七十三話 積極的な冬夏とやっぱり繭奈
二学期に入って早々、冬夏が結構な爆弾を学校に放り込んでしまった。放課後を迎えたので、すっかり居心地の悪くなってしまった教室からそそくさと立ち去ろうとしたところで、すかさず冬夏が声をかけてきた。
「あっ、龍彦。ちょっと待ってよ、アタシも行くから」
「あぇっ、えっはい」
冬夏が友人と話している隙にと思ったのだが、すぐにバレてしまい諦めるしかなかった。驚くほど情けない生返事をして彼女を待つ。
彼女は友人たちと挨拶を交わして、荷物を手に俺の傍にやってきた。
「お待たせ、行こ行こ♪」
「はい」
グサグサと剣呑な視線が突き刺さる感覚に苛まれながら、冬夏に手を引かれるまま教室を出た。あまりにも積極的な彼女の影響で、告美たちとは少ししか喋れていない。
もはや俺の脳内はパニックである。
先に話したように、このまま俺の家に二人で向かう。ちなみに、繭奈は後から一人でやってくる予定だ。
家に到着し、俺の部屋へと向かう。まだ暑いので飲み物は道中のコンビニに寄って買ってきた。
リビングに向かうことなく部屋に入り、すぐにエアコンの電源をつける。
「ふぃーあっちー♪」
「だからってだからって!」
荷物を置いた冬夏が、制服のボタンを全て外して俺に抱き着いてくる。だからってどうしてくっついてくるのか、余計に暑いし汗かくぞ。
いくら彼女が可愛いとはいえ、暑苦しいのは変わらない。
「えーいーじゃーん、繭奈が来るまでちょっと時間かかるんだし。それまでだから♪」
「絶対終わらねぇからだめだ。繭奈が来たら鍵開けないといけないし」
さすがにこのクソ暑い中一人で閉め出すのは、最低どころの話ではない。それなのに冬夏は、そっかと言いながらキスをしてくる。絶対分かってねぇだろオメー。
そうもこうもしないうちにスマホが震え、画面を見てみるとそこには繭奈からのメッセージがあった。ほらー、もう着いたじゃーん!
「ほら、繭奈来たから待ってて」
「ほーい」
やっと繭奈とちゃんと喋れると思い、冬夏を押し退けて立ち上がる。座ったままの彼女は左手をまっすぐ上げてだらしなく返事をした。可愛いなコンチクショウ。
階段を駆け降りて、ドアの鍵を開けて繭奈を迎える。そこには、ちょっとだけむくれた様子の彼女がいた。可愛すぎるだろ。
「私をほっぽって冬夏と何をしてたのかしら?」
「部屋の準備をしておりました。冷えておりますのでどうかお許しを……」
拗ねている繭奈が可愛すぎて吹き出しそうになるが、それを堪えて誠心誠意の態度で迎え入れる。もはや平身低頭だ、彼女は王なのである。今だけだが。
「そう、それなら龍彦くんのアレももらえるかしら」
「アレ……」
これはあれである。いつもの下である。なので俺は、しっかりと答えた。
「それでしたら先ほど、コンビニにてスポドリを買っておいたので──」
「そこはゴム買っときなさいよ」
「んなこったろうと思ったよ」
敢えて素知らぬ顔で返したが、繭奈に軌道修正されてしまった。相変わらず揺るがねぇなコイツは。
とはいえ、一人でこちらに来させてしまったことには負い目もあるので、求められれば応えるのは当然のことだが。
「そう、じゃあ準備できてるわね。涼んだらすぐにでも始めるわよ」
「部屋ついたら脱いだ方がよく冷えまっせ」
「良いわね。龍彦くんの匂いを楽しめるなら最高じゃない」
「その発想はなかった」
そんな下らない話をしながら、俺の部屋に入る。そこには、服を着ていた筈の冬夏が一糸纏わぬ姿でそこにいたのだ。なにやってんねん。
「あーおかえりー」
「ただいま。せめて服くらい着なさいみっともない」
「人の匂いで幸せとか言ってる人に言われたくなーい」
もはやどっちでも良いような問答をしている二人をほっといて、俺も服に手を掛ける。ふと横を見ると、繭奈が既に待機しているところであった。早すぎるだろ。
あまりの神速に驚き、目を見開いて固まっていると、彼女は腰に手を当てて胸を張り、ガッツリと見せつけてきた。男らしすぎるだろ。
その貫禄には、カッコいいという感想を抱かざるを得ない。
「そんなに見つめられたら恥ずかしいわ、龍彦くんも早く──」
「「いや早すぎるんだよ!」」
驚いていたのは冬夏も同じなようで、俺と合わせて繭奈にツッコミを入れてしまった。繭奈には驚かされてばかりである。




