8 軍隊のような?
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
馬車が停止した。外からドアが開かれ、ユリウスは腰を上げる。
「ビアンカ、その武器は私が持ちましょう」
「あ、えっ?(重いけど!?)」
戸惑うビアンカを余所に、ユリウスは片手で軽々と大斧を持ち上げ、キャビンから出て行った。
(ユリウス?――――もしかして、父上の部下(文官)が非力なだけだったのか!?いや、手伝いに入ったもう一人は護衛だったぞ!!)
ビアンカは首を捻りながら、座席から立ち上がる。ユリウスが平然と大斧を持って行ったことに疑問を感じながら・・・。
キャビンから降りようと外を見て、ビアンカは息を呑んだ。
「これは・・・・」
赤褐色の岩で造られた城の入口前に制服を着た人々が並んでいたからである。
(執事、侍従、侍女、医師、料理人、庭師、警備兵・・・・、こんなに多くの人が出迎えに出て来たのか。しかも、一糸乱れぬ隊列とこの雰囲気。領主の城というよりも軍隊じゃないか!)
ビアンカの直感は当たっていた。国防最前線のこの城の使用人は全員、それなりに戦える者が集められているのである。
「ビアンカ、手を」
出迎えの人々に複雑な思いを巡らせているビアンカへ、ユリウスが手を差し出す。もう片方の手には彼女の大斧を持ったままで・・・。
(やっぱり軽々と持っている。ユリウス、ただの魔法使いではないのか?)
ビアンカはユリウスの手を取り、慎重にステップを踏んで降りていく。彼女が地に降り立つ最後の一歩まで、その場にいた者たちは静かに見守る。――――破れた背中に気を付けながら、ビアンカは無事に馬車から降りることが出来た。
二人揃って職員たちの前に立つ。
「「「お帰りなさいませ」」」
一同は声を揃えて挨拶をした。そして、一呼吸置き、美しい所作で礼の姿勢を取る。と、ここで使用人の集団から一人の男性が一歩前に出た。
「閣下、お帰りなさいませ。若奥様、お初にお目にかかります。わたくしは執事のセザンヌと申します。以後お見知りおきを・・・」
(若奥様?んんん・・・?あっ、私のことか!?)
「初めまして執事どの、ビアンカです。よろしく」
「――――ビアンカ、執事に『どの』は要らない・・・」
ユリウスは笑いをかみ殺したような声でビアンカに指摘する。
「あー、いつもの癖で・・・。失礼しました。執事、今日から世話になります」
「は、はい、よろしくお願いいたします」
このやり取りで、ビアンカが男前な性格であることを大半の者は掴んだ。事前に女戦士を花嫁に迎えると聞いていたので、騒ぎになることはない。
「夜のパーティーの準備を始める前に、ビアンカを休ませたい」
「はい、かしこまりました。アンナ、準備は出来ていますか?」
「はい、出来ております。若奥様、お部屋へご案内します!!」
執事から、アンナと呼ばれていた女性はビアンカの元へ駆け寄る。
「侍女頭、私も彼女の荷物を持って一緒に行く」
「はい、閣下。では、こちらへ」
ユリウスは片手に大斧、もう片手でビアンカの手を握って歩き出す。
「ビアンカ、こちらへ」
「え、ええ」
(子供でもないのだから、わざわざ手を繋がなくても大丈夫なのに・・・。それにもう片方の手には大斧が・・・。しつこいようだが、本当に重く無いのか?)
アンナは建物の中へ入っていく。二人も置いて行かれないよう、彼女の後へと続いた。
――――――――
案内された部屋は日当たりの良い部屋で、窓の外は崖だった。そう、断崖絶壁である。当然、バルコニーなどはない。敵が侵入しにくい様にしてあるからだ。
部屋に着くとユリウスは大斧を壁に立てかけて、アンナへ指示を出す。
「侍女頭、ビアンカに動きやすい服を」
「はい、かしこまりました」
返事をするや否や、アンナは部屋から出て行った。ユリウスはビアンカの傍に来て、手を取り、ソファーへ座らせると自分もその横へ腰掛けた。
(流れるように座らせられた!?ユリウス、凄いな・・・)
ビアンカは彼をチラリと見る。先程から感じていた。彼は人を使うことに慣れている。
(彼を見た目というか、年齢で判断してはならないような気がする。この城の使用人たちは顔つきが違う。これが国境を守る者たちの緊張感か?)
