四十六話 祭りとナンパと
小春さんと別れてしばらくの間 冬夏と祭りを楽しみ、繭奈たちと合流した。当然だが告美たちも一緒だ。
しかし、繭奈に声をかけようとしたところで一悶着起きることになる。
当然ながら、繭奈は贔屓目に見ても凄い美人だ。可愛さと綺麗さを兼ね備えた素敵な女の子。
だからこそ、こんなお祭りの時にナンパされるというのは、おかしな話ではなかった。なんなら告美たちもいるからね。
「辞めてもらえるかしら、あなた達と回るつもりはないの。何度誘われても行くつもりはないわ」
「まぁまぁそう言わずにさ?俺だって楽しませる自信あるし、食わず嫌いみたいなことしないでちょっとだけさ、君たちもそれくらいならいいだろ?」
どこか軽薄そうな男が繭奈に声をかけていた。
それを見ているとなんとなく不愉快な気持ちになる。あの男が茂なら、こんな気持ちにはならないんだろうけどな。
共にしている告美たちも、不快感を露わにしている。
「おまたせ」
「あっ、龍彦くんおかえりなさい」
「あ?誰お前」
俺が声をかけると、繭奈を差し置いて告美たちがこちらに寄ってきた。ちょっと待て俺の目当ては繭奈だ。
男の方は俺を見て青筋を立てながら、低い声で唸ってくる。
「龍彦くんやっと帰ってきた。もしかして笹山さんとイチャイチャしてたの?」
「そういうんじゃないけどさ、なんか面倒事になってるね」
俺の腕を抱くようにした告美が首を傾げる。頼むから誤解を招くような発言はやめてくれ、麗凪も頷いてないで。
その最中、両腕を告美と麗凪に取られている俺を、繭奈は背もたれにした。
「まぁ、こういう訳だから、他を当たってくれるかしら」
「は?」
冷たく言い放った繭奈に男は返す。彼女の表情は見えないが、おそらく相当に冷たいもののはずだ。
というか、両サイドにいる二人の目はかなり冷たい。いつぞやか見た表情、それは侮蔑か軽蔑かの情を表していた。
「さっきから迷惑なんですよね。私たちこの人と遊びたいんで、よそ行ってください」
「は?は?」
告美にもそう言われ、だんだんと男の青筋が増えていく。なんなら顔も赤くなってきているし、頭に来ているみたいだ。
しかし、それは周りの四人も同じのようだ。まぁ俺も不快感が凄いんだけどね。
「あー、マジムカつくわー。こんなクソみてぇな男が良いとか趣味悪っ!それならここでぶっ殺してやってもいいよな?おいてめぇコラ、女に守られてチョーシ乗ってんなよ」
なにやら変にイキがっているこの男、見た感じ大したことはなさそうだ。俺としてはここでしっかり相手をしてやりたいのだが、如何せん前に繭奈、両手に告美と麗凪、後ろに冬夏と囲まれているためそれはできない。
「別に乗ってないんだけどな、断られてるんだから他の人のとこ行けばいいと思うんだけど、なんでこっちに執着するのさ」
「あ?てめぇには勿体ない女たちだから俺が貰ってやるってんだよ。感謝するべきだろ、俺の方が喜ばせてやれるんだから」
「???」
謎に自信満々になっている男、皆ドン引きである。それはもちろん俺もだ。
今までこんなノリでやってきたとしたらあまりに不憫だ。誰にも咎められず、醜態を晒し続けたままで可哀想な人だな。
「いや普通にありえないから」
「そうね、私も無いわね。あなたみたいにつまらない人に興味ないわ」
「黙って聞いてれば随分とイタい人ね。恥ずかしいと思わないの?」
「あの、ホントにほっといてもらえません?迷惑です」
冬夏の一言を皮切りに、繭奈と麗凪と告美が続く。というか、ナンパというのはある意味ベタな展開だけど、いざ経験するとめんどくさいな。
「本当にめんどくさいから、もうやめてもらえないかな?みんな嫌がってるし俺も嫌だし、アンタのツレもうんざりしてるみたいだよ」
「んだとてめぇら……あ?なんだよ……げっ!」
女性陣と俺の本音にキレようとした男が、ツレに肩を叩かれて振り向くと、そこには誰やらが立っていた。
俺は知らない人だけど、冬夏がその人を見て あっと声を上げる、
「っクソ、めんどくせぇな……」
ナンパ男はそう捨て台詞を吐いてそそくさと立ち去っていった。面倒事は去ったわけだね。
新たにやってきた人に礼を言おうと頭を下げようとしたところで、冬夏が話し始めた。
「ありがとね、好透さん」
「冬夏ちゃん久しぶり。それと、どういたしまして……ってほどでもなかった気がするけどね」
いつもより落ち着いた雰囲気の冬夏に、彼は応える。どうやら二人は知り合いのようだった。




