77 恐らく、今夜・・・
久しぶりのお風呂タイムです!!
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
辺境伯城の上に月が昇る頃・・・。
ビアンカはお湯に浸かって、一日の疲れを取っていた。
(朝からリシュナ領軍の兵士たちと対戦試合をして、午後は領都バリードでユリウスとデートを楽しんだ。そして、陽が落ちる頃に辺境伯城へ帰って来たら、予想外の来客が待ち構えていた)
「今日も濃い一日だった・・・」
ため息交じりのボヤキ。ユリウスはまだ仕事が残っているため、浴室にはビアンカしか居ない。
――――両手で乳白色の湯をすくい上げ、指を開いてトポ、トポ、トポと水面へ溢していく。
「程良くとろみのあるお湯。いいお湯・・・」
ビアンカは毎日お風呂に浸かれることに幸せを感じている。それにここへ嫁いで来てから、肌の調子がとてもいい。
そもそも、国軍の宿舎の大浴場は男性用だけで、女性用は個室シャワーしかない。これは差別されているわけではなく、女性兵士の人数が少ないので予算が付かないだけという明確な理由があった。
「よし、王太子妃になったら、女性兵士の大浴場を作ろう」
自分で口にしておいて、笑いが出てくる。
(王太子妃の最初の目標として風呂を作ろう!というのはふざけすぎか。ならば、各方面から不満が出ないように私財で建てるのはどうだろうか?)
「あっ、それなら、今すぐでもいいのでは!?」
これはいいアイデアだぞ!と彼女は腕を組んで、うんうんと頷く。
(あとで、ユリウスに話して、意見を聞いてみよう)
――――先ほど、ネーゼ王国の王女コルネリアは、伯母のカメリアの命で母国へ強制送還された。
(コルネリア王女はあの状態で帰国させて大丈夫だったのだろうか。意識を取り戻した後も、塞ぎ込んでいるようだったが・・・。ただ、コルネリア王女はマリウス兄上を特に嫌っているようには見えなかったのだよなぁ~)
マリウスが現れた時、コルネリアが少し恥じらうような仕草をしたところをビアンカは目撃している。だから、マリウスがあんな事務的なプロポーズをしなければ、こんな状況にはならなかったかもしれない。
一方、カメリア夫人は『姪が蜜月のお邪魔をして申し訳ございませんでした』と、ビアンカ達へお詫びの言葉を何度も口にした。
「カメリア夫人・・・、私たちは蜜月どころか、まだ初夜も迎えていない。ただ、恐らく、今夜・・・」
「ビアンカ」
「うわっ!!」
(えええ~、今の独り言・・・。ユリウスに聞かれた!?えっ、聞かれてない?)
「遅れてすみません。マリウス兄さんに手間取って」
「ああ~、マリウス兄上はかなり凹んでいましたよね」
(これはセーフか?もし聞かれていたら・・・。ううっ、秘め事を期待しているような言葉を口走ってしまった・・・、恥ずかし過ぎる・・・)
ビアンカの心配を余所に、ユリウスはマリウスのことを話し始める。
「マリウス兄さんはコルネリア王女と一緒にネーゼ王国へ戻るつもりだったようですが、カメリア夫人に断られてしまい・・・。結局、王都のヴィロラーナ公爵邸へ帰ることにしたようです」
「今夜はその方がいいでしょうね。コルネリア王女も混乱しているようでしたから」
ユリウスはビアンカの意見を聞いて大きく頷く。
「それにしても、マリウス兄上のプロポーズはあまりにも酷かったです。素敵な恋をしたいというコルネリア王女の夢を一瞬で打ち砕きましたからね」
もしかすると、コルネリアがマリウスに好意を持っているかも知れないという話は、ビアンカの憶測でしかないため、口には出さなかった。
「ええ、私もあんなに雑なプロポーズをするとは思ってなかったので驚きました。――――ただ、彼は外交官なので、私達三人(マクシム、マリウス、ユリウス)の中では、一番女性との出会いも多く、それなりに遊んでいると・・・」
(はっ?遊び人なのか!?マリウス兄上が???)
