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揺れる馬車の窓からレモーネの屋敷がある方を見ると、今のレモーネ公爵家は以前より穏やかな雰囲気を纏っているような気がしました。今まで溜まりに溜まっていた蟠りが少しでも解けたからでしょうか。
あの後少しだけレオン様と世間話をして別れました。留学中のお話を聞いていると本当にたくさんのものを得られたのが分かりましたし、たくさん学んで楽しんできたのが声や表情から伝わってきました。割と自由の利く立場でしたのに、今回の件でいきなり将来が決まってしまったレオン様。当主になった以上制限されることが増えると思いますが、メイスフィールドへの留学が素敵な思い出になったようで私も嬉しいですね。
「殿下、僭越ながらお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なにかしら?」
「以前、公爵夫人の洗脳の話をしましたでしょう? 殿下の心理戦の強さが洗脳を解く鍵になったのは分かりますが、具体的にどのようなことをされたのですか? それから、公爵夫人はどのように洗脳したのでしょうか? ただ疑問に思っただけですので答えていただけなくても構いませんが……」
公爵夫人の洗脳をどのようにして解いたのか、ですか……
「そもそも『洗脳』というのは私が勝手に言っているだけよ」
幼い頃からあることないこと刷り込んでいたという意味では、『洗脳』という表現は間違っていないと思いますが。
「先代公爵夫人がレイモンド様に私への誹謗中傷を刷り込んだのと同じように、私も彼女の言葉は嘘でしかないことを伝え続けただけのこと。そのことをレイモンド様に気付かれないよう言葉を濁してね。つまり先代公爵夫人が洗脳した上から、さらに私が洗脳したようなイメージよ」
だから心理戦の強さはあまり関係ないと思います。シンプルに公爵夫人の言葉が虚言であることを伝えても、あの状態では私の言葉なんて信じていただけないでしょうから、率直にではなく遠回しに伝え続けました。
幼い子供は純粋ですから信じ込ませるのは簡単だったでしょうね。実の母親でもありますし。だからこそ私の言葉がレイモンド様に届くまでに膨大な時間が掛かったというわけです。
「まとめると、公爵夫人も皇女殿下もレイモンド様に自分の伝えたいことを刷り込み続けたということですか? それが知能の低い公爵令息に成り下がり、あのような騒ぎを起こす原因になった。そして殿下と腹を割って話したことがきっかけで殿下の言葉が届き、洗脳が解けた、と」
「恐らくね。私の想像に過ぎないけれど」
私への誹謗中傷を刷り込むのは構いませんが、それによって今回のような騒ぎが起こされると大変だと思って奮闘していました。でも間に合いませんでしたね。それでも洗脳が解けたのなら苦労した甲斐があったのでしょう。
「なるほど……では心理戦が強いだけではなく、殿下はメンタルも鋼ということですね。というより諦めが悪すぎる?」
「一途だと言ってくれる? 友人のためを想って約十年間も奮闘したのだから」
「殿下も彼を洗脳したのでしょう?」
「そうだけれど……でも先代公爵夫人と一緒にはしないでちょうだい。私の悪印象を刷り込むことなんてどうでも良かったのに、いつか今回のようなことが起こらないようにと危惧してやったことだもの。私は事実を伝えていただけよ」
「それはそれは、失礼致しました」
わざとらしく謝罪する護衛騎士の彼に呆れはしますが、いつも通りのことなので何も言うことはありません。ローデント公爵邸に帰ったら、すぐにでも王城に向かうために準備をしなければならないでしょう。話し合いと言うよりは断罪の場……事前にお父様方と決めておいた大まかな罪状を私が詳しく話すだけの場ですね。憂鬱ではありますが、これで全て片付くと考えればやるしかないでしょう。
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