7 深い意味
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「おめでとうございます!!」
「辺境伯様~!!ビアンカ様~!!」
二人が教会の外に出ると待ち構えていた民衆は口々にお祝いの言葉を叫ぶ。――――ユリウスとビアンカは笑顔を浮かべて軽く手を振り、それに応える。
教会の前の広場へタイミング良く馬車が入って来た。豪華だが特別に装飾されているわけでもない普通の馬車である。
「ビアンカ、これから馬車で城へ戻る。今夜はお祝いのパーティーもあるから、早く帰って休憩を取ろう」
(ああ、良かった。早く着替えたい・・・)
ユリウスはキャビンへ先に乗り込み、ビアンカに向けて手を差し出す。
(辺境伯は相手が私でも当然のようにエスコートするのか。――――王族の一員である彼にとっては日常なのかもしれないが・・・)
無骨な者たちと長年、宿舎で共同生活をしているビアンカ。当然のことながら、彼女を女性として扱う者など一人も居ない。それに戦士たちの移動と言えば馬だ。馬車での移動と言えば、ケガをした時に乗せられる荷馬車くらいである。
だから、ちょっとそこまでの距離でこんな立派な馬車へ乗ることは無いし、ましてや乗車のエスコートを受けるなんて想像もしていなかった。
――――だから、紳士然としたユリウスの行動につい戸惑ってしまう。
少し躊躇してしまった間もユリウスは嫌な顔一つせずに手を伸ばして待っていてくれた。ビアンカは彼のきれいな指先に長年、大斧を振り回している武骨な手を預ける。
(こんなことになるとは思ってなかったから、爪の手入れも・・・。――――日頃から身なりには気を付けていないとダメと言うことだな、後悔しかない)
ユリウスはビアンカの手をぎゅっと握って、力強く引き上げた。お陰様で、ビアンカは難無くキャビンへ上がることが出来た。
(助かった・・・。背中が裂けたドレスを着たままキャビンへ上がるのは少し自信が無かった。辺境伯が一気に引き上げてくれたから、腹部に力が掛からず、現状を維持出来た。せめて、城に到着するまではこの状態をキープしたい・・・)
「あっ、相棒!!」
ビアンカはキャビン内へ大斧が置いてあることに気付く。結婚式が始まる前にピサロ侯爵の短剣と交換したアレである。刃の部分にはシーツのような布がグルグル巻かれ、柄を上にして奥の窓のところへ立て掛けられていた。
「ビアンカ、その大きなものは何ですか?」
ユリウスはビアンカの向かい側に腰掛けながら聞いてくる。傍目には大きな布の塊に木の棒をさしているようにしか見えないソレを、彼女が『相棒』と呼んだからだ。
「辺境伯、これは私の愛用している武器です。式の前に父から教会の中へ物騒なものは持ち込ませられないと没収されてしまいまして・・・。はぁ~、無事に戻って来て良かった・・・」
「ビアンカ、もしかして、その武器を返してもらうために結婚式を頑張ったの?」
「――――そうよ。だって私、今日結婚するなんて知らなかったから・・・あっ!!」
(あ、マズイ!油断した!!辺境伯の口調が軽くなったから釣られて、つい同じ調子で話して・・・、口が滑ったー!!――――辺境伯が何を何処まで知っているのかも、敵か味方なのかも分からないのに!!だ、大丈夫かしら・・・???)
