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大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)  作者: 風野うた
色々決着?結婚7日目

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79 夢想と甘い目覚め

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 真っ暗闇の中で、ユラユラと何処かを漂っている。ただ、意識だけはハッキリとしていた。


 この感覚は前にも味わったことがある。――――と、ビアンカが自覚した瞬間、パッと視界が開けた。


 窓がなく狭い部屋。ランプがひとつ置かれているので、部屋の中はまあまあ明るい。壁の棚には保存用の瓶が並び、壁には乾燥した植物が吊るされている。そして、大きなツボもいくつか置いてあった。


 ドンドンドン!!


「お父様、お願いします。どうか、ここから出して下さい!!」


 長い金髪を振り乱しながらドアを叩き、外へ向かって叫んでいる女性が一人いた。


(ここは何処だ?――――倉庫のようだが・・・)


 女性の手には血が滲んでいる。彼女はどれくらいの時間、この閉じられたドアを叩いていたのだろう。


「カラ、お前を外に出すわけにはいかない」 


 ドアの向こうから怒気を帯びた低い声がした。


(この声の主は彼女の父親か?)


 ここで、ビアンカはドアに縋りついている女性のお腹が膨らんでいることに気が付く。


(何ということだ!カラという女性は妊婦じゃないか!?父親はどうして娘を部屋に閉じ込めた?この娘の結婚に反対でもしているのか!?)


 うっ、うっ・・・と、カラのすすり泣く声が聞こえてくる。


 ビアンカは彼女を助けようと、手を伸ばして・・・。しかし、手は出て来なかった。


 ここで漸く、ビアンカは自分がこの場に存在していないということ気付く。


(これは・・・夢か?――――私は夢を見ているのか!?)


 そう思った瞬間、視界が暗転した。



――――次にビアンカの目に映し出されたのは・・・。


 断崖絶壁の崖の上で、二頭の馬が立ち止まっている。騎乗しているのは紫色の目をした黒髪の少女と、長い銀色の髪を後ろで三つ編みにした少年だった。


(――――あの黒髪の子、私に似ていないか?そして、隣の少年もライトグレーの瞳で・・・。もしかして、これは未来の出来事?)


 子供たちの容姿が自分とユリウスに似ていたため、ビアンカは将来、自分が産む予定の子供たちなのではないかと疑う。


「マイア、君が成し遂げたいというのなら、僕は・・・」


「クラトス、私は・・・・。本当に出来るだろうか?」


(マイアとクラトス?何処かで聞いたような名前・・・)


「――――マイア、しっかりと自信を持て!何があろうと、僕は君と共に行く!!」


「ありがとう、クラトス。頼りにしている・・・」


 マイアはとても嬉しそうな表情を見せた。そして、視線を交わした二人は、共に力強く頷く。


(ああ、この二人は私の子ではない。この子たちは恐らく、イリィ帝国を建国した皇帝マイアと王配クラトスだ。――――マイアは主神ダイアの子だから、私と顔が似ていても変じゃない。ただ、ユリウスに似ているこのクラトスという少年の正体は分からないな・・・)


 ビアンカは以前にも、夢で過去の出来事らしきものを見たことがあった。今回もその類なのだろうかと考える。


(しかし、この記憶の断片のような夢は一体、何なのだろう。深い意味でもあるのか?)


――――ビアンカは彼女らをジーッと見つめる。しかし、ここに存在していないビアンカにマイア達が気付くことは無かった。



――――――――――



 記憶に刻まれた彼女のぬくもり、肌触り、甘い吐息と嬌声・・・。


 ユリウスは心地よく目覚め、幸せな気分へ浸る。


 昨日、二人は心を育むというプログラムに取り組んだ。そこで、互いの好きなところを言い合い、ビアンカは自分の恋心と向き合った。その結果・・・。


――――昨夜、ユリウスとビアンカは夫婦の契りを交わした。


 彼は窓際のベッドから降りて、天蓋付きのベッドで眠っている彼女の様子を見に行く。


 何故、こんなことをしているのか?――――それは寝相の悪いユリウスが気を遣って、彼女が寝付いた後に自分のベッドへ戻ったからだ。


 カーテンをスーッと引くとビアンカは反対側を向いて眠っていた。ユリウスは音をたてないようにベッドへ上がり、彼女の隣へ横たわる。


 真っ直ぐで艶々としている黒髪を一房、持ち上げて口づけを落とした。――――眠りを妨げたくはないが触れたい。彼は欲望と戦い始めた。昨夜、性欲を押さえる誓約を解いたので、今後は理性だけで何とかしなければならない。


 夜明け前に侍女頭アンナへ、今日はビアンカをゆっくり休ませると連絡を入れた。


 また、あいにくというか、タイミング良くというべきか・・・、降雨でリシュナ領軍の朝訓練は中止。兵士たちは領内の見回りパトロールへ出動して行った。


――――今日くらいは二人で部屋に籠りたい。


 ところが・・・、未明にテオドロスが意識を取り戻したという知らせが、モルテから入った。


 きっと、ビアンカは一発、彼に拳を入れないと気が済まないだろう。こんな喜ばしい日にあいつと会わせるのは癪だが・・・。


 目の前にあるビアンカの背中にそっと触れてみると、彼女はムニャムニャと何か寝言を言った。――――可愛い。ユリウスは微笑みを浮かべる。


 彼女の黒髪を優しく数回、撫でてみると、再び、ス―ッ、ス―ッと規則正しい寝息が聞こえて来た。――――抱きしめたい。彼はそっと後ろから彼女を包み込む。


「クラトス・・・」


「――――クラトス?」


 ユリウスが聞き返すとビアンカはパチッと目を開けて彼の方を向いた。


「――――あ、ユリウス!―――――おはよう・・・ございます」


 挨拶を告げたビアンカの声は、酷く掠れていて・・・。


(ああああ、声が・・・)