「本当に!?」
偏見だと言われるかも知れないが、ビアンカの目から見て、マリウスとマクシムはガタイの良い大男であって、ユリウスのような美男子ではない。だから、とても女性ウケが良いとは思えなかったのである。
「その質問に対する答えはノーです。女性とそれなりに遊んでいるというのは、あくまでも本人談です。信用しない方がいいと今日の出来事で確信しました」
「ああ、本人談だったのですね。それなら、納得です」
平然と失礼なことをいうビアンカ。
「だとしても、あれはダメです。婚約に至った経緯くらい相手に説明したらいいのに・・・」
ユリウスは自分がビアンカへプロポーズのひとつもせずに結婚したということをすっかり忘れている。
「そうですよね。例え政略結婚で決定は覆せないのだとしても、ちゃんと話はすべきです」
ビアンカも自分のことは何処かへ飛んでいた。
二人は向かい合って、うんうんと頷き合う。
と、ここで、――――マリウスがゴリ押しでコルネリアの手に口づけをしたシーンが、ユリウスとビアンカの脳裏に浮かんでくる。
示し合わせたわけでもないのに、二人はハァ~~~と同時にため息を吐いた。
「口づけは余計でしたね」
「ええ、マリウス兄上は、あの空気感で何故しようと思ったのだか・・・」
再び、二人はうんうんと頷き合う。
「話は変わりますが・・・、カリーム皇太子から手紙が届いたのは驚きました。そして、カメリア夫人の迫力が凄くて、圧倒されました」
「ええ、私もカリーム皇太子が義理の母とはいえ、他国のカメリア夫人を使って連絡をしてくるとは予想していませんでした。――――Xから聞いたのですが、夫人は辺境伯城へ手紙を持っていく途中で、目立った行動をしていたXに話し掛け、そのまま一緒にここへ来たそうです」
「なるほど!そういう流れで、あの謎のお茶会が・・・」
「そのようです」
(いや、X・・・。お前、諜報員だろ。――――街中で目立つ、声を掛けられる、一緒に登城・・・。ツッコミ処しかないのだが!!)
「Xはアウトですよね?」
「はい、重い罰を与えて来ました」
(重い罰・・・。内容は怖いから聞かないでおこう)
「大きな鳥はどうなりました?」
「はい、あの結界にアタックしていた大きな鳥の正体も分かりしました。あれはカメリア夫人の存在を目立たせないようにするため、夫のガシャラン公爵が自国のサーカス団に依頼して飛ばしたようです」
「サーカス団の鳥だったのですか!?」
「はい、良く調教されていたのでしょうね。結界に触れると速やかに離れて行くので、賢い鳥だなとは思っていましたけど・・・」
「そこまで分かっていたのですか?」
「はい」
早い段階で大きな鳥は結界を超えるつもりがないと気付いたユリウスは、『上空の大きな鳥は見守るだけでいい』と、モルテ達へ指示を出していたのだという。
(デート中にそんなやりとりをしていたとは・・・。本当に器用だな)
「色々ありましたが、コルネリア王女を連れて帰ってくれたので、カメリア夫人には感謝しています」
ユリウスは両手を胸の前で組んで、神に祈りを捧げる仕草をする。
「あのう・・・、祈りを捧げたくなるほど、(彼女は)長く滞在していたのですか?」
「そうです。一か月半は居たと思います」
「長っ!!」
「(ポリナン公国の)公子夫人と同じく、コルネリア王女もビアンカを崇拝していますから・・・。一生、この城に居座るつもりなのではないかと心配していました」
(崇拝って・・・、ただの女戦士なのに・・・)
「――――帰ってくれて良かったですね」
「ええ、本当に助かりました・・・」
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