紛らわしい・・・
このお話は番外編です。本編読了後にお楽しみくださいませ!!
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ビアンカはかねてから構想を練っていた『官舎に女性用の浴場を作る』という目標を実現するため、王宮へ向かった。
ところが、義理の父(国王)は緊急の用事で出かけていて・・・。
「ビアンカ、急ぎの用事か?」
「あ~、いえ、う~ん、そうと言えば、そうかなぁ~」
何故か、ピサロ侯爵(父)の元へ案内されてしまったのである。
(王宮職員の人は悪くない。きっと気を遣って、ここに連れて来てくれたのだから・・・)
「何なのだ?私はお前が思っているより忙しいのだぞ。暇で遊びに来ただけなら、デイヴィス(ビアンカの兄)のところにでも行け!」
「それって・・・、(マクシムの側近をしている)兄上は暇ということですか?」
「いや、そういうことではないが・・・」
核心を突かれて、ピサロ侯爵は狼狽える。
(マクシムは王太子を降りるらしいから、兄上はもしや・・・)
「兄上って、そろそろ、クビになるのでしょうか?」
「はぁ?」
ビアンカは何故そう思ったのかをピサロ侯爵に説明した。ピサロ侯爵は眉間を揉みながら、彼女の話を聞いていたのだが・・・。
「ビアンカ、王宮は常に人出不足だ。配置換えされることはあっても、クビにはなることはない!」
「そうなのですね!兄上は態度が悪いですから、ユリウスに推薦するのもちょっと・・・と思っていたので、他の仕事があるなら良かったです。安心しました」
ピサロ侯爵はこの言い様を聞いて、デイヴィスに同情した。彼もまたピサロ侯爵と同じくビアンカのことが大好きだからである。
「で、お前の用事は?」
ここでビアンカは本題を語った。個人資産で官舎に女性用の浴場を整備したいという話を・・・。
「――――現状で整備する予定がないのは、女性兵士の人数の問題なのかもしれませんが、シャワーだけでは疲れも取れません。本音をいうと風呂・トイレは各部屋に付いていて欲しいくらいですが、それはやり過ぎと言われそうで・・・」
「ふむ、色々と考えていたのだな。確かにその辺は見過ごされていたと言えるだろう。しかし、国に予算を申請するのではなく、お前の私財を使っていいのか?」
「国に申請をすると余計な横やりが入るでしょう?」
「――――ああ、そうだな。私は横やりを入れる方だから、それは良く分かる」
ピサロ侯爵はニヤリと笑う。
「一回限りの寄付にするのか、今後のことを考えて財団を作っておくのかというのも悩むところです」
「今後、王太子妃になった時のことを考えると・・・。個人資産を置いておくための財団を作るのは、悪くはないかも知れないな」
「そうですね。今のところ、使い道もありませんから」
ピサロ侯爵は税金対策のつもりで言ったのだが、ビアンカはそういうことには全く興味がないのでピンと来ていない。
「ならば、ビアンカの名で財団を作っておきなさい」
「はい、それで手続きはどうやればいいのでしょう?」
「それは・・・」
ピサロ侯爵は手続きの仕方を彼女に説明した。
「――――父上、ありがとうございます」
ビアンカはニッコリと笑って、ピサロ侯爵へお礼を言う。
ピサロ侯爵は彼女から笑顔を向けられたのはいつ以来だろうか・・・と、密かに感動していた。
「えーっと、次いでといっては何なのですが・・・、一つ父上に提案したいことがあります」
「何だ?」
唐突に提案と言われ、ピサロ侯爵は身構える。
「あのう、少し席を外して貰っても良いですか?」
執務室で書類を捲っている文官たちにビアンカは声を掛けた。
「その者たちは聞いたことを口外したりはしない」
「いえ、これからお話するのは超機密事項なので・・・」
「はぁ~、分かった。皆、すまないがしばらく席を外してくれ」
ピサロ侯爵の一声を受け、文官たちはサササッ~と部屋から出て行く。
(私が声を掛けても無視したのに、父上の言葉は聞くのだな!)
文官たちの陰険な感じに少しイラッとしつつ、ビアンカは気を取り直してピサロ侯爵の方へ向き直った。
「それで提案とは?」
「最近、主神ダイアが頻繁に辺境伯城へ来ています。どうやら、四季の花を楽しめる中庭を気に入ったみたいで、庭師とお喋りをしたり・・・」
「ほう、神がウロウロしているのか。本当に不思議な状況だな」
先日、ピサロ侯爵はこの世界を創ったという神、主神ダイアと辺境伯城で鉢合わせたので、当然、彼のことは知っている。
「それで、そのうち城から外へ遊びに行ってしまいそうな勢いなので・・・、先に対策をしておいた方がいいと思って」
「対策?」
「現状、主神ダイアと父上は見分けがつかないじゃないですか~」
「そうか?」
「はい、顔や背格好が似ていますし、髪型まで同じです」
ピサロ侯爵は今、長い黒髪を後ろで結っている。ちなみにリボンをほどくと癖のないサラサラストレートだ。
一方、主神ダイアは髪を結っていない。ストレートの黒髪をサラサラと靡かせている。
「同じではない。私は結っている」
「そのくらいの差では一般の方々は同じ人だと認識しますよ」
ビアンカは無理、無理と手を左右に振った。
「では、どうしろと?」
「父上、察しがいいですね。私は髪型を変えることをお勧めします」
「私が変えなければならないのか?主神ダイアではなく?」
ピサロ侯爵は不満そうに言い捨てる。
「父上、お忘れのようですが、相手は神です」
「神か・・・」
「はい」
長年、この髪型だったので、急に変えろと言われると少々名残惜しい。しかし、相手が神ならこちらが変えるしかないとピサロ侯爵は覚悟を決める。
「ならば、どうしたらいいのだ」
「短くすることをお勧めします。短髪はさわやかでいいですよ。髪を洗うのも楽です」
ピサロ侯爵は顎に拳を当てて、短髪になった自分の姿を思い浮かべる。しかし、イマイチしっくりこない。
「あっ!何なら、私と同じ髪型はどうですか?」
ビアンカと同じ髪型???
彼は想像してみた。肩口で切り揃えた髪をしている自分の姿を・・・。
「長さは良いが、前髪を揃えるのは余り・・・」
「前髪は横に流しておけばいいのでは?」
「それなら・・・」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
ピサロ侯爵はその日、散髪をして帰宅した。彼を見たアデリーナは目を見開いて固まり、デイヴィスは視線を逸らして部屋を出て行った。
――――この髪型は私に似合ってないのか!?
ピサロ侯爵は悶々としてしまう。
しかし、翌日、義理の息子が発した言葉で全てを悟る。
「恐ろしいくらい・・・、目の色以外はそっくりですね」
彼の言葉を裏付けるように知らない兵士から声を掛けられることが増えた。ピサロ侯爵のことを皆、ビアンカと間違えてしまうのだ。
主神ダイアとは間違えられなくなったが、これでは・・・。
――――ピサロ侯爵は早く髪が伸びますようにと、神に祈りを捧げる日々を送っている。
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