エピローグ
楽しい物語になるよう心がけています。
ビアンカとユリウスの物語もいよいよ最終話です。
どうぞ最後までお付き合いください!!
絹のような触り心地の銀髪を優しく撫でて、その後は車窓を流れる景色を見つめていた・・・。
ビアンカは今、ユリウスと馬車に乗っている。
(峡谷からだいぶん下って来た。海沿いの街道に入るには、もう少し掛かるけれど・・・)
視線を車内へ戻してみると、向かい側の席には書類が散乱していた。
――――ちなみに、その書類の持ち主は彼女の膝の上で爆睡中だ。
(ユリウスは当分、起きないだろうな~~~)
あの日、宰相が預かって来た王妃の手紙には『あなた達にハネムーンを用意したから楽しんで来て~』という旨が記されていた。
内容が内容なだけに、ビアンカは直ぐにユリウスへ王妃の手紙を見せたのだが・・・。
『――――出発は一週間後よ!楽しみにしておいてね!!』と、軽い口調で締め括られた手紙を見て、ユリウスは頭を抱えてしまった。
その理由は簡単だ。現在、彼はリシュナ領の業務、魔塔の業務、ターキッシュ帝国の面倒事を抱えていて手一杯だったからである。
彼は日付を先延ばしにして欲しいと王妃へ打診した。
しかし『ハネムーンは今、行かないとダメよ!!それにポリナン公国の大公一族があなたたちの訪問を心待ちにしているの!!』と、却下されてしまったのだ。
一方、ビアンカは『どうしてハネムーン先がポリナン公国なのだろう』と疑問を持つ。
真っ先に思い浮かんだのは公子夫妻や魔法使いアントンだ。他にポリナン公国の知り合いは・・・と考えていたら、突然、閃いた。王妃がポリナン公国の前大公の弟の娘だったということを・・・。
――――間違いなくこれが理由だろう。
また、王妃の実家があるということは、彼女の親族もそこへ住んでいるということである。
と、ここで、あることを思いついたビアンカは、ユリウスにお願いごとをした。
『ポリナン公国へ行ったら、ユリウスの祖父母に会いたいです!』
『――――ビアンカ、私はポリナン公国の祖父母と会ったことがありません。それに相手は私のことを知らないと思います』
『えっ、何故?』
『私はヴィロラーナ公爵家の・・・(王妹の子という設定なので)』
ユリウスは語尾を濁す。
『あーっ、そうでしたね!!すみません。すっかり忘れ・・・。いや、本当に無神経な発言でした。申し訳ない!!』
ユリウスが身分を偽って生きて来たということを、ビアンカはど忘れしていた。
(いや~、あれは自分でも呆れた。ユリウスは笑って許してくれたから、良かったけど・・・)
数日前の頓珍漢なやり取りを思い出して、彼女は苦笑いを浮かべる。
馬車は川沿いの道へ入った。ビアンカはカモの親子が川べりを縦一列で進む光景を目にする。お母さんカモの後ろに子ガモがヨチヨチしながらついて行く様はとても可愛いかった。
――――いつか、私もあんな風に子ども達を引き連れて歩くようになるのだろうか・・・。
(ほんの二週間前まで、一生独身だと思っていたのに・・・)
彼女は膝の上で熟睡しているユリウスへ視線を戻す。
(私のことを愛していると言ってくれる人が現れるなんて・・・。いや、本当に奇跡だな)
彼女は目を閉じたユリウスを愛おしそうに眺める。
(これが夢だったりしたら、もう立ち直れない気がする)
――――――
ユリウスがビアンカの膝の上で目覚めた時、彼女は・・・。
「ビアンカ・・・」
「うわっ!?起きたのですね!!」
「ええ、今、起きました。それは・・・、もしかして、筋トレですか?」
「えっ、あっ、はい、そうです」
ビアンカは新しい斧を両手で横向きに持ち、肘を伸ばしたり畳んだりして上腕筋を鍛えている最中だった。
「ユリウス、この大斧は最高です!!柄の握るところにほんの少しくびれがあって握りやすいし、重さも程よく・・・」
彼女は話している途中でハッとする。
(あ!もしかして、私の筋トレのせいで目が覚めたのか!?)
大斧を左に下ろし、窓の横に立て掛ける。
「すみません。安眠妨害でしたね」
「いいえ、自然に起きました。妨害されていません」
ユリウスは一度、立ち上がってビアンカの左側へ座り直す。そして、立て掛けてある大斧に手を触れ・・・。
「お気に召したのなら、タタラ工房へ追加注文を入れておきます」
「ありがとうございます。今までオーダー品は使わないようにしていたのですが、こんなに違うとは思いませんでした」
「ガストンは特別に腕が良いですから。ビアンカ、大斧に何の効果を付けるか決めましたか?」
(ああ、そうだった!希望を聞かれていたのだった!!)
