二十二話 彼女の回想(2/5)
進学した私に起きた嬉しい出来事と辛い現実。
諦めていた恋が叶うかもしれないチャンスと、あまりにも分厚すぎる壁が同時に現れてどうにもならないと私は頭を抱えた。うぎゃー!
せっかく龍彦くんと同じ高校になれたのに、せっかく同じクラスだったのにー!でも彼は私に興味を示さない。
あの出来事より前も私に対して変に興味を示さなかったけど、それでもフラットな態度であった。
しかし今はフラットどころか完全に無関心といった様子で、だから時間を割かれたくないと面倒くさそうな態度を隠しもしなかった。ダウナーってやつ?
そんな分厚い壁に打ちひしがれている内に一年が経ってしまい、進級しても同じクラスだったことはいいものの、それでも一向に進まない関係に悶々とする日々が続いた。
二年になってクラスメイトになった春波さんたちが龍彦くんに声をかけて、凄まじい速度で仲良くなっていた。私が先に彼を好きになったというのにどうして……あ"ァーっ、脳が破壊される音ォっ!
そんな八つ当たり的な思考に染まってしまうけれど、だからこそ出し抜かれたくないからと、思い切って一緒に帰ろうと誘おうと決意した。
丁度いいことにその日は龍彦くんが日直で、しかも彼は一人で帰ることになったみたいで教室には誰も残っていなかった。
誰もいないなら私の全てを見せて押し倒してしまおうかと 良くない思考に染まるものの、そんなことをして引かれたくないと思った私はさすがにそれはしなかった。
どうすれば龍彦くんと仲良くできるのかを模索するものの、バカな私はついつい冷たくしてしまった。もちろん嫉妬も多分にあるけど。
『鼻の下のばして、随分とだらしないわね』
私にはそんな顔してくれないのに、春波さんたちにだけ見せるソレに悔しくて、心にもない悪口を言ってしまった私は心の中で転げ回っていた。
" ぎゃぁぁぁ!私のバカそんなこと言ったらまた嫌われちゃうのにホントに最低意味分かんない何してんの! "
そんな精神状態の私に、更に彼の無関心からくる謝罪の言葉が追い討ちとなる。もちろん自業自得だからどうしようもないんだけど、それが尚更私を苦しめる。
" 私には、見せてくれないのね "
心の中の私はすっかり灰になってしまい、サラサラと崩れ落ちていく中そんな言葉が口から漏れてしまう。
呆然自失としていた私は ハッとして、おかしくなった情緒のまま彼に声をかけた。一緒に帰ろうと。
当然龍彦くんは困惑していたけど、それでも一緒に帰ってくれた。優しい……好き……♪
そんな優しさに浮かれていると、私は半ば無意識的に気になっていた事を聞いてしまった。
春波さんたちのことか好きなのかと。
そして彼は昨日カラオケに行ったという爆弾を放り込んできた。当然私はショックを受けたけど、同時に羨ましくもなって一緒に遊びに行こうと口走ってしまった。
そしてまたもや困惑した彼は、私から嫌われていると思っていたと言ったので大きな声で否定した。
あまりに感情が先走り、つい出てしまった大きな声に自分でも驚く。
だから私は、自らの胸中を龍彦くんに告げた。
一度決壊した心の堤防は漏れる気持ちを止められず、その気持ちに従うままに彼の手を取り気持ちを尋ねた。
答えなんて、分かりきってるのに。
それでも自分の想いをしっかりと伝えて、勘違いをさせないようにした。
しかし今の状況に気付いた私は恥ずかしくなって、彼の手を離して先に帰ってしまった。勿体ないことをした。チクショオ"オ"!
顔が熱くなっていくのはきっと走っているからだと決めつけて、その恥ずかしさやいたたまれなさを誤魔化すように家に全速力で駆ける。
ヘトヘトになって帰宅した私は自分の部屋に入り、その瞬間転げ回った。
制服がシワになることを気にする余裕もなく、叫びながら布団の上でゴロゴロゴロゴロと先程の出来事を追想する。
騒いでいた私に苛立ったのかママが部屋に入ってきて、騒ぐ私を静かにしなさいと諌める。
しかし私をじっと見つめたママは、誰かを好きになっていることをすぐに察したみたい。
『うるさいわよ繭奈!……ってアナタ……』
『ごめっ……ごめんなさい、なっなにママ?』
ふぅんと何かを理解した様子のママだけど、それ以上はなにも言うこともなく、気をつけなさいと言って部屋から出ていってしまった。
龍彦くんには仲のいい女の子が出来ちゃったし、さっきはスベるしで私の心はすっかり寒々としてしまっていた。
やっぱり初恋を諦めるしかないのかと、涙を流しながら枕に顔を埋めるのだった。




