ふたりの好きなこと
このお話は番外編です。本編読了後にお楽しみください!!
ビュン、ビュン。
――――大斧が風を切る。
(――――身体がなまっている・・・)
朝訓練よりも少し早い時間、彼女は大斧を振っていた。今日も雲一つない快晴で空気が清々しい。
「ユリウス、正直に答えて下さい。動きにキレがないですよね?」
「?」
彼は即答出来なかった。他のことを考えていたからである。
「ユリウス?」
ビアンカはボーッとしている彼の顔を覗き込んだ。
「――――はい」
「私の大斧さばきで何か気になるところはありませんか?」
「さばき・・・」
ユリウスは少し考えてから、口を開いた。
「振り下ろす角度がいつもと違います」
「!?」
(ボーッとしていたかと思えば、恐ろしい指摘をして来る・・・。流石だな・・・)
「ご指摘ありがとうございます。少し気を付けて振ってみます。見ていて下さい」
「はい」
ビアンカは足を前後に開いて重心を落としていく。――――準備が整うと大斧をギリギリのところまで振り被って、一気に叩き落した。
ブォン。
「あっ、今の素振りは良かったです」
「――――ええ、私も分かりました。重心を落とし切れてなかったみたいです」
「解決して良かったですね、ビアンカ」
「はい」
ユリウスのアドバイスに従って、ビアンカは二百五十回ほど素振りを続けた。汗が体中から噴き出している。
彼女が大斧を壁に立てかけるとユリウスはタオルを差し出した。
「ありがとうございます。ユリウス」
「朝訓練の前に一度、汗を流した方が良さそうですね」
「ええ、つい熱中してしまいました。寝室に戻って、シャワーを浴びます」
「では、戻りましょう」
ユリウスはビアンカと彼女の相棒(大斧)を連れて寝室に戻った。
ビアンカはそのままシャワールームへ・・・。
彼女が居ない間にユリウスは書斎へ行って少し仕事を片付けようと思っていたのだが、ふと彼女の置いて行った大斧が目に入った。
手を伸ばして大斧を持ち上げてみる。ズシッとくる重量感があった。
「あの細い手首と足首で良く支えられるものだ・・・」
ユリウスは見様見真似で大斧を振ってみる。
ビュン。
しっかりと足で踏ん張っていないと遠心力で身体が持って行かれそうだ。
「ビアンカは重心を落とすのが大事だと言っていた・・・」
ユリウスは腰を落として大斧を大きく振りかぶると、一気に叩き落す。
ドッカ―ン!!!!
「あ!」
突然の事態にユリウスは茫然としてしまう。
「な、何があったんですかー!!!」
破壊音を聞いたビアンカはシャワールームから飛び出して来る。
「ユリウス!大丈夫ですかー!!!って、あれ???」
「――――すみません。調子に乗ってしまいました」
彼は手に持っていた大斧を彼女へ渡す。
「はあ?どういう状況?」
「実は・・・」
ユリウスは出来心で大斧を振ってしまったと正直に告白した。
「いや、出来心で振るくらいは構いませんけど・・・。部屋が半壊していますよ。どうするのです?」
「それは・・・」
彼は滅茶苦茶になった部屋を一度クルリと見回した。そして、愛用の杖を懐から取り出す。
「修復します」
そう言うとブツブツと呪文を唱え始めて・・・。
(はぁ、ぶっ壊しても自分で修復しちゃうのか)
瓦礫がふわふわと浮き上がり、元の位置へ戻って行く。何とも不思議な光景だった。
「これで大丈夫です。すみません、驚かせてしまって・・・」
「いえ、襲撃とかじゃないのなら別に・・・。というか、鍛錬していないのに大斧を普通に振れてしまうのが凄い・・・」
(武術は少しだけしていたといっていたが、大嘘だな。この大斧で部屋を半壊してしまうのだから・・・。この人は何が苦手なんだ?完璧すぎるだろ)
この珍事件で大陸一の魔法使いは武術にも長けていると判明。
(この人と夫婦喧嘩とか絶対にしたくないな・・・。怖すぎる)
「ビアンカ、風邪を引きますよ。シャワールームに戻って下さい」
「あ、はい」
色々と思うことはあったが・・・、チラリと時計を見ると朝訓練の開始まであと三十分もなかった。
「急いで浴びて来ます!!」
彼女はもう一度、シャワールームへ戻った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
一日の終わりのピロートークにて・・・。
「嘘でしょ?」
「いいえ、本当です」
今朝の部屋を半壊にした事件を深掘りしたところ、素振りを一回しただけであの悲劇が起きたとユリウスは告白した。
----ビアンカは唖然とする。
(床や壁に当てていないのに半壊!?風圧で?この建物は石造りだぞ!!本気か?)
「ユリウス、あまり強くならないで下さい」
「え?」
「『強い』は私の専売特許なので・・・」
「ブッ、クックックッ」
余りに彼女が真面目な顔でいうので、ユリウスは思わず笑ってしまった。
「もう、笑わないで下さい。真剣に言っているのです!!」
「分かりました。魔法だけにします」
そう言って、彼はしばらくビアンカの首筋から胸元へ指を滑らせていたのだが・・・。
「それにしても・・・」
彼は急に手を止めて、指先をビアンカの胸元から離した。
そして、上半身を起こし、彼女の足首に手を置いて、そっとさする。
「この細い足首であの重さを良く支え切れるものだと・・・」
彼は身を屈めて、彼女の足首へキスをした。
「うわわわっ!!足にそんな・・・」
ビアンカは足を後ろへ引いて逃げる。
「ユリウス、前から思っていたのですけど」
「はい」
「私の足・・・、好きですよね?」
「はい」
素直に返事をしたユリウスの顔を見て、ビアンカはハァ~とため息を吐く。
「そこは違うというべきなのでは?」
「好きなので」
彼はビアンカの足首を捕まえて、もう一度、チュッとキスをした。
「もう!他の人には絶対秘密ですよ!!」
「そうですね。絶対に言いません。――――ビアンカ、一つ良いですか?」
「はい」
ユリウスは彼女の耳元へ囁き掛ける。
「――――は好きですよね?」
その瞬間、ビアンカは上掛けを頭から被った。
「バカ、バカ、バ~~~カ!!思っていても普通、口に出さないでしょ!!」
「仕方ないですね。あなたの大好きなことをしましょう。私も好きなので・・・」
反省していない夫は今日も妻との仲をしっかりと深めるのだった。
日常編です。
何だかんだ仲の良い二人。
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またお会いしましょう!!




