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大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)  作者: 風野うた
番外編

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立役者1 アデリーナ

このお話は番外編です。


本編を読了された後に読まれることをお勧めいたします!

どうぞよろしくお願いいたします。

――――これは半年ほど前の出来事である。


「母上・・・、一体、どうしたのですか!?」


 ノックの音で目覚めたビアンカが急いで私室のドアを開くと、おんぼろの国軍官舎の廊下にド派手な出で立ちの貴婦人がひとり立っていた。


(いやいやいや、場違い感が半端ない!!早朝だというのに、バッチリメイクの上、羽飾り付きの帽子まで被っている・・・)


――――貴婦人の正体はビアンカの母、アデリーナである。


「もう、細かなことは気にしなくていいから~、とりあえず、部屋の中に入れてくれないかしら?」


 オホホホ~と笑顔で押して、彼女の部屋へ侵入しようとするアデリーナ。そして、若干引き気味のビアンカ・・・。


(いや、気にするだろ。会うのは二年ぶりだぞ!?)


 意味不明な状況だったが、廊下で騒ぐわけにもいかず、ビアンカはアデリーナを部屋へ入れた。


 国軍の官舎は階級によって広さや調度品が違う。


 ビアンカの私室は指揮官を務めているということもあって、一般の兵士よりも広く、少しだけ質の良いベッドと小さめのソファーセット、そして、上等とは言えない机と本棚がある。また専用の洗面所はあるものの、風呂はついていない。入浴する時はひとつ下の階にある女性兵士専用シャワールームまで行かなければならなかった。


「ビーちゃん、お部屋は・・・、これだけなの?」


 アデリーナは信じられないといった様子で室内を見回している。


 ピサロ侯爵夫人こと、アデリーナ・セーラ・ピサロはフォルトナ―ゼ公爵家の出身だ。フォルトナーゼ公爵家はローマリア王国を支える四代公爵家の一つである。


 ちなみに四代公爵家とはジョバンヌ公爵家、カナック公爵家、ポーリア公爵家、そして、フォルトナ―ゼ公爵家のことを指す。


 ※のちにコンストラーナ辺境伯爵の結婚披露パーティーで失態を犯したベリータはジョバンヌ公爵家の御令嬢である。


 歴代宰相はこの四つの家門がだいたい引き受けているのだが、当代の国王は宰相候補にピサロ侯爵を指名した。


 この時、国王は四代公爵家から横やりが入るだろうと予想していたのだが・・・。


 カルヴァドロス(ピサロ侯爵)は既にアデリーナと結婚していたため、フォルトナ―ゼ公爵が後ろ盾になってくれたのだという。――――娘のことが可愛くて仕方ない父親(フォルトナ―ゼ公爵)の親心である。


 というわけで、ピサロ侯爵は無事、宰相の職に就くことが出来た。そして、アデリーナはローマリア王国の社交界を牽引する貴婦人となったのである。


――――アデリーナはビアンカの部屋を見て呟く。


「ベルの部屋より狭いわ・・・」


 ベルというのはピサロ侯爵家で飼われている灰色うさぎのことである。


(ベル!――――懐かしいな。確かに実家のうさぎの部屋より狭いけど、一般兵士の部屋はもっと狭いぞ!!)


「――――ベルは元気にしていますか?」


「ええ、最近、子うさぎが産まれたのよ。だから、もう少しお部屋を広くしなくちゃいけないと思っていたのだけど・・・」


 アデリーナは物言いたげな視線で部屋の四隅を辿っていく。


「これでも広い方です」


 ビアンカはぶっきらぼうに答える。


「そうなのね・・・。国軍の住宅事情は改善の余地があるわね・・・」


 アデリーナはボソボソと呟く。


(突然、やって来て『狭い!』と言われても、私はどうにも出来ないぞ。それより、部屋を片付けておいて良かった。元々荷物は少ない方だが、アポなしというのは流石に・・・)


