78 誓約
少し艶っぽいお話です。
(R15)
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ビアンカに微笑み掛けた後、ユリウスは右手で前髪を後ろへかき上げた。サラサラとした銀髪から水滴がキラキラと煌めきながら滑り落ちていく。
(ふお~っ、前髪を上げた。造形美が凄い。本当に水もしたたるいい男・・・、眉目秀麗・・・)
「ユリウス・・・、どうして、そんなに・・・」
ビアンカは言葉を止めて、二十秒ほどユリウスの顔を見つめてから、続きを口にした。
「――――カッコいいの~!!」
「え?」
「もう、その顔は罪ですよ・・・。好きです。とても好き・・・」
六日目の心を育てるプログラムはまだ終わっていない。だから、ビアンカは感じたことを素直に口へ出していく。
「ビアンカ、不意打ちですか」
感情のこもった声で好きと言われて、ユリウスの心は激しく揺さぶられる。
「ユリウス、忘れていませんか?私は戦士です」
彼女はユリウスの左耳に手を伸ばし、お揃いのピアスを指先でピンと弾く。
「攻撃は日常です」
「一日で習得し過ぎです」
「飲み込みは早い方なので・・・」
ユリウスは天を仰いで、フゥと呼吸を整えた。飛び級で成長するビアンカに置いて行かれないように・・・。
「私は職業柄、感情を表に出さないようにする教育を受けて来ました。ですから、今日のプログラムは自分の本心と向き合う良い機会になりました」
ビアンカは彼だけに聞かせる穏やかな口調で、言葉を紡いでいく。
「お恥ずかしながら、私はあなたを見て、カッコいいとか、可愛いとか、何でも上手くこなせて凄いとか、考え事をしている時の仕草が好きだ~とか、色々なことを一日中、考えています」
「素直さが凶器に・・・」
ユリウスはボソッと呟く。
「正直に言うと、七年前に会った少年ネロは私の恋愛対象には入りません。私にとって彼は庇護すべき者以上にはならないのです」
「でしょうね」
「ところが・・・、私は最近、出会ったユリウスという男性に恋をしています。――――教会であなたを見た瞬間、心を奪われました・・・」
ユリウスはビアンカの告白を聞いて動揺する。まさか・・・、と。
「結婚式の日に?」
「はい」
「―――――兄さんの助言、やっぱり余計だった・・・」
「えっ?」
「いえ、独り言です」
ユリウスは顔の前で手を左右に振って誤魔化す。
「ユリウス、この六日間、しっかりと時間をかけて、あなたを知る機会を作って下さり、ありがとうございました」
ビアンカは一度、両手で顔を覆って、ふぅ~~と深呼吸をしてから・・・。
「――――こころの準備は整いました。多分・・・」
「多分?」
「恥ずかしいものは、恥ずかしいのです!!!」
可愛い、私のビアンカがとても可愛い・・・。ユリウスは彼女に近寄って、ギューッと抱き締めた。
「ビアンカ、ありがとう。私を好きになってくれて・・・」
肌と肌が触れ合う。ビアンカは温かな毛布で包まれたような心地よさを感じた。もう震えることも無かったし、恥ずかしいという気持ちも暴れ出さなかった。これは心が追い付いて来たからなのだろうか。
「ユリウス・・・」
ビアンカはユリウスの腕の中から一度、身体を後ろに引いて、彼の首筋に腕を回した。豊かな胸が彼の胸板にフニッと当たる。
「――――ベッドへ」
ユリウスはビアンカに誘いの言葉を掛けた。彼女はゆっくりと頷いて、了承の意を伝える。
――――――彼はビアンカを抱き上げると寝室へ転移し、風魔法で二人の身体に付いた水を一気に飛ばした。
「ユリウス、ありがとうございます」
「どういたしまして」
返事をしながらユリウスは、彼女を丁寧にベッドへ下ろす。パリッとしたシーツがひんやりとしていて気持ち良かった。部屋の明かりはベッドサイドのランプだけついている。それでも、間近にいるユリウスの表情はきちんと見えていた。
「あと一日残っていますけど、本当に良いですか?」
ユリウスはビアンカの紫色の瞳を覗き込んで確認する。
「はい、覚悟は決めました」
覚悟という言葉を聞いて、ユリウスは軽く微笑む。ビアンカらしい一言だと・・・。
「分かりました」
ユリウスは天蓋のカーテンを引いた。
(カーテンを引くだけで、二人だけの世界になったような気分・・・)
「では、これから私の身体にかけた誓約を解きます」
「誓約?」
誓約という言葉を初めて聞いたビアンカは『それは何ですか?』というニュアンスを込めて、彼に聞き返す。
「はい。性欲を消す誓約を掛けています」
「――――えっ、何故!?」
「初めて一緒にお風呂に入った時に、これは絶対無理だと思ったので・・・」
(無理って、何がどういう・・・。いや、あまり追及しない方が良さそうだ)
ユリウスは自身の左肩に手を置き、呪文を詠唱する。程なく、彼の胸に魔法陣のようなものが浮かび上がってきた。
(凄いな。魔法陣が身体の中から浮き上がってくるなんて・・・。仕組みがサッパリ分からない)
好奇心旺盛なビアンカは魔法陣をつい観察してしまう。古代文字のようなものが軌道を描いて、クルクルと回っている。
「ここに触れてもらえます?」
彼は魔法陣の中心を指差した。ビアンカは恐る恐る指先を伸ばして、白く輝く魔法陣へ触れようと・・・。
「あ、ちょっと待って」
「はい」
「もし、途中で止めたいと思ったら、私を力ずくで止めて下さい。殴ってもいいので」
「はい?」
(いや、殴っていいと言われても・・・、その前にあの魔法で気絶させられてしまうのでは?)
ビアンカは眉間に皺を寄せる。
「では、触れて下さい」
「いやいやいや、ちょっと待ってユリウス。止めたかったら、力ずくで止めてって言いましたよね?」
「はい」
「無理ですけど・・・」
ユリウスは上目づかいで口を尖らせるビアンカを見て可愛いと思ってしまった。
「――――ああ、そうですか・・・」
「はい、私はユリウスを止めることが出来ません。どうしたら・・・」
「諦めましょうか」
「諦める?」
(諦めるって・・・、どういうこと?止められないから秘め事はしないでおこうってこと?――――かなり言葉が足りないのだが・・・)
ビアンカはさっきと反対の方向へ首を傾げる。ユリウスは迷っている彼女にハッキリと言った。
「痛くても中断はなしです。最後まで成し遂げましょう」
「――――成し遂げる・・・」
(うううっ、痛くてもとか、言われても・・・。手順すら分からないのに簡単に『はい』と答えて良いのか・・・。でも、もう、ここで止めるのは・・・)
彼はビアンカの頬を両手で包み込む。
「ビアンカ、私を信じて下さい。嫌がるようなことはしませんから」
(すみません!!その嫌がるようなことはしないって何?世の中には好きな人の嫌がることをする人がいるってこと?――――そこから分からないのだが!?――――しかし、いつまでもウジウジしている場合ではないな・・・。――――私は女戦士ビアンカだ!!さっさと覚悟を決めろ!!痛みには慣れている!!多分・・・)
「――――分かりました」
「では、魔法陣へ触れて下さい」
「はい」
ビアンカが白い魔法陣に触れるとパリンとガラスが割れるように魔法陣は砕け散った。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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