動く絵
このお話は番外編です。本編読了後にお楽しみくださいませ!!
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞお楽しみくださいませ!!
ビアンカは読書が大好きだ。
だが、身一つでやって来た辺境伯城には当然、彼女専用の本棚などない。その代わり、ユリウスの書斎や城の図書館にある書物は自由に読むことが出来る。
「なんて幸せな環境~!!ユリウス、今日も書斎の本を借りて良いですか?」
昼食を終え、午後の予定がないビアンカは嬉々として彼に尋ねる。
「ええ、お好きなものをどうぞ。私は王宮へ用事に行ってきます」
彼はソファーから立ち上がると彼女の頬と口びるにチュッ、チュッとキスを落とす。
「遅くならないように帰ってきます。夕食は一緒に食べましょう」
「はい、お気をつけて!」
ビアンカはユリウスを見送ってから、彼の書斎へ移動した。
つい最近まで、ビアンカはこの本棚から拝借したターキッシュ帝国の歴史書を読んでいたのだが・・・。あからさまに著者が身内びいきをしていて、うんざりとしてしまったのである。
具体的に言うと『これは何処の国の話だ?』というくらい皇族のことを神のように崇め奉っているところが痛々しかった。
ここでビアンカはふと想像してみる。
『あの歴史書にアホ皇子・テオドロスのことを載せるとしたら、どんな風に褒め称えるのだろうか?』と。
(いや~、アレは最初から居なかったことにされるのでは?)
ビアンカは渋い顔をする。
(あの身内びいきの著者をもってしても、テオドロスを美化するのは難問だろうからな。――――ふう、余計なことを考えてしまった。忘れよう・・・)
気を取り直して、本棚の前で読みたいものを探す。ユリウスの書棚はおおむね難しい内容のものが多い。十七歳のチョイスにしてはかなり渋めである。
『軍国化の末路、著者ロアン・シー』
『先端科学白書、著者バイター・ビッツ』
『毒辞典、編纂者シス・P・ノマン』
『仮想空間における時間という概念、著者V・R』
「どれにしようかな。あ~『毒辞典』か、毒のことを知っておいて損はないだろう。よし、これにしよう!』
ビアンカは棚から『毒辞典』を取り出し、パラパラと捲っていく。この辞典は毒の種類と製造法、そして、解毒の方法が書かれていた。
「ん?何だこれ!?」
本をパラパラと捲っていると端の方に絵が書かれていることに気付く。しかも、それは・・・。
「うそっ!!本当に!?」
ビアンカは本を一度、閉じた。そして、もう一度、パラパラパラと素早くページを捲っていく。
「うおっ!!スゴッ!!落書きの絵が動いているように見えるぞ!!これ、ユリウスが作ったのか!?」
――――感激したビアンカは何回もパラパラパラとページをめくって、動く絵を楽しんだ。
「もしかして、他にもあるのでは!?」
ビアンカは目の前の本棚にある本を確認したくなってしまう。
「よし!確認してみよう!!」
やる気スイッチの入ったビアンカは、ユリウスの書棚の本を片っ端から取り出して調べることにした。
――――――――
「ビアンカ、これは・・・」
夕暮れ時に王宮から戻って来たユリウスは絶句した。書斎の本が全て床に散乱していたからである。
「ユリウス、早かったですね!」
「この惨状は・・・。何かあったのですか?」
「ああ、これは面白いものを見つけたので~」
ビアンカは『毒辞典』を取り出して、パラパラパラと捲って見せた。
「あ~、これは・・・」
「ユリウスにこんな才能があったなんて!!驚きです!!」
ビアンカは目を輝かせている。
「あー、いえ、それは・・・」
ユリウスは言い淀む。すると、彼女は別の本を出してきて、パラパラパラと捲った。
「この髪の毛が抜けていって、最後に禿になるやつなんて最高ですね!」
ビアンカの手にある本は『王族としての心得』というマナー本だった。
「これは王子教育の本ですか?」
「――――ああ、はい」
ユリウスは楽しそうにしているビアンカに真実を告げるかどうかを悩む。
「この絵のモデルはマナーの先生ですか?」
ビアンカはまだ毛髪がフサフサの状態の絵を指差す。
「――――だと思います」
「だと思う?」
彼女は首を傾げる。
(『だと思う』っていうことは、ユリウスの先生ではないのか?)
「ん~、誰の先生?」
「――――兄さんです」
「あ――――っ」
「ビアンカ、落書きがしてあるのは兄さんから譲ってもらった本です。私は書物に落書きなどしません」
「ですよね~~~~~~。失礼しました!」
(あ――っ、言われてみれば、確かにユリウスは落書きなんかしなさそうだよな・・・。そうか、犯人はマクシムか。うん、その方がしっくりくる)
「すみません、ユーモアが無くて・・・」
ユリウスは申し訳なさそうにビアンカへ謝った。
「いえ、私の方こそ早合点をしてしまってすみません」
「ビアンカは楽しい人の方が好きですか?」
(ん?これはマクシムのことを言っているのか!?くぅ~、ヤキモチなのか!!滅茶苦茶、可愛いじゃないか~~~~、ユリウス!!)
「いいえ、私はユリウスが好きです!楽しいだけの人は要りません」
ビアンカは彼を見据えて、キッパリと答えた。
――――この瞬間、マクシムが大きなくしゃみをしたということをこの二人は知らない。
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