「ビアンカ、お腹は空いていませんか?」
「実は今朝、ドレスを抱えた侍女たちが宿舎に押しかけて来て起こされたので。何も食べていません。その上、コルセットを強く巻かれてしまい・・・」
(とても食べ物を流し込めるスペースなど無かった!)
「それは大変でしたね。軽食を用意させましょう。夜のパーティーも食事を楽しむ時間はあまり取れそうにないので」
「なるほど・・・。では、お願いします」
彼は部屋に残っていた侍女へ目配せをした。言葉を交わさなくとも侍女は一度、頷くと素早く部屋から出て行く。――――その結果、部屋の中に居るのはビアンカとユリウスだけになった。
「一つ聞いてもいいですか?」
「はい」
「大斧、重くなかったですか?」
ビアンカはユリウスへ直球を投げる。ユリウスは目じりを緩めてクスッと笑った。
(その笑顔は攻撃力高いって!!ああ、もう~!!)
カッコいい男は罪だわ~とビアンカが考えていると、ユリウスは人差し指を彼女の前に立てた。
「?」
ビアンカは首を傾げる。彼の行動が理解出来なかったからだ。
「見ていて」
ユリウスは大斧の方へ指先を向けた。そして、少し上に振る。
「あ、ああ!?凄っ!!」
ビアンカは驚く。大斧が宙に浮いたからである。彼女が喜んだのでユリウスは大斧を左右に振ったり、上げたり下げたりして見せた。その度にビアンカは『おお!』とか『ああ!』とか感情を声に出す。
「ビアンカは素直で可愛いですね」
そう言うとユリウスは大斧を丁寧に床へ下した。
(か、か、可愛い!?え、何処が???はぁ??)
「夜のパーティーには毒蛾が沢山舞っていますから、気を付けて下さい」
ユリウスは動揺するビアンカの手をギューッと握る。
(そんなに握られると動悸が・・・。いや、ちょっと待て、毒蛾?毒蛾って言ったよな?)
「毒蛾が大量発生!?」
「まぁ、そう言うことです。見かけたら触れないように気をつけて」
「分かりました。毒蛾と言えば遠征中、結構仲間がやられていて、あれはどくけしそうを塗り付けると更に悪化してしま・・・、えっ!?」
――――話している途中で何故かギューッと抱きしめられた。ビアンカの頭に疑問符が飛ぶ。
「どうしよう。あなたが思ったより純粋で・・・。ああ、どうしたら・・・」
「――――ええっと、ユリウス?」
「いえ、こちらの話です。失礼しました」
ユリウスは腕を緩めた。
――――コンコン。
「はい」
「お待たせいたしました。お着替えと軽食をお持ちいたしました」
侍女頭と侍女が部屋へ入ってくる。これから、ビアンカが着替えるということで、ユリウスは席を外すことになった。
「では、後でまた来ます」
ビアンカは着替えをしている間も、軽食で出された美味しい生ハムとチーズのサンドイッチを味わっている間も、先ほどのユリウスの言葉を考えていた。
そして、一つの結論に辿り着く。
(毒蛾は比喩ということか。今夜のパーティーに毒蛾のような人が沢山来ると伝えたかったのだろう。そう考えれば、先ほどの私を心配する素振りにも納得がいく。彼は、ほんのひと時一緒に居ただけで私が社交界に慣れていないことを見抜いた。――――ああ、馬鹿正直に捉えて、どくけしそうの話までしてしまうとは・・・。まぁいい、今夜は毒蛾退治でも何でもしてやろうじゃないか・・・)
しかしこの後、ビアンカはパーティーで思い知るのである。毒蛾という言葉に秘められたもっと深い意味を・・・。
★ミニ情報・今回出来てきた使用人のみ★
執事 セザンヌ
侍女頭 アンナ
侍女 エレン
侍女頭アンナのことをユリウスは『侍女頭』と呼びますが、執事は『アンナ』と呼びます。少し分かりにくいので、補足しておきます。
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