくら成績がよくても、龍彦くん以外の人間はもれなくお断り。
私だって選ぶ権利があるもの。
「繭奈?私は真面目にあなたのためを思って言ってるの。互いを高め合えたり信頼できる相手ならまだしも、足を引っ張るのは論外よ」
「そうね。ママの言い分は分かるけど、龍彦くんはそんな人じゃないから要らない心配よ。そんな話だったら部屋に戻るからね」
これ以上嫌な話を聞きたくなくて、ソファから立ち上がって部屋に戻る。
本当はママにも龍彦くんと会って欲しかったけど、彼に変なことを言われたら我慢ならないので、それはまた今度にすることにした。