ビアンカの新たな武器にはユリウスが魔法で効果を付与してくれるのだという。彼女はじっくりと考えたかったため、返事を少し待ってもらっていた。
「はい、決めました」
「では、聞かせて下さい」
「この大斧に『眠り』の効果を付けて下さい」
「『眠り』ですか?」
ユリウスは首を傾げる。今までは攻撃力の上昇や体力の回復など、武器使用者のための効果ばかり付与していたからだ。
「はい、大斧でわずかに触れて相手を眠らせられるのなら、命も奪わず、ケガも最小限で済みますから」
「――――素晴らしいアイデアですね。分かりました。早速、『眠り』の効果を付与しましょう」
ユリウスは大斧の柄を握り、ブツブツブツと小声で呪文を唱え出す。
宙に小さな魔法陣が浮かび上がって来たかと思うと、即座に大斧に吸い込まれて消えた。
(こうして欲しいということを直ぐに実現してしまう・・・、ユリウスは凄い)
魔法使いが大好きなビアンカは彼の手際の良さと計り知れない能力に惚れ惚れしてしまう。
「完了しました。どうします?試し斬りをするなら、Xを呼びますが・・・」
「X、まさかの試し斬り要員!?」
「ええ、それくらい喜んでするでしょう」
ニヤリと悪そうな微笑みを浮かべるユリウス。
「そんな・・・」
(そういえば、まだXにどんな罰を与えたのか聞いてなかったな・・・)
王国軍魔法師団の諜報員Xは先日、領都バリードで目立つ行動をしてユリウスに怒られた。その際、厳しい罰を与えられたようだが、ビアンカは内容までは聞いていない。
「では、次の休憩の時にしましよう」
「ソウデスネ(X、ガンバレ・・・)」
ユリウスは向かい側の席に散らばっている書類に手を伸ばす。
「仕事は大丈夫ですか?ここのところ、かなり無理をしていたでしょう」
ハネムーンの出発ギリギリまで、彼は連日徹夜をして仕事を片付けていた。そして、ようやくサジェやモルテに留守を任せられる状態になったのだという。
「ええ、いざという時はモルテが連絡してくると思います」
「なるほど!」
(彼とはテレパシーで連絡出来るから、何とかなるってことか・・・)
ユリウスは書類を確認しながら重ねていく。
「最後にこれを送っておけば大丈夫です」
彼は一束にした書類をポイッと宙に投げる。
「うわっ!」
ビアンカが驚きの声を上げると同時に書類はスッと何処かへ消えた。
(ビックリした~!!魔法で辺境伯城に送ったのか・・・)
「――――ビアンカ。ハネムーンで夫婦の練習をしませんか?」
「夫婦の練習?」
「はい、恋人から夫婦へステップアップするために・・・」
(え~、また、その類の・・・)
「期間は七日。目標は互いを尊敬し、愛し合う夫婦になることです」
「いや、それ・・・、既に目標を達成していますよね?」
「!!!!!」
(何だよ、その驚いた顔は・・・)
「ユリウス、折角ですからハネムーンを楽しむというミッションにしませんか?」
ビアンカは彼の案をさりげなく棄却する。
「あ~、それも良いですね」
意外と簡単に乗って来たユリウス。
「ハネムーンを楽しむというのなら、勿論・・・」
――――――続きの言葉を、彼はビアンカの耳元へ囁く。内容は言うまでもなく、閨事のアレコレである。
「なっ!?」
絶句するビアンカ。
「高みを目指して毎日、ひとつずつ試していきましょう」
「高み・・・」
(高みと言われたら断りづらいのだが!?)
――――ここで即却下しなかったことを彼女は後に後悔する。
「では、決まりですね」
「――――はい」
「それから・・・」
ユリウスは彼女の右耳を軽く食む。
「お揃いのものも探しましょう」
「――――そうですね」
ビアンカも彼の左耳へチュッと口づけを返しておく。
――――窓の外にはいつの間にか紺碧の海が広がっていた。
二人の世界に入っているユリウスとビアンカは、まだ海が見え始めたことに気づいていない。
――――大きな使命を抱えた新米夫婦の旅路は、まだまだこれからなのである。
おしまい
この82話でビアンカとユリウスの結婚にまつわるお話はおわりです。
書ききれなかったエピソードは番外編でお披露目する予定です。
お知らせは活動報告でいたしますので、気になる方は是非ブックマークを!!
ご要望が多ければ、ハネムーン編も・・・考えています。
応援よろしくお願いいたします!!
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ご評価もいただけると、とても嬉しいです。
そして、最後まで呼んで下さった皆様にお礼を・・・、
本当にありがとうございました!!
また、どこかでお会い出来ますように!!
風野うた
追記:誤字・脱字等ございましたらお知らせください。




