三十六話 MST(みせつけ)
俺の手を引きながらつかつかと歩く繭奈と、それに着いてくる笹山。
場所は段々と俺の家に近付いており、本当に笹山に見せつけるつもりのようだ。怖すぎるだろ。
「ねっねぇ繭奈、マジでやるの?蔵真が困ってるけど……」
「大丈夫よ冬夏。龍彦くんは事が始まればノリノリになるから」
「そんなことはない、やめてくれ」
ずんずんと突き進む繭奈に声をかけた笹山だが、どうしてか繭奈は俺なら大丈夫だと思っているようだ。普通に困るのでやめて欲しいんだけどなぁ……
気付けば俺の家に到着し、繭奈がドアを開けろと圧を掛けてくる。笹山もなんとか彼女を止めようとしているが、焚き付けた本人であるため聞く耳を持たれていない。
「ねぇ龍彦くん?開けてくれるかしら♪」
「あっと……うん」
俺もだいぶチョロいということか、大好きな繭奈に圧という名のおねだりをされたことで、躊躇は完全になくなった。
扉を開けて玄関に二人を入れ、そのまま自室へと案内する。
繭奈はもうその気満々のようだ。俺も触発されている。
「ふふ♪龍彦くん大好き♪」
部屋に入るなり繭奈は俺を抱きしめて、そのままベッドへと押し倒した。笹山は顔を真っ赤にしながらまじまじと眺めている。
「ちっちょっと、本気でやるつもり?いくら何でもその、見せつけるのはちょっと……」
「あら、冬夏ったらそんな見た目で純情なのね?」
顔を真っ赤にしている笹山にニヤニヤしながら繭奈が言った。繭奈の言うその見た目とは、笹山の髪色や服装に他ならない。
髪は金髪に染め、服はまさにギャルっぽいと言った感じ。見た目に反してピアスはないけど。
「見た目は従姉妹のお姉ちゃんリスペクトなの!これは関係ないからぁ……って、そうじゃなくて、せめて恥じらいとかさっ……ひゃっ!なんて格好して……はわわ」
あれこれと弁明している笹山を他所に、繭奈は完全に火がついたようで服を脱がせてきた。
同時に自身の服をはだけさせ、かなり色っぽい格好をしている。
それを見た笹山は両手で顔を隠している……が指の隙間からは彼女の綺麗な瞳が見え、なんだかんだ気になっているということが分かる。
「そうは言っても興味はあるクセに。別にこういうことに興味があるのはおかしい事じゃないのよ?むしろ年頃なんだから当たり前なの。でも触るのはダメだからね」
「うぅ……」
あうあうと可愛らしく戸惑っている笹山を忘れ、ついに一糸まとわぬ姿となった俺たちは行為を始めようとしていた。俺も大概である。
「うそうそうそ、ほんとに?ほんとーにやるのぉ……?」
何やら呟きつつも目を逸らさない笹山は、無意識なのかは知らないが下腹部に手を伸ばしていた。
とことなく息も荒く、気分が高揚してるであろうことは見て取れた。
少し時間が経ち、一区切りを終えた俺たちは抱き合ったまま笹山を見た。そーいやいたね。
「分かったかしら冬夏?あなたがどれだけ龍彦くんを誘惑したところで、既に私とラブラブなのよ。あなたの付け入る隙はないわ」
ラブラブとか久々に聞いたわ。したり顔の繭奈に笹山がぐぬぬと言っている。ぐぬぬも久しぶりだなおい。
「うっ羨ましぃ…じゃなくて!なんてもん見せてんの、この変態!」
「今更すぎるだろ」
事が終わってからそんなことを言われても困るのだが……しかも羨ましいって言ってしまっている。本音かな?
「そうね、私は変態よ。でもね、あれだけ煽られたんだから見せつけるのは当然でしょ?龍彦くんのことが好きなのは分かるけど、そう簡単には手を出させないわ」
「別に好きとかじゃないし!」
「そりゃそーだ」
まともに喋るようになったのがついさっきだというのに、どうしてそうなるのか。
繭奈の頭の中はどーなってんねん。
「えっそうなの?私てっきり……」
「まぁ確かに蔵真が良い奴なのは分かったけどさぁ……繭奈も相当好きみたいだし、そりゃその分カッコよくも見えるよ。ってかめっちゃいい身体してんじゃん、ヤバ……」
なぜか俺の身体を見た笹山が顔を真っ赤にして触れてきた。おい、その下に伸ばした手を止めろ。
「ふふ、冬夏にも龍彦くんの良さが分かった?」
「………………うん」
繭奈の問いかけに精一杯溜めた後、顔を真っ赤にして顔を逸らしながら笹山が頷いた。
そのあまりの可愛さに俺は言葉を失った。




