立役者2 ルイーズ
このお話は番外編です!!
本編読了後にお楽しみ下さい!!
「今回、ルイーズとビアンカはこの部屋を使ってくれ」
国軍第二部隊の副隊長ルパートは二人に向かって言った。
「「はい!」」
ふたりの声は掛け声がなくとも、しっかり揃っている。
「では、十五時から食堂でミーティングを行う。遅れるなよ!」
「「はい!!」」
ルパートは踵を返して、階段を降りて行く。国軍内で有名なイケメン上司は去り際までスマートだった。
――――ここはツィアベール公国との国境にあるチミテロ村である。昨日、この村を襲撃するという犯行予告が入ったため、急遽、国軍の第二部隊が派遣された。
「ビアンカ、あんた先日の戦闘で、いい働きをしたらしいね」
適度なコミュニケーションを図るのは年上の仕事と思っているルイーズは、荷解きをしながら、ビアンカへ話題を振る。いままで一緒に数々の任務をこなしてきたが、ふたりが同室になるのはこれが初めてだった。
「いい働き・・・、一体、何のことだ?」
真顔でルイーズを見据えるビアンカ。宝石のような紫色の瞳に吸い込まれてしまいそうで、ルイーズはドキッとする。――――彼女はかなり目立つ見た目をしているくせに無自覚なので、タチが悪い・・・。
「いや、私があんたに聞いているんだよ!!」
「別に特別なことは何もしてないのだが・・・」
ビアンカはぶっきらぼうに答えた。
「いや、普通に仕事をしているだけのやつが、陛下から表彰されたりはしないだろ・・・。それにあんたはまだ見習いじゃないか!」
「見習い・・・、まぁ、確かに」
ビアンカはカバンから本を取り出して棚に並べて行く。今回の任務で、ここには十日ほど滞在する予定なので、その間に読もうと思っている歴史書を持って来たのだ。
「――――えっ!?荷物はそれだけ?本気!?」
「はい、肌着と靴下があれば大丈夫なので」
髪を手櫛で梳く仕草をして、ニコッと笑うビアンカ。ルイーズは生暖かい笑みを彼女に送る。
――――片付けが終わったビアンカは椅子に腰かけて本を開いた。
「こ、この状況で、いきなり読書を始めるだとぉ~!?あんた本当に・・・・」
ルイーズはビアンカのマイペースさに呆れてしまう。なのに、戦闘の時は他の兵士たちと抜群の連携を見せるのだから、本当に彼女は謎である。
「何か問題でも?」
ビアンカは視線を本に落としたまま、淡々とした声で彼女に聞いた。
「いや、あんた本当に本が好きなんだね~」
ルイーズはカバンから洋服を取り出しながら会話を続ける。
「どんな本が好きなんだい?冒険もの?恋愛小説?それとも・・・」
「――――歴史書と地理に関する本」
「歴史書ーっ!?」
ちなみにルイーズは文字を見たら眠気を感じるタイプである。だから、いきなりハードルの高い回答が来てビックリしてしまった。
――――歴史書を読むには学者レベルの知識が必要なのである。でも、この子はまだ十四歳で・・・、これはどう考えても・・・。
「――――勉強が好きなのかい?」
「まぁ・・・、嫌いではないな」
『あんた、なぜ兵士なんかになったんだい!?将来のことを考えたら学者に成るべきだろう!!』と、ルイーズは本気で叫びそうになったが、それは堪えた。目の前に居る少女は見習い兵士である前に、この国の侯爵令嬢なのだ。
彼女に余計なことを言って、宰相の耳にでも入ってしまったら、消されてしまう。マジで・・・。
――――――
翌日、先ずはチミテロ村の現状を把握しようということになった。
三分の二の兵士は軍服を纏い、警備をするといって街頭に立ち、残りの兵士は私服でウロウロしながら、民の動きを観察していくという作戦だ。
軍服を着ているルイーズは花屋の横に立って、街を行き交う人々を眺めていた。
――――時刻が十九時になった途端、人の流れがひとつの通りに集中していく。何となく嫌な感じがした。少し警戒を強めた方がいいかも知れない。
「お~い!ルイーズ!!少し抜ける。迷子を親へ届けて来る」
