2
「……はい?」
「気持ちは分かりますけど、少し落ち着きなさいな」
「私は落ち着いています」
私に話があると言ってわざわざ会いに来てくださったお母様。アーリスティンの皇帝陛下からメイスフィールドの皇帝陛下への伝言も兼ねておられるそうで、つい先程お話が終わったのだとか。内容までは分かりませんが、恐らく私達の婚約及び婚姻に関することでしょう。
後に聞いた話によると、アルバート様があの場で私に婚約を申し込んだのは私がただ捨てられただけの女と思われないように、悪い意味での噂が広まることのないように、と考えた結果だそうです。アルバート様はもっと丁寧な言い方をしてくださいましたけれど、省略するとこんな感じのことをおっしゃっていました。
アルバート様は大帝国と交流があって事前に根回しをしていたらしく、婚約のことについては皇帝陛下よりお父様を説得することの方が大変だったのだとか。
ちなみに私が浮気者扱いをされることはありませんでしたよ。それもそのはず、公の場で私の身の潔白とレイモンド様の不祥事を明かしていますからね。いくら皇女とはいえ、私にもなにか非があったのならば国王陛下直属の諜報員から報告が入っているはずですし。そもそも、アルバート様とはたまに文通をする程度の友人の域を出ない関係でしたから、私の浮気を疑う人は誰一人としていなかったでしょうね。
それはともかく……
「彼女……少々残念な頭をしておられるのは分かっていましたが、それは本当ですか? さすがにそこまでとは思いたくないですよ?」
「わたくしも信じられませんけど、この話は事実です」
お母様が教えてくださったのは元男爵令嬢の現在。彼女はいまだに自分が投獄された理由を理解しておらず、牢の中で騒ぎ続けているのだそうです。かつての可愛らしく振舞っていた姿とは似ても似つかないのだと。牢に入れられてはあの『可愛らしくて心優しい女の子』を演じる余裕もありませんものね。
「正気を疑いますが、あのご令嬢ならおかしくはないですね。他人の婚約者と浮気するくらいですから」
「今のままではまともに話を聞くことも不可能のようです。申し訳ないのだけど、一度地獄に突き落としてやってくださらない? 今よりは大人しくなるでしょう」
「えぇ……嫌ですよ」
私の言葉に頷き、地獄に突き落とす……つまり、一度顔を合わせてほしいとお願いしてくるお母様に断固拒否だと伝えます。なぜ私があの話の通じない方ともう一度お話ししなければならないのですか。
「もう彼女の話など聞かなくても良いのでは? わざわざ本人を尋問しなくとも、誰よりも罪が重いことは間違いないですよ」
「本当は意味がなくとも尋問はするべきなのだけど……カティアが言うのならそうしましょうか。近いうちに王国に来るでしょう?」
「はい。その時にすべてを終わらせたいと考えています。私は婚姻を控えていますし、いつまでもこのような話を引きずりたくはありませんから。一日だけ彼らの処遇について話し合うために戻ります。その時に気が向けば元男爵令嬢ともお会いしますわ」
「では旦那様にお伝えしておきます。その日、断罪の場において一番発言力があるのはカティアになるでしょう。覚悟しておいてください」
「分かりました」
そうですよね……お父様や伯父様よりも発言力があるというのは想像するだけで胃が痛い立場ですが、いずれこうなるのは分かっていました。覚悟を決めるしかありませんね……
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。