二十三話 彼女の回想(3/5)
龍彦くんと途中まで一緒に帰った次の日、彼はお昼に春波さんと山襞さんとお弁当の食べさせ合いをしていた。いわゆるあーんというヤツね、うやらましい。うぎぎ……
どうやら彼は今日、卵焼きに使う塩と砂糖を間違えたみたい。料理するだけでも素敵なのに、ドジ踏んでしまってる龍彦くんも可愛くて大好き。
彼の料理……食べたいのに、羨ましい!
しかもあの二人、あーんまでしてもっと羨ましい!私も龍彦くんの使った箸でそんな事したいのに!まだしてないのになんて羨ましい……
私も彼の手で卵焼きを食べさせてもらいたいのにそれをして貰えない、彼女たちと私の好感度の差と昨日のやり取りで私の胸中には吹雪と台風が同時に来ていた。
脳を焼かれそうな光景に胸が ぎゅぅぅと押さえつけられる感覚に苛まれながら、その光景を見たくなくても釘付けになってしまうのだった。
そんなものを見せられたから、トイレに向かう龍彦くんとバッタリ会ってしまった時に彼につい悪く言ってしまった。またもやらかしてしまったことに頭を抱えたけど、今更でもあるわよね……
しかし、そんな私にもチャンスが訪れた。
いや……チャンスというには不謹慎ね、だって龍彦くんが悪く言われているのだから。
中学生時代に私のペンをパクったバカが私の龍彦くんを悪者とすることを大声で言った。っていうかアイツこの学校にいたのね、一年以上気付かなかったわ。
しかしなにより、もっとクソなのは春波さんと山襞さん。なぜ彼の愛を受けているというのにあんな戯言に耳を貸せるのだろうか?意味がわからないわ。
その二人からも嫌な視線を向けられた彼を守るために私がちゃんとあの時の出来事を説明した。
悲しいことに彼が私のペンを机から取り出すタイミングなどなかったことと、中心になって彼を責め立てているそのバカが犯人だということを皆に言ったのだけれど、途中の説明が悪かったみたいで、あの二人が完全に彼を嫌悪していた。アレ?おかしいわね……
そんなこともありつつ真犯人をしっかり指差すと、ソイツは教室から情けなく逃げ出してしまった。
毅然と立ち向かった龍彦くんは素晴らしくカッコよくて素敵で大好きだけど、アイツは論外で情けなくて見ていられないわね。
そんな事のあった次の日、放課後にあの二人に呼び出されたであろう 愛しの龍彦くんが話をしていた。
自分たちが彼の話を聞かずに蔑んだくせになにを擦り寄っているのか、馬鹿らしいけれど私もその一旦を担ったから偉そうなことを言えないわね、
話を終えて窓に手をかけている彼に声をかけて、しばらくの間その隣にいさせてもらった。断ると思ってたのだけれど、意外ね。
まぁ結局気が済んだら私に声もかけずに離れていくけど、そんな素っ気ない龍彦くんも素敵。
彼のその背中に声をかける。無理をして欲しくなかったから、あの二人とこれからどうするつもりなのか、それを聞いてみる。
でもそれは建前、本当に私が言いたかったのはそんな言葉じゃない。
傍にいさせて欲しい、それが私の望み。
勢いのままに彼をそっと抱き締める。抱き返してはくれないし困惑しているようだけど、それでも私の想いはちゃんと伝えた。
後は彼がその想いに応えてくれるかどうかだけれど、それは待つしかないわね。
家に帰った私は、またもベッドの上でゴロゴロとのたうち回っていた。ぎゃああああ!
ハグしちゃったやばやばやっちゃった!
勢いに任せて調子に乗って守るとか言っちゃったしやっちまった!大丈夫かしら引かれてないわよね?
恥ずかしさと後悔と不安と、龍彦くんと密着した喜びで訳の分からないままに昨日よろしく呻きながら転がっていた。
『もう、何回言わせるの繭奈!うるさいわよ!』
『ごっごめん……』
『……気になる男の子でもできた?』
のたうち回っていた私に喝を入れに来たママが私の顔をじっと目を細めてそう言った。
気になるというか、大好きすぎて頭がおかしくなってしまうくらいには好意がある男の子はいるけど……そういうことで、目を逸らしゆっくりと頷く。
『そう……ほどほどにしなさいね』
ふっと笑ったママがそう言って戻って行った。
ママが来たことで咄嗟に起き上がっていた私はポフッと身体を倒す。
……もし龍彦くんが私の気持ちに応えてくれたら嬉しいと思い、これからはもっとちゃんとアピールしようと強く決意した。
もう絶対に無関心になんてさせないぞ!