 昨夜の秘め事が脳裏に浮かんで来そうになり、彼女は慌てて頭を左右に振って打ち消す。


「はぁ・・・、また朝から知らない男の名前を聞かされるとは思いませんでした。――――で、クラトスって、誰ですか?」


 ユリウスは不機嫌な声でそう告げた後、ビアンカの左耳をガブッと甘噛みした。


「ううううっ、噛まないで~~~!!――――クラトスは夢に出て来た少年の名です。ユリウスに似ていました」


「夢に他の男・・・。うーん、どうやって防いだらいいのでしょう・・・」


 少年クラトスがユリウスに似ていたというビアンカの発言をユリウスは華麗に聞き流す。


「防げませんよ!!」


「嫌だ!」


「・・・・・・」


 ビアンカは半目で駄々をこねた彼を見る。


(いや、夢の中の出演者をこっちが管理するのは無理だろ。もう、本当に・・・)


「我儘を言わないの!」


 ビアンカは彼にチュッと軽く口づけをした。


「ユリウスだって、女の人が出てくる夢くらい見るでしょう?」


「―――――私は見ないです。あ~、女性の夢という意味ではなく・・・、夢自体、全く見ません」


「ああ、確かに(ユリウスは)そんな感じがしますね。眠りがとても深そうですよね?」


「ええ、だから寝相の件も気付かなかったのだと思います」


 彼は寝相の話をする時、何処となく表情が暗い。


「なるほど・・・」


(寝相が悪いのは本人のせいではないから仕方ないけど・・・。ん?あれ!?今は隣に居る・・・)


 ビアンカの表情を見て、ユリウスは彼女の考えていることを何となく察してしまった。


「あなたが寝た後、自分のベッドで寝ました。今、戻って来たところです」


「なんと!?」


(何も知らずにスヤスヤと寝ていたとは・・・)


「――――お気遣いありがとうございます」


 彼女はユリウスにお礼を言った。疲れ切って、一瞬で寝落ちしてしまった覚えがあるからだ。


「どういたしまして」


「ところで、今何時ですか?」


「八時前です」


「えっ?八時!?嘘っ!!」


(は、は、八時って!?あ~~~~、朝訓練・・・、遅刻どころか終わっているじゃないかー!!!)


「――――どうしよう・・・・」


「大丈夫です。雨が降って訓練は中止になりましたから。今朝はゆっくりしましょう」


(おおおおお~!!雨!!雨天中止!!ありがとう!!助かった~)


「それは良かったです。いきなり信用を無くすところでした・・・」


「夫婦で朝訓練を休んでも、誰も文句は言いません。なので、心配しなくても大丈夫です」


 クスッとユリウスは笑う。ビアンカはその言葉に含まれている意味に気付いてしまい・・・。


「――――察されるのは嫌です!!」


「ブッ、ハハハハハ・・・」


 頬を膨らませている姿が可愛くて、ユリウスはつい笑ってしまう。


(うううっ、バカにされている・・・。でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだから仕方がない!!)


「ところで、ビアンカ。身体は大丈夫ですか?」


「う~ん、まだ起き上がってないので、何とも言い難く・・・」


 ユリウスは身を起こして、天蓋のカーテンを全開にした。室内はカーテンの隙間から僅かな光が差し込んでいるだけでまだ薄暗い。


「朝食がドアの前に置いてあると思うので・・・」


 ユリウスはソファーの上にポイっと投げ置かれていたガウンを手に取って羽織ると、ドアの方へ向かう。


 ガチャッ、パタン。


 彼は大きなトレイを持って来た。それを一旦、ローテーブルの上に置いてから、ベッドに戻って来て、ビアンカを抱き上げた。


「う、うわっ!!待って、私だけ裸はヤダ~!!」


 まさか裸でお姫さま抱っこ(横抱き)をされるとは思っていなかったビアンカは焦った声を出す。しかし、ユリウスは騒ぐ彼女を無視して、スタスタスタとクローゼットルームへ。


――――しばらくして、二人はクローゼットルームから出て来た。浴室でシャワーを浴び、バスローブを羽織った状態で・・・。


(は~、もうっ、ユリウスのバカ・・・。ケダモノ・・・。シャワーくらい普通に浴びさせてくれ~)


「では、朝食を食べましょう」


「――――はい」


 ユリウスは大きなトレイの上に掛けられているナプキンを取る。ミルクボトルとティーポットのほか、手で持って食べれそうなスティック状の魚のフライとポテトフライにカイザーロール、果物はオレンジと林檎が美しくカットされていた。


(朝食とは思えないほど、栄養価高め。――――くぅ・・・、城の者たちは私たちが昨夜、何をしていたのかを知っているのだな・・・)


 彼女は現実逃避したくて、壁にある絵画を眺めた。聖なる泉でユニコーンが水を飲んでいる。多分、神話の一節を描いたものだろう。


「ビアンカ、疲れているのですか?」


「ソウデスネ」


「一つ、お知らせがあります」


「は~い」


 ビアンカは適当に答える。


「テオドロスが目覚めました」


「え!?」


「殴りに行きたいですか?」


「はい、行きたいです!!」


 ビアンカは即答した。ユリウスはフォークでポテトフライを刺して、彼女の前へ持って行く。


「では、しっかりと食べて、もう少し休養してから、彼の牢へ行きましょう」


 ビアンカは大きく頷くと、彼の差し出したポテトフライをパクッと食べた。



最後まで読んで下さりありがとうございます。

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