三十四話 笹山
笹山の誘いを受け、彼女と繭奈の二人と共に昼食をとろうと思い街を歩く。
どれにしようかと決めあぐねていたところ、笹山の " じゃあここにしよ " という言葉に乗って近くにあったファミレスにやってきた。
夏休み初日、まさかの友人となった笹山が何故か隣に座って、繭奈が俺の向かいに座っている。
ちなみに俺は奥なので離れることが出来ない。
ちなみに注文は既に終えている。
「あのね冬夏?龍彦くんは私の彼氏なのよ、分かってるのかしら?いくら龍彦くんが魅力的でカッコよくて素敵なのは分かるけど本来ならその隣は恋人である私の席なの。それを譲ってあげたのだから感謝しなさい」
ドン引きするくらい早口で捲し立てる繭奈に、笹山もドン引きしている。
だからといって距離を詰めてくるのは理解できないけどな。離れろっちゅーの。
俺たちを見ている繭奈が ぐぬぬと声を出した。
「なんか、繭奈の新しい一面が見れたのはいいけど、蔵真大変なんじゃないの?このノリってさ」
「そうでもないよ。慣れたから」
「慣れたってなに?ねぇ龍彦くん、慣れたってどういうことかしら?」
俺の言葉に食い付いてくる繭奈だが、そりゃグイグイ来られて最初は困惑してたんだよ。知ってるでしょアナタ。
「だろーねぇ……そういえば、どっちから告ったの?やっぱり蔵真から?」
「もちろん私からよ」
「はやっ!」
笹山の質問は俺に向けたものであるというのに、繭奈が答えてしまった。食い気味な返答に笹山がまたもや驚いている。
「あのね冬夏、私は中学の時からずっと龍彦くんが好きだったのよ?それなのにずっと我慢して一年が経って、それでも堪えられなかったから告白したの」
「そ、そうなんだ」
「それで私から告白しないとか有り得ないわ。そもそも龍彦くんってば私に興味なんて無かったからね」
「え、マジ?」
繭奈の言う通り、彼女と恋人同士になるまではずっとそこまで関わりたくなかったのだ
だからずっと避けつつ事なかれ主義を貫いてきたんだ。俺から告白だなんてありえないだろう。
そう思い、こちらを見る笹山に向けて頷く。
「えぇ……蔵真も知ってると思うけど、繭奈ってばかなり可愛いし人気あるじゃん?それなのに告白させる側ってアンタもかなりの強者ってわけ?」
「そういうんじゃないんけどね。ただ俺は繭奈に嫌われてると思ってたから……」
「……っ!あー……ね」
俺の言葉に少しだけ逡巡した笹山だが、すぐに理解したようでそれっぽい声を出した。
ゆっくりと頷きながら、過去のことを思い出しているようだ。
「さっきアタシが言ったペンの話?」
「イエス」
「はぁ、龍彦くんならペンだけじゃくなんでも持っていっても……」
「話がややこしくなるなら黙ってて」
一体何を思い出しているのか、繭奈が余計なことを言ってそれを笹山がピシャリと止める。
繭奈は むうぅと可愛くむくれながら押し黙った。あとでたくさん撫でてあげようね。
「でも、たしかに蔵真の言うこと分かるわー。基本繭奈ってアタシらみたいに友達だって言うなら優しいけどさ、男子連中とかには冷たいからね」
「そうだね。中学の時からそうなのは知ってたし、だから普通にしてただけなんだよね。だからなんで好かれていたのかが最初は分からなくてさ」
友達でもないんだし変にガツガツ行ったところで誰だって困るだろう。だから社交辞令の範疇を出ないようにしていただけなんだけどな。
それが理由で好きになったと聞いて困惑したもんだよ。
「ふんふん、そりゃ好かれるわ。要は誰に対してもフラットに接してたってことでしょ?たしかに安心感はあるかもね。繭奈ってモテるだけじゃなくてお高くとまってるって言われたりして、露骨に距離置かれてることもあったし」
たしかにそれは繭奈も言っていたけど、そんなに特殊なのだろうか?
あんまりイメージが湧かないのは俺がモテない男だからだろう。
「そうなのよ。どいつもこいつも変な感じで面倒ったらありゃしないのに、龍彦くんだけは私と普通に接してくれてたでしょ?だから龍彦くんと過ごしてる時間は幸せだったの」
「あーうん、そうだね。でも、それなら納得だね。罪な男だわー」
笹山も納得してくれたようだ。罪な男っていうのは意味がわからないけど。
そうこう喋っていると注文した料理が届いたので、この辺りで話を止めて食事をすることにした。
「とりあえず今回はアタシが出しとくから。蔵真には変なこと言っちゃったし」
「冬夏?龍彦くんにいい所見せようったってそうはいかないわよ? 」
食事を終えて会計をしようと言うところなのだが、繭奈と笹山のどちらが支払いをしようとバチバチに張り合っていた。
睨み合っている二人を他所に、財布を取り出して五千円をトレイに置いた。
「すいません、これで」
「はい、かしこまりました」
「「あぁっ!」」
いつまでも揉めていると店員さんに申し訳ないと思い、さっさと支払いを終える。
お釣りとレシートを受け取り、二人を連れて店の外へと出る。
「ホントごめんね蔵真……」
「いいって別にこれくらい」
「いやダメでしょ、だってアタシあんな酷いこと言ったのに……」
どうやら先のことについて気にしているようだ。意外と律儀だなと感心しつつ、彼女の厚意を手で制した。
俺の意思で支払いをしたのだから、これ以上話をしても仕方ないだろう。
「いいってば、俺がやりたくてやった事だし」
「そういう訳にもいかないわ。せめて私たちが半分ずつ……」
「いやえっとその……」
古い考え方かもしれないが、女の子に払わせるだなんてことはあまりさせたくないのだ。
その考えは彼女らは認めたくないようで、説得をするのに随分と時間がかかってしまうのだった。




