80 鉄拳制裁
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
辺境伯城の地下には魔法牢というものがある。名前の通り、全てを魔力で管理している牢だ。
「ユリウス、この魔法牢はいつ頃出来たのですか?」
ビアンカは真っ黒なリシュナ領軍の軍服を身に纏っている。
先ほど寝室を出る時『ビアンカ、武器は全て置いて行って下さい』と、ユリウスから指示を受けた。――――彼曰く『まだ、裁判前なので、彼を殺してしまうと不味いからです』とのこと。
ビアンカは『拳で殴るだけなので、武器は使いません』と、反論したが『ダメです』と、ユリウスに冷たく断られた。――――だから、武器は暗器も含めて、ひとつも携帯していない。
「ここは神代の頃からあったと言われています」
「神代!?どこ情報?」
「魔塔です」
(出た!!魔塔情報!!これ掘り下げていいのか?――――毎回、悩むのだけど・・・。でも、当たり障りないくらいの質問なら・・・)
「魔塔はいつ頃、出来たのです?」
「――――それは・・・、最高機密なのですが、主神・・・」
「ストップ!ユリウス、スト~ップ!!最高だろうと何だろうと機密は言わなくて良いです!!聞いたらダメなものは聞きません!!」
機密という言葉を聞いた瞬間、ビアンカは彼を制した。
(迂闊に聞いてしまったら、面倒事を抱えることになる。しかし・・・、主神という言葉まで聞いてしまった。主神って、主神ダイアのことだよな?想像していたよりも、かなり昔・・・。いや、余計なことは考えないに限る。――――忘れよう)
コツコツと歩く音が廊下に響く。魔法牢の廊下は薄暗くて、無機質な感じのする不気味な空間だ。
「結構、歩きましたね」
「はい、(テオドロスは)最奥に入れてますから」
「手前にツィアベール公国とターキッシュ帝国で暗躍していた商人も居ますけど、会ってみますか?」
(ああ、結婚披露パーティーで、リリアージュと親しそうにしていたあの商人か・・・)
「いえ、必要ないです」
「分かりました」
――――二人はテオドロスの牢の前へ到着した。
以前、刺客が入れられていた部屋よりも、遥かに精度が高そうな魔法鍵が施されている。恐らく、個々を管理している魔塔メンバ―が施したものだろう。
(エグいなぁ~、この鍵。魔塔のメンツは味方なら最高だが、敵に回すと恐ろしいことになりそうだ)
得体の知れない魔塔という存在に慄くビアンカのその隣で、ユリウスは手をスッと一振りして、魔法鍵を開錠した。
「え!?は?早くないですか?」
(おいおいおい、ユリウスは呪文も唱えなかったぞ?あんなに複雑そうだったのに・・・・)
「これはモルテが施した魔法鍵なので簡単に開けます」
「大したことがないと?」
「はい」
彼はあっさりと認める。
(私にはモルテもかなり強そうな魔法使いに見えるのだが・・・。しかし、ユリウスは自分の方が上とハッキリ断言した。魔塔主とは・・・、いや、これもあまり足を突っ込まない方が良さそうな気配・・・)
扉を開いて、中へ入ると部屋の中心にベッドがひとつ置いてあった。
ベッドの上にはテオドロスが横たわっている。青白い光の鎖で両手足、頸部、胸部、腹部、腰が拘束されていた。――――要するにグルグル巻きである。
「うっ、貴様ら・・・」
(おお、喋れるのか?思ったより元気になっているじゃないか!)
ユリウスの魔法で、彼が上下左右にポイポイ投げ飛ばされていたのを知っているビアンカは、彼の回復力に驚いてしまう。正直『二度と目を覚まさないのでは?』と、本気で思っていた。
「俺をこんな目に合わせて・・・。後悔するぞ!」
「いや、しない。元々、お前が私を略奪しようとしたのが悪い」
「お前、女のくせに!!」
(ああ、もう、この女性軽視なターキッシュ帝国の思想・・・、本当にムカつく!!)
ビアンカが反論しようとした、その時・・・。
「彼女は私の妻だ。口を慎め!」
ユリウスはテオドロスに指先を向けて呪文を呟く。
「うううう、ぐわぁぁ・・」
テオドロスは突然、声を上げて苦しみ出した。
「うわっ!?ユリウス、ダメですって!!私が一発入れる前に、こいつが死んでしまう~~~~!!」
「ああ・・・、そうですね」
彼はパチンと指を鳴らして、テオドロスに掛けた魔法を解いた。
(はぁ~、危なかった!!何なんだよ~。私より、あんた(ユリウス)の方が危険じゃないか!!あ~、もう!!)