ビアンカの心配を余所にユリウスは微笑むだけでそれ以上、何も聞いて来なかった。
――――二人でしばらく窓の外を眺める。
ローマリア王国のリシュナ領の領都バリードは国境を守る要塞都市だ。国境のレバリー川に接した断崖絶壁の上に築かれている。この地域はバリー峡谷と呼ばれ、地形が険しい。
「領主の城は要塞の一番端、断崖絶壁の上です」
ユリウスは窓の外を見ながら呟く。ビアンカは彼の視線の先を辿る。すると、家畜小屋と畑が見えた。――――領都バリードは城壁の内側に商業区、居住区、そして畑が揃っている。これは籠城戦になっても、かなり持ち堪えられるのではないだろうかと彼女は考えた。
「辺境伯、この辺りは小競合いが多いと聞く。実際はどうなのだろうか?」
「確かに小競り合いは多いです。しかし、ここには国境警備軍、リシュナ領軍、王国軍魔法師団のリシュナ支部が揃っています。国防の面から言えば全く問題ありません。ただ・・・」
「ただ?」
「花嫁と花婿がする最初の会話として、この話題はどうなのでしょうか?」
クールな顔で言われて、ビアンカは我に返った。赴任した先の状況を確認するのは職業柄当たり前のことで、まさかそれを指摘されるとは思わなかったのである。
(とは言っても、この場に合う話題が分からないのだが・・・。言い出した本人に任せるとするか)
「あ、えー、失礼しました。お先に何かお話したいことや私に聞きたいことがあれば遠慮なくどうぞ!」
「そうですね。では聞いてみたいことを一つ。ビアンカは毎日欠かさずにしていることはありますか?」
(えっ、これ、鍛錬とか答えたらダメなやつ?うーん、それなら・・・)
「毎晩、夜空の星を見ます。大雨の日は無理ですが、星を観察するのが好きです」
「そうですか。私も天体観測は好きです。これからは一緒に見ましょう」
「―――――はい、よろしくお願いします」
(『これからは一緒に・・・』って、私と辺境伯が毎日、一緒に夜空を見ると言うこと!?お、おう!ビックリな展開だな。何なら観測記録でも取るか?天気の予想などに役に立ちそうではあ・・・)
「私に聞きたいことはありませんか?」
「辺境伯は随分お若く見えますが、何歳なのですか?」
ビアンカは話の流れに乗って、一番知りたいことを聞いてみた。
「私は本日十七歳になりました」
(十七歳!!!四歳下、ギリギリセーフ??良かった、十四歳とか言われなくて!!この見た目なら十分、あり得るよね。でも、本当に安心した。―――――もしかして、この話を広げたら何故、私と結婚する必要があったのかという謎に辿りつけるのでは?)
「それは十七歳になったから、本日結婚したということですか?」
「そうですね」
「では何故、相手が私なのですか?」
ビアンカはこれで謎が明らかになると期待を込めて、質問した。ところが、ユリウスはクールに言い放つ。
「国家機密です」
ガクッと肩を落とすビアンカ。その姿を見ているユリウスは楽しそうだ。
「ビアンカ、あなたは先ほど辺境伯爵夫人になりましたが、今後も戦士を続けますか?もし続けたいのなら、明後日の朝からリシュナ領軍の訓練に参加する許可を・・・」
「ありがとうございます!!!」
彼女はユリウスが話しているのを遮ってお礼を述べる。昨日から自分が何をさせられているのかが分からず、ストレスを感じていた。だからこそ、辺境伯の提案はとても魅力的だったのである。
(身体を動かしたら、気分も晴れる!!相変わらず良く分からない特別任務だけど、城に籠っていろと言われるより百倍いい!!)
「嬉しそうですね」
「はい、身体を動かすのは大好きなので。出来れば毎日訓練に参加したいです。何なら明後日とは言わず、明日の朝からでも!!」
「うーん、明日の朝は疲れていて無理でしょうから、明後日からにしておいた方が・・・」
意味深なことを呟くユリウス。――――しかし、残念なことにビアンカは彼の言葉に含まれている深い意味を見逃してしまう。
「体力には自信があるので大丈夫です!」
ビアンカは力こぶを作ってみせた。恐ろしく見当外れな回答をしているが、本人は至って真面目である。しかし、ユリウスは耐え切れず、笑い声を上げた。
「ブッ!!ビアンカさん、最高ですね!!アッハハッハッハ・・・」
(ああ、そんな可愛い顔で笑って・・・。それにしても、さん付けはダメだ。むず痒い)
「辺境伯、さん付けは止めて下さい。呼び捨てでいいですよ」
「失礼しました。では、私のことも辺境伯ではなく、ユリウスと呼んで下さい。夫婦なのですから」
ボン!!と頭の中で何かが弾けるような音がした。
(『夫婦なのですから』って言葉、攻撃力強っ!!いや、これ偽りの関係でしょ?)
「ビアンカ、ユリウスと呼んで下さい」
「つっ、――――ユリウス」
「ありがとう。ビアンカ」
ユリウスは楽しそうに笑っている。ビアンカは熱を帯びた顔を右の上腕で隠した。
(ダメだ。私、男に耐性が無さ過ぎる。――――恐ろしい・・・、十七歳、美男子。早く慣れよう。照れている場合じゃないわよ、二十一歳の女が・・・)
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