七十一話 人知れずBSS
楽しかった夏休みを終えて学校に登校してきた俺は、席について茂と喋る。学校では繭奈とあまり話ができないので、なんとなく寂しく感じる。
でも白雪モードの繭奈も中々に可愛いので、そう考えると悪くないのかもしれない。久々に睨まれるわ。
「あらおはよう、冬夏」
「おはよう」
なんとなく聞こえてきたのは、繭奈と挨拶をしている冬夏の声。すっかり可愛くなってしまった彼女だが、さすがに学校では馴れ馴れしくするわけにもいかない。
彼女と目があってしまったものの、そう考えて目を逸らす。なんとなく罪悪感に苛まれていると、誰かが後ろから抱きついてきた。
「おーい龍彦ー♪なんで目ぇ逸らすのー?冷たいじゃん」
「えっえっ……おはよ」
「おーはよ♪」
その正体は冬夏であった。衝撃の展開に頭が真っ白になって、思わず挨拶してしまう。そんな生返事にも似たソレに、冬夏は嬉しそうに返す。
とっても可愛いのだが、あまりに突然のこと過ぎてどう反応すれば良いのか分からない。
ちなみに繭奈もこちらを見て目をかっぴらいている。その様子に彼女の友人たちも怖がっているが、今はそれどころではない。
「どしたーん、なんで固まってんの?もしかして嫌だった?」
「あっえっ……ぃいやいやいや、そういうことじゃなくて、えっ、なんか距離近くてびっくりしたから……」
「ツレないことゆーな!夏休みに沢山遊んだじゃーん!」
抱きついたままの冬夏が、駄々をこねるように身体を前後に揺らす。おかげで柔らかいものが背中を刺激するが、それどころの話ではない。
すっかり静まり返ってしまったクラスに気付いた俺は、どうやって誤魔化そうかと冷や汗をかく。
いや誤魔化すとか無理やろ。誰が納得するんだよこの様子じゃまるで冬夏と付き合ってるみたいじゃん。頭が真っ白だぞ。
「なっなぁ笹山?なんで、えっ、蔵真とそんな仲良かったっけ……?」
「はぁ?悪い?」
冬夏に声をかけてきたのは、クラスのイケメン野郎である。随分と引き攣った声を出しながら、精一杯笑おうとしている。
あまりにも動揺してしまっているせいで、いつものキラキラした感じは見る影もない。そういやコイツ、よく冬夏に声かけてたっけ。
しかし、冬夏の反応はどこか嫌悪的であった。いつもよりも一段と声が低い。
「いやっ悪いってんじゃねぇけど、なんかイメージが、その……」
「なにイメージって、意味分かんない。アタシがどうしようと勝手じゃない?」
「あっ、まっまぁそうだな……そういゃっ、付き合ってんのか、お前ら?」
「どうでもよくない?なんでそんなこと言わないといけないわけ?」
黙ってろとばかりの冷たい態度で返す冬夏に、話しかけてきたイケメンは あぁ…と力なく返した。
こんなん誤解されるやん、やめてください冬夏さんお願いです。
結局彼は冬夏の圧に気圧されるまま踵を返してしまった。大丈夫かアイツ、顔色悪かったぞ。
「ったくめんどいなぁ……ねぇ龍彦、今日どっか遊び行こーよ♪」
「別にいいけどさ……なぁ?」
「んぇ?」
気付けよという念を込めて冬夏に視線を送ると、彼女は首を傾げた後に、あっと声を上げた。
完全に気付かなかったらしい、正直わざとかと思ってたよ。
「あー……ね?まぁ放課後のことはまた後でね!」
そう言って自分の席に向かう冬夏の背中を見送っていると、繭奈がジトッとした視線を送ってくる。アイツも我慢してるもんなぁ……
方々から懐疑的な視線を送られているものの、それに気付かないフリをして改めて茂と向き合った。
彼も俺と冬夏の関係は知っているので問題ないが、どちらかと言うと彼はこの状況に気まずそうにしている。
「ねね、龍彦くん?笹山さんと随分仲良しみたいだけど、まさかホントに付き合ってるの?」
肩を叩いて耳打ちしてきたのは告美だ。そういえば彼女と麗凪は知らないんだったな、付き合ってないぞ!一応な。
「ないよ、ただ遊ぶことが多かっただけ」
「それにしてはなんか、ベタベタしすぎじゃなかった?夏休みのときからそうだけど、あやしー……」
余計な疑念を抱かれてしまったことに、俺はただ乾いた笑いを返すことしかできなかった。面倒なことになりそうだが、その時はその時だ!
────あぁ、気が重い……




