六十話 部屋にて
温泉を上がってからの俺たちは旅館を散策し、卓球台を見つけたのでせっかくだし遊ぼうと言うことになった。茂は貝崎と二人の世界に入っていたが、その隣で繭奈と冬夏、告美と麗凪の四人で見応えのある勝負が行われていた。
汗を滲ませた冬夏を見て色っぽさを感じたが、それはそれとして俺も遊びたくなり、麗凪と二人でのんびり遊んだ。
その後に休んでいた三人も交じってひとしきり遊んだ後は、再び旅館の中を回り、売店でアイスを食べた後に部屋へと戻った。
そして俺は告美たちの部屋に来たのだ。
彼女らに促されるままに畳に腰を下ろすと、告美と麗凪が挟むように腰を下ろした。
「んぇへへぇ、龍彦くんがいるぅ♪」
やたらと嬉しそうな告美に思わずクスッとしてしまう。かなりグイグイと来るので困ってしまうけどな。
「こういうのも良いわね、お泊まりで皆で遊ぶなんて修学旅行くらいよ」
「私は修学旅行よりこっちのが好きかな。好きなように遊べるし、そこまで仲良くない子が一緒ってこともないでしょ?」
告美の言う通りだと思う。今回は友人で来ているので良いのだが、もし同じ部屋に仲良くない人がいると気まずいし気も遣うだろう。
学校のような団体だと、そもそも行動に制限が付くわけで、こうして異性の部屋に来るなんてできるわけがない。
修学旅行が悪いと言うわけじゃないが、それぞれの良さや好みがあるということだろう。
「それにしても、皆が楽しんでくれて良かったわ。この旅館 結構良いでしょ?」
「そうだな。飯は豪華で旨かったし、温泉も気持ち良かったし、なんなら部屋だって広くないか?こういうのってあんまり詳しくないけど、金額に対して釣り合ってないんじゃないかって思う」
なにせ一人 八千円もしない程度で朝夜と食事付き、夜は腹一杯に食べられたし、朝はバイキングらしい。食事ばかりに目が行きがちだが、雰囲気もそうだが居心地も良い。スタッフの対応も丁寧だった。
窓から見える景色はとても綺麗だったし、せっかくなら後で繭奈と外を回ろうかなと思っているくらいだ。
「でしょ?私もそこまで詳しくないけど、実はココって私の親戚が経営してるみたいなの。お父さんに話したら人数分予約してくれてね」
「えっ、そうだったの?」
俺の言葉に麗凪がニコッと頷いた。
実は海に行く話が出た時に、せっかくならと思って告美と麗凪を誘ったのだが、麗凪が宿泊先を探すからお泊まりにしようと言ってくれたのだ。
それから翌々日には予約ができたということで旅館と金額を教えてもらったのだが、旅館を調べた父さんが安いと驚いていたことは覚えている。
いったいどんなサイトで探したのかと思ったが、そういうことなら納得だ。これは感謝しかない。
「ありがとう麗凪。おかげで良い思い出ができるよ」
「ふふっ、どういたしまして♪喜んでくれたのならなにより。お父さんにもお礼を伝えとくわ」
「私からもね!」
どうやら告美はそのことを知っていたみたいだ。ただこの話は俺たちだけの秘密らしいけどね。
「龍彦くんに喜んでもらいたかったの。だから、私も嬉しい♪」
とても上機嫌な麗凪が、初めて見るような微笑みを向ける。こうした非日常を共有できることは、彼女も嬉しいのだろう。
「だから、明日はたくさん遊んでね?なんてね。別に恩を着せるわけじゃないし、そもそも褒められることでもないから、大っぴらに言えないの」
麗凪はそう苦笑いしながら言った。要はコネを使って安くしたわけだから、旅館側がOKを出しているとしても印象が良くないということだ。
もちろん、元々空きがあったからこそ予約ができたということなので、別に誰かの予約を蹴ったわけじゃないし、安くしたとしても身内料金のようなものだからそこまで気にしなくても良いらしいが。
「まぁそんなところね。だから、もしまた海に遊びに来るなら私を頼ってねって話。使えるものは使いましょ」
「もし機会があったらね」
パチリとウインクした麗凪に、なんとなくアピールをされたような気がした。
「そういえばさ、龍彦くんって白雪さんと仲良かったんだね?」
「突然だな。まぁなんだかんだで繭奈とは中学のからの関係だし、最近はよく喋るようになったから、仲良くなったのも最近だよ」
告美がいきなり繭奈との関係を尋ねてきた。
さすがに付き合っていることは言えない。とはいえどう誤魔化したものか……
二人からすれば、夏休みに入ったらいきなり名前呼びしてるもんな。よりにもよって仲の良くなさそうだった二人が。
「それにしては極端に距離が近いように見えたけどぉ?実は付き合ってるんじゃないのかなぁって、思っちゃうなぁ」
「そういうわけじゃないけどさ」
思ったより鋭い……と思ったが、俺たちを客観的に見たらそりゃそうだと納得した。告美の疑いも納得だ。
「変なこと言わないの、告美。龍彦くんが困るでしょ」
「そだね、ごめんね?」
「いや、気になる気持ちは分かるよ」
更なる追及があるかと思ったが、麗凪の助け舟によって内心で胸を撫で下ろす。麗凪には感謝ばかりだな。




