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五話 二人にあーん


 結局昨日からあまり寝ることが出来ず、夜中に目が覚めては寝るを繰り返したことで寝起きはかなり悪かった。

 寝ぼけ眼を擦って朝食をとり、弁当を持ってそろそろ出発しようとしたところで珍しく母さんが今から仕事に行こうとしていた。相変わらず朝食は通勤ついでに摂るのだろう。


「おはよ、龍彦……随分眠そうね?」


「おはよう……まぁ色々あってね」


「そう、もし辛いことがあったら言いなさい」


 眠そうな俺を心配した母さんが俺の頭をそっと撫でて、靴を履いて家を出て行った。俺も行かないと。



 教室に入ると俺の席の隣には春波(はるば)たちが既に来ていて、こちらに気付いて嬉しそうに手を振った。


「おはよっ、蔵真くん!昨日はごめんね?先帰っちゃって」


「おはよう、別にいいよ。また良かったら一緒に帰ろう」


 誰しも事情はあるだろうし気にしなくってもいいのに、春波も山襞(やまひだ)もわざわざ謝っている。

 なので俺がそう返すと彼女らは うんっ!と笑った。



 時間が経ち今から昼食、(しげる)が相変わらずコンビニ袋を片手に俺の席にやって来て前の席を借りている。

 あっ、卵焼きに入れる塩と砂糖間違えた……朝から調子が悪いからかな?

 ちなみに俺は砂糖派である、甘いほうが好きなので。

 別にだし巻きと思えば不味くは無いが、残念ながらちょっと不服。


「ん?どした龍彦」


「いや、卵焼きに入れる砂糖を塩にしちまった。ちょっとしょっぱい」


「あれま」


 初歩的なミスをしたことでちょっと落ち込んでいるとソレに気が付いた茂が声をかけてくる。

 そのやりとりを聞いた春波がこちらを見ていった。


「なら私の卵焼きと交換する?」


「え、そりゃ悪いよ。自分で作ったものはちゃんと食べないと」


 嬉しい提案だが、別に気にしなくていいと思ってそう返す。食えない訳じゃないし。

 しかし彼女は止まらない。


「まぁまぁそう言わずにさ。はいっ、あーんして。あーん」


「あっ、告美(つぐみ)ズルい」


 半ば無理やりといった感じでぐいぐいと卵焼きを突き出してくるので、無下にするのも良くないかと思ってそのままパクッといただいた。美味しい。


「っ……どっどうかな!」


「……うん、おいしいよ」


 春波が頬を朱に染め固唾を飲んで尋ねてきたので、正直に返す。ほんのり甘くて美味しいね。

 彼女はパァッと笑顔になって嬉しそうにしている。いや可愛いなおい。


「それじゃあ、蔵真くんのもらってもいい?」


「俺は構わないけど、たぶんしょっぱいよ?」


「いいよ、ちょうだい!」


 春波はそう言うと口を開けている。あっこれ俺もあーんしなきゃいけないやつだ。

 そのまま放置していても可愛くて面白いが、さすがにそれは空気を読めなさすぎなので、その小さな口に合うほどの大きさに切って、ソレをその口へ運ぶと彼女はパクッと食べた。

 山襞が小さな声で いいなぁ と言っているが、これを食べても同じことが言えるかな?

 しかし今回の卵焼きは正直 失敗なのだが、大丈夫かな?


「ん?……言うほどしょっぱいかな?」


「えっ、大丈夫なの?」


 ケロッとした様子で彼女はそう言ったが、本当に大丈夫か?でも痩せ我慢をしているようには見えない。

 切り分けたもう半分もあげてみたが、彼女は美味しそうに食べてくれた。


「うん全然 大丈夫(いける)よ。たしかにしょっぱいけどおいしいね。やっぱり蔵真くん料理上手だ!」


「あっありがと春波さん」


「わっ私も交換しよ!」


 うーんただ焼くだけなんだけどな?

 春波が嬉しいことを言ってくれるので思わずニヤつきそうになるが、山襞がそう言ったのでまた不安な気持ちになる。

 もしかしたら春波の口に合っただけかもしれないし、山襞からはドン引きされるかもしれない……

 しかし悩んでても仕方ないと、彼女にも丁度いい大きさに切り分けた卵焼きをあげてみる。


「ゴクリ……いただきます」


 固唾をのんだ彼女はそう呟いた後、差し出された卵焼きを食べた。もちろん あーんをしている。

 彼女は目を見開いて口元に手を添えている。まっまさか……


「うん、アリだね。美味しいよ蔵真くん!」


「えっほんと?」


 俺って実は結構甘党なのか?

 まぁ食べれないことは無いと思うけど、そんなに美味しい?

 もちろん山襞ももう半分を食べて美味しいと言ってくれたが……んー?


 俺って実は料理上手?なんて自惚れてしまうくらいには二人の褒め方は上手だった。

 ちなみに山襞は肉団子をあーんしてくれました。美味しかったです。


 ……なにか色々と盛り上がりすぎた気はするが、まぁいいか。

 ちなみに茂と貝崎(カノジョ)も俺らのソレに感化されてイチャイチャしていた。進展が早すぎる。

 あれ?でも俺も大概じゃね?



 食事が終わって用を足しに教室を出て、また戻って来たところで白雪とばったりと会ってしまった。

 うわー最悪、気まずいわー……

 彼女はジトッとした目で俺を睨み、これみよがしにため息を吐いた。


「お昼時だというのに甘ったるいモノを見せつけないでちょうだい。嫌がらせのつもりかしら」


「ぅっ、ごめん……」


 それを言われると辛いところで、苦々しい気持ちになっていると彼女はまた大きくため息を吐いてすれ違っていった。やっぱ嫌われてるよね、やはり昨日のことは夢だった……?


 正直彼女とは一昨日までの感情で接していたいので、できればそのままフェードアウトしていってもらいたい。

 あんな風に言われて好きって言われてもね、いやまぁよくよく考えたらさっきの俺も節操なしみたいなことしてたけどさ……


 まったく、気が重いよ。


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