「――――で、ビーちゃん、その服装はどういうことなの?」


 ビアンカは今、裸に薄手のガウンを羽織って、腰ひもを軽く結んでいるだけの状態だった。


「あ~、寝る時はいつも何も着ていないので・・・」


「あり得ないわ・・・」


 ビアンカの回答を聞いて、アデリーナは絶句する。


「急な呼び出しも良くあるので、いつでも素早く軍服へ着替えられるようにしているのです」


「――――それなら、最初から軍服を着て寝たらいいじゃないの」


「!?――――確かに・・・」


「確かにじゃないわ!冗談で言ったのよ!!本気にしないで頂戴!!」


 アデリーナはどこからか出した扇子をビシッと音を立てて畳み、ビアンカへ向ける。


「あ、はい」


「ところで、ビーちゃん、今日はお休みなのでしょう?一緒に買い物に行くわよ」


「え、何故?」


(母上と買い物に行ったことなど、過去に一度も無い気がするのだが・・・というか、いつもは家に商人を呼んでいるじゃないか!どうして、突然出かけるなんて言い出した!?)


 ビアンカはアデリーナをジト目でしげしげと見た。何か裏があるのではないかという疑いを込めて・・・。


「買い物に行くのに理由なんて無いわ!!早く用意しなさい!!」


 アデリーナは勢いで押し切った。口で勝負しても勝てる気がしないビアンカはやむなく了承する。


「分かりました」


(本当はゆっくり起きて、午後から王立図書館で歴史書を読もうと思っていたのに・・・)


 ビアンカは計画が台無しになって内心ガッカリしていた。ただ、今まで親孝行のようなことを一度もしたことがなかったので『今日くらいは仕方ないか・・・』と、覚悟を決める。


(よし!今日は母上に付き合ってやろうじゃないか!!)





――――今思えば、あの日が怪しい・・・。


 ビアンカは自分の左手に嵌められた指輪を眺める。ダイアモンドとアメジストを散りばめた結婚指輪はサイズもピッタリで付け心地も良い。


 それに結婚式の時に来たウエディングドレスもサイズがピッタリだった。靴だけは素足で履いたらブカブカだったので仕方なく軍のブーツを履いたけれども・・・。


「――――母上も結婚式を秘密裡に用意するメンバーの一員だったというわけか・・・」


 今更ながら、ビアンカの周りの者たちの連携プレイに呆れてしまう。


(完全に騙された。あの日、ドレスや宝石をたくさん見て回って親孝行をしたと思っていたのに・・・)


「だが、あのブローチは喜んでいてくれたから、――――まあ、いっか・・・」


 二人で一緒に行った宝石店で、ビアンカはアメジストで出来た月の形のブローチをアデリーナへプレゼントした。


――――あの時のアデリーナの嬉しそうな表情は一生忘れられないだろう。


 馬車の窓から外を見れば、雲一つない青々とした空が広がっていた。遠くの空を見つめ、今頃、母はどうしているだろうかと考える。


「――――ビアンカ」


 心地の良い柔らかな声。視線を落とすと膝の上から彼女を見つめているライトグレーの瞳と目が合った。


「ユリウス、結婚指輪のサイズって、どうやって調べたのですか?」


 寝起きの彼は羽毛のような睫毛をフルフルと震わせるだけで何も答えない。


「私の母を使いましたか?」


「・・・・・」


 ユリウスは無言で意味深な笑みを浮かべる。


(はぁ~、これは正解ということだろうな)


 ビアンカは策士ユリウスのほっぺたをムニッと人差し指で押した。


ビアンカの母アデリーナは秘密裡にビアンカとユリウスの結婚を支えていた一人です。本編ではなかなか出番がなかったので番外編へ持ってきました。

楽しんでいただけたでしょうか?


いいね!やブックマークお待ちしております。

また、ご感想も是非お寄せください!!

では、またお会いしましょう!!


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