五十八話 温泉
夏休みに一泊二日の旅行に来た俺たち。夕方になって旅館にてチェックインを終え、先ほど食事をしたところだ。
美味しく豪華な料理に舌鼓を打った後は、旅館のウリとなっている温泉に入ることした。当然だが男女別であるため、久しぶりに茂とゆっくりした時間を過ごせる。最近はお互い恋人との時間を楽しんでいたからなぁ……
「ふぅー……たまんねぇー」
身体を洗った後、温泉に肩まで浸かった茂が気持ちよさそうな声を出した。俺もそれに続くと、大きく息を吐いて声を出す。
「最高だな」
よくテレビ番組とかで、温泉に浸かった人が大袈裟に極楽と言っている様子は目にしていたが、これが意外と大袈裟でもない。
少し熱いくらいの湯加減と、大きく身体をリラックスできる温泉に特有の雰囲気が、思った以上に心地良い。
温泉が好きになりそうだなと思いながら、二人でなにも言わずにその心地よさを楽しんだ。しかし、入ったのは屋内風呂だ。
つまり、本命である露天風呂には入っていない。数分ほど浸かった後に、茂に声をかけた。
「そろそろ露天風呂に行くか?」
「ん……?あっあぁそうだな。気持ち良すぎて忘れてたぜ」
俺の提案に茂は一瞬ポカンとしていたものの、すぐに頷いた。気持ちいいのは納得なので、気持ちは分かると首肯する。
湯船から上がって外に続く引戸を開けると、外の風が入り込んでくる。温泉に浸かったことで身体が温まっているからか、その風が心地よく感じた。
二人で露天風呂に足を入れ、ゆっくりと肩まで浸かる。これがまた温かくて気持ちいい。
「そういや、色々気になってんだけどよ」
「ん?」
隣にいる茂がそう切り出したので、顔をそちらに向ける。
「龍彦が白雪と付き合い始めたのって、そんな前じゃなかったよな。まだ一ヶ月前とか」
「そだな」
「ってことぁよ、付き合ってからもアイツ、お前にキツイ言い方とか、そんな感じにしてたのか?」
確かに、学校では一応関係を隠しておこうって話になっているから、白雪モードの繭奈であることは間違いない。
白雪モードとはつまり、付き合う前の、ことあるごとに毒を吐いていた繭奈のことである。
茂の言う通りなので、首を縦に振って肯定の意を示す。
「んーで、学校終わってからイチャイチャしてたとか、そんな感じか?」
「まさにそうだな。特にウチは両親共に仕事ばっかで家にいないから、よく連れ込んだりして」
「なんかイメージできねぇけど、昼のこと考えたら納得だな」
多分夏だし、暑さでネジが壊れて緩んだのだろう。隠しきれていないことを考えると、熱に浮かされているのかもしれない。
俺としては可愛いし慣れたもんだが、茂からすれば困惑が勝っているみたいだ。
「なんか今日は、白雪に対する考えが変わったぜ」
「そのうち慣れるよ。冬夏だって最初はそうだったしな」
「笹山もかよ……そういや、いつの間にかアイツも落としてるし、マジで何やったんだお前」
随分と失礼な物言いである。冬夏に関してはいつの間にか仲良くなっていたのだ。繭奈繋がりだけど。
「落としてはねぇ。単純に繭奈の繋がりで仲良くなっただけだ。なんなら最初はかなり嫌われてたもんだ」
「マジか。白雪のおかげってことか?」
その言葉に そゆことと返しながら頷く。それから暫く、ゆっくりと喋りながら温泉を堪能した。
女風呂の方でどんな会話が繰り広げられているのか、俺に知る由はない。
───────────
龍彦くんと別れて温泉に入った私たち。一緒に入っている春波さんたちの胸を見て、私は思った。
龍彦くんって、小さい方が良いとかあるのかしら?
山襞さんはともかくとして、春波さんの胸は私たちの中で一番小さかった。もし龍彦くんが筋金入りの貧乳好きだとしたら……
「アンタ、人の胸ジロジロ見るのやめなー?もしかして龍彦の好みでも考えてんの?」
色々と考えていたせいで、春波さんの胸を思わず見つめてしまった。私にそっちの気はない。
そんな私の頭をパシッと叩いて、冬夏がツッコミを入れる。私の考えを当てている彼女は、相当勘が良いみたいね。
「よく分かったわね。それだけ私たちの関係が長いということかしらかしら?」
「いやだって繭奈だもん」
「なんの話してるの?」
私たちのやりとりを見ていた春波さんが、首を傾げて尋ねる。別に隠すことでもないので、そのままの答えを告げた。
「いえ、大した話じゃないわよ。龍彦くんって胸が大きい方か小さい方か気になっただけ」
「大したことじゃん!」
まさかの食い付き、気にしたところで龍彦くんの意識が春波さんの方へ向かうことはないのだけれど、それを伝えるのはあまりに酷ね。
「確かに龍彦くんの好み、私知らない!うぅーもしおっきい胸好きだったらどうしよ、私小さいし……」
「始めといてなんだけど、龍彦くんはそんなこと深く気にしないと思うわよ?なんならどっちも愛してくれそうね」
「変な話しないでくれるかな、一応人もいるし……」
苦笑いした山襞さんの言葉にハッとする。彼女の言う通りね、あくまでここは温泉で、他に人もいるわけだから大っぴらにする話でもない。
「それもそうね、失礼したわ」
そういうと、山襞さんは苦笑いで返した。