彼女はユリウスに冷ややかな視線を送る。しかし、彼はフワッと笑みを浮かべて受け流した。
(くぅ~、微笑んだら何でも許してくれると思っているのか!――――はぁ~、本当に勝てる気がしない・・・)
「生きているうちに殴りたいので、こいつを起き上がらせてくれません?」
ビアンカは親指でテオドロスを指す。
「はい、少し待って下さい。先にいらないものを消します」
ユリウスはパチンと指を鳴らした。ベッドと青白い鎖は何処かへ消え去り、テオドロスは床へドスッと落ちた。
「うぐっ、くっ、何をしやがる・・・」
テオドロスは悪態を吐く。ユリウスは自身の手の平から金色の鎖をつくり出して、再び、彼を拘束する。そして、ハープを奏でるかの如く、優雅な手付きで鎖を操り、テオドロスを立ち上がらせた。
「ううううっ、くうううう、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
身体が痛むのか、テオドロスは呻いている。
「テオドロス、あの時、お前は私が抵抗しないのをいいことに好き勝手なことをしてくれたな。今回はそのお返しだ。しっかりと受け取れ!!」
ボグッ。
重い音がした。テオドロスは頬に強打を食らい、口から血を吐く。
――――ユリウスは背を向けた。言うまでもないが・・・、怖いのではない。戦士モードに入ったビアンカを見て、笑いが込み上げて来たのである。ユリウスと一緒にいる時の可愛い彼女と、戦士モードに入った時の鬼のような形相をしている彼女はギャップがあり過ぎて・・・、色々と辛いのである。
「お前、紫色の瞳を持つ後継者候補だからと調子に乗って、良からぬことを企んでいただろう?――――残念ながら、今世の後継者はもう決定した。要するにお前は選ばれなかったということだ!!愚かな策略は海の藻屑となった。もう、誰も助けてはくれないぞ。――――裁判にかけて、しっかりと罪を償わせるからな!!」
ドスンッ。
二発目はボディに入った。テオドロスは白目を剥く。全身から力が抜け、魔法の鎖に支えられる。
「クソが!!二発でへたばるんじゃね~!!」
ガツッ。
最後にビアンカはテオドロスの太ももを横から蹴り上げた。
「ブッ、クックッククク」
背後から笑い声がして、ビアンカは振り返る。ユリウスが床にうずくまって笑っていた。
「なっ、そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか~!!」
可愛い口調・・・。いつもの声だった。
「その切り替えの早さはちょっと罪・・・、ブッ、クッ・・・」
ダメだ・・・、笑いが止まらない。――――ユリウスは気持ちを鎮めるために深呼吸を数回した。そして・・・。
「――――ビアンカ、スッキリしましたか?」
「はい」
「それは良かったです」
ユリウスは懐から杖を出し、テオドロスへ向けた。次は何をする気なのだろうとビアンカは彼の様子を見守る。
「プレーオ」
ユリウスが呪文を呟くと同時にテオドロスの身体が床から持ち上がった。再び現れたベッドに彼を寝かせ、金色の鎖でグルグルにしていく。
「しばらく療養が必要でしょう。法で裁くのはその後です」
「カリーム皇太子の許可も貰いましたからね」
「ええ、ターキッシュ帝国と我が国の関係も変わって行くでしょう」
「良い方に向かって欲しいですね」
「そうですね」
ビアンカとユリウスは魔法牢を後にした。
――――――
二人が外に出て、中庭に差し掛かると意外な人物が待ち構えていた。
「こんなところに父上が!?なぜ?」
中庭の廊下にピサロ侯爵が立っていたのである。
「ああ、ビアンカ!!」
彼はビアンカに駆け寄って、ギュッ~と彼女を抱き締めた。
(え!?ええ?どういう状況!?父上からハグ?どうして??)
ビアンカは混乱する。
「心配していた。元気そうで良かった!」
「はい、私はこの通り元気です。――――で、お父上はどうしたのですか?こんなところまでやって来て・・・」
ここで、ユリウスがフォローを入れた。
「閣下はテオドロスに誘拐されたあなたを心配していたのです」
「心配!?」
ビアンカはひどく驚いて、ハトが豆鉄砲を食らった時のように目を見開く。
「何だ、その顔は?娘を心配するのは父親として当たり前だろう?」
(いや、父親らしいところなんて一つも・・・)
ここでビアンカの脳裏に結婚式でピサロ侯爵が『嫌ならお父様と逃げるか?』と言ったことを思い出す。
(――――無くはないか。身ぐるみを剝がされていたと聞いたら確かに心配するよな・・・。よし、ここは早く報告して安心させてやろう!!)
「父上、先ほど、テオドロスに鉄拳制裁を与えました。もう大丈夫です!!」
ビアンカはピサロ侯爵を引き剥がしながら、今し方テオドロスを殴って気絶させたと明るい口調で報告した。
「――――ビアンカ、お前は・・・」
はぁ~~~と、ため息を吐くピサロ侯爵。
ユリウスは義理の父に同情したくなる。心配で心配で山のような仕事を片付けて漸くここへ辿り着いたら、娘は犯人を殴ってスッキリした~と笑っているのだから・・・。
「――――まあいい。無事なら」
「そうですね?」
「いや、何があろうと私はお前の父親だからな!!親が心配しているのを変な顔で見るのはやめなさい」
「う~ん、それは無理かもしれないです・・・」
二人が微妙な会話をしているのをユリウスは眺めていたのだが・・・。突然、背後に此処へ居るはずのない気配を感じて振り返る。
「主神・・・」
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