三十五話 繭奈のスイッチ
あれからじっくりと話し合った結果、今回の支払いについては俺持ちとなった
二人とも " 今回について " は納得してくれたのだが……
「せっかくだしボウリングでも行きましょうか、もちろん私たちが出すわね」
「うん、だから蔵真はどーんと構えててよ」
二人とも意見が固まったようで、ボウリングに行くことになった。気にしなくて良いのに、律儀な子たちだなぁ……
そう思っていると、繭奈と笹山が俺の両サイドに回って手を握ってきた。繭奈は分かるけど、笹山はなんで?
「よしっ、じゃー行こっか!」
「そうね」
繭奈はもう笹山にツッコむことも無くそれを受け入れており、二人して俺の手を引いてきた。
美少女二人から手を引かれていることで、正直な話だいぶ目立っている。
周囲の人たちから視線を向けられ居た堪れない気持ちになっているが、それでも気分は悪くない。むしろ優越感がすごいぞ、どーだ羨ましーだろー!
「あははっ!めっちゃニヤニヤしてんじゃん!うれしーんだ?」
「そりゃもちろん。だって笹山さん可愛いから」
「あぇっ?あぁうん!なんか嬉しいね♪」
「チョロすぎだろ」
昼前の敵意丸出しの態度はどこへやら、ちょっと褒めただけで顔を赤くしている。チョロいにも程があるだろ、いったいその胸中にはどんな変化があったというのか。
「むぅ……冬夏がいいのね、私より」
「え?繭奈が一番なのは敢えて言うことでもなくない?いつもの事じゃん」
俺が笹山のことを褒めたことで繭奈がむくれてしまった。そんな彼女も可愛いが、拗らせる必要もないので素直な気持ちを言っておく。
俺の恋人は繭奈であり、そんな彼女が可愛すぎるのはわざわざ言う必要もないくらい当たり前なのだ。
「……もっもう!龍彦くんったら上手ね♪んふんふ♪」
嬉しそうにニンマリとした繭奈が、ギュッと俺の腕を抱き締めた。柔らかな感触が二の腕を刺激してくる。
繭奈は大きいのだ。
「まぁたニヤニヤしてる。ホントに繭奈か怪しくなっちゃうなぁ……ほいっ」
「ちょっ」
繭奈をジトッとした目で見ていた笹山が何を思ったのか、俺の腕を抱いてきた。
彼女も中々にスタイルが良く、当然大きいので二の腕を柔らかく刺激してくる。気持ちいいなおい。
「両手塞がれると歩きにくいんだけど……」
「あそっか、ごめん」
「そうね、ごめんなさい」
気分はすごく良いものの、それでも両手が完全に取られてしまうと何かあった時に危ないのでそう言うと、繭奈は名残惜しそうに離れた。
「あの、笹山さん?」
「ん?」
ごめんと言いつつずっと手を握ったままである笹山に声をかけると、何食わくぬ顔で首を傾げた。可愛いなちくしょう……
「あの、手を……」
「んん?」
手を離せというに、そんな俺の気持ちを知らぬとでも言うように彼女は手を離さない。
「あれ?冬夏?ねぇ何をしてるのかしら?私が我慢してるというのに、どうしてあなたが龍彦くんにべったりなのかしら?ねぇ冬夏どういうこと?」
俺の言葉に気が付いた繭奈が、繋がれた手に気付いたことで笹山を詰めはじめた。
俺を挟んですごい圧を放っている繭奈だが、笹山は気にした様子がない。強すぎるだろ。
「だってはぐれたら困るし、繭奈が手を離したからアタシは離さなくて良いかなって」
「あらそう、それなら今度冬夏にハメ撮りでも見せてあげるわ。せいぜい龍彦くんのエッチな姿に悶える事ね」
「やめろやめろ」
外で大っぴらに言うことでは無いだろうに、ふんっと鼻を鳴らして言い放った。
周囲の人々もギョッとしており、俺も居た堪れない気持ちになってくる。やめてくれ。
「そんなの見せられたってアタシ困るんだけど?どんな反応すればいいのさ」
「へぇ?それなら予定を変えて龍彦くんの家にでも行きましょうか。やる事は決まったわね」
「ちょっと待って」
俺の家に来るのはいいが、そういうのは先に本人に伺いを立てないとダメだろう。別にいいけどさ。
繭奈がそれから俺の腕を引いて、マジでその通りにするつもりのようだ。
ちょっと待ってくれ。