突然、聞き覚えのある声がして、ルイーズは声の主の方へ視線を向ける。すると、ビアンカが大きく手を振っているのが見えた。
「分かった!!」
ルイーズは即答したものの、ビアンカの初歩的なミスにガックリと肩を落とす。何故、あの子は軍服を着ている相手に『少し抜ける』なんて、大声で言ってしまったのか。
――――その余計なひと言で、ビアンカが軍の関係者だと周囲にバレたのは間違いないだろう。厄介なことになったな~と思いながら、迷子らしき子供の方を見てみると・・・。
「はぁ?」
『何故、ジャスミン(隠された王子ユリウスを表す隠語)が、ここにいるんだ!?』
イヤな汗が背中をつたっていく。どうして、ここに・・・と、頭の中は大混乱していた。しかし・・・、しっかりと彼がこの目に映っているのだから、これは現実だ。至急、対応しなければならない。
ビアンカたちがルイーズに背を向けた瞬間、彼女は影の潜んでいる路地裏へ向かった。――――異常に気付いた影たちはルイーズの元へ集まる。
「サム、ジャスミンがここに現れた。詳細は不明だ。王宮に連絡を入れて指示を仰いでくれ!――――あとの者はビアンカとジャスミンの尾行を!――――――あたしは国軍の兵士たちを集めてくる!!」
「「「「「了解」」」」」
指示を一気に捲し立てた後、ルイーズは国軍の兵士たちが立っているポイントへと駆け出した。
――――――――
――――致命傷を負ったビアンカが地面に倒れ込んだ。ルイーズも潜んでいる影たちも、『これはどう対処したらいいんだ?』と、途方に暮れてしまう。最悪なことに彼女を治療出来る者がその場に居なかったのである。
そんな絶体絶命な時に、ビアンカの腕に縋りついていたジャスミンが突然、呪文を唱え始め・・・。
――――あの日から七年の月日が過ぎた。
ルイーズはジャスミン(ユリウス)の放った美しい魔法を思い出しながら、目の前にいる二人へ話しかける。
「閣下~、新婚旅行楽しんで来て下さいね~。お土産はお菓子がいいです!」
「――――分かった」
「ルイーズ、甘いのと辛いのはどっちがいい?」
「そりゃ~、辛いのが好きだけどさ~~~~」
ルイーズは酒を飲む仕草をした。
「――――でも、団員たちは甘い方がいいだろうね~」
『結局、どっちなのだ?』と、ビアンカは眉を寄せる。
「分かった。両方買ってこよう」
悩むビアンカをよそに、ユリウスはサッサと決断して行く。
「うぉっ!閣下は分かっていらっしゃる!!」
ルイーズはヨイショをしておくことを忘れない。
「ルイーズ・・・」
ビアンカはルイーズを見据える。急に変わった空気感に堪え切れず、ユリウスは俯いた。――――これは言うまでもなく、笑いをかみ殺しているのである。
「私がいない間の訓練メニューなのだが・・・」
ビアンカは新婚旅行に出かけている間の訓練について事細かな指示をルイーズに伝えた。ルイーズは一言一句聞き逃さないよう彼女の話を真剣に聞く。
「――――承知いたしました!!後はお任せ下さい」
ルイーズの返事を聞いて、ビアンカは柔らかな笑みを浮かべた。
それにしても・・・、仲睦まじい二人を見ていると、こちらまで幸せな気分になって来るのだから不思議だ。
去っていく二人を見送りながら、ルイーズはこっそりと呟いた。
「ビアンカ、あの日、命を落とさなくて、本当に良かったよね~」
うんうんと、ひとりで頷く。
「閣下、あの日、ビアンカを救ってくれて、本当にありがとうございました!」
堪え切れなかった思いが、一筋の涙となって彼女の頬を伝う。涙を拭いながら、雲一つない青空を眺める。
――――これからもあたしは表(リシュナ領軍の指揮官)と裏(王家の影)の両方で、ふたりを支えていく!!
決意も新たにルイーズは修練場へ向かって歩き出した。
王家の影
ルイーズ(戦士)現在はリシュナ領軍で指揮官も務めている。
サム(魔法使い)国軍魔法師団に所属している。
その他 それぞれが表と裏の顔を持つ。
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