76 意外なつながり 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
カメリアはティーカップを持ち上げて一口飲むと、優雅な所作でソーサーへ置く。
――――この場の全員が彼女に注目していた。
「待っている間にコルネリアから話を聞きましたの。お二人はとても素敵な出会いだったと・・・」
「閣下とビアンカ様の愛の物語は、本当に運命的で素敵なのですわ!」
今まで黙って居たコルネリアは胸の前で手を組んで、急に目を輝かし始める。
(ヤバい。この流れに飲み込まれたら、ロクなことがなさそうだ・・・)
ビアンカはユリウスの袖をチョンチョンと引いて、『早くここから逃げたい』と、アピールしたのだが・・・。
「今日も妻とバリードの街を歩いて楽しみました。彼女と出会えたことは私の人生で一番の幸運と言えるでしょう」
ユリウスは花笑みで語った。
(う、嘘~っ、ユリウスが裏切った!?!)
「あらまぁ~~~!!」
カメリアは扇子で口元を押さえる。
「これは彼女と一緒に選んだものです」
ユリウスは自分の左耳についているピアスをさらりと揺らしてみせた。
「キャー!?伯母様っ、見て~!!ビアンカ様のお耳にも、お、お、おおお、お揃いのピアスがぁ~~!!!素敵だわ~~~!!」
コルネリアはビアンカの右耳にもユリウスと同じピアスが付いていることに気付き、叫び声を上げる。
(うううっ、恥ずかしい!!ユリウスのおしゃべり・・・、浮かれ過ぎ・・・)
「あら~、本当に仲が宜しいのね~~~。コルネリア、あなたも素敵な相手に出会えると良いわね!!」
「はい、伯母様!!」
二人からうっとりとした目で見つめられ、ビアンカは居心地が悪くてどうしようもない。何気なく、サジェ、X、モルテの方へ視線を向けると・・・。
彼らはポカンと口を開けていた。
(ほら、同志たちもユリウスの新たな一面を知って、放心しているじゃないか)
ビアンカはもう一度、ユリウスの袖をギュッと引く。
「どうしました?」
「ええっと、この会は何時まで・・・」
「片付けたいことがあるので、もう少し付き合って下さい」
「――――分かりました」
ビアンカの了解を貰うと、ユリウスはサジェへ目配せをした。
――――ボーッとしていたサジェはユリウスと目が合った瞬間、一気に引き締まった顔になり、こちらへ移動して来る。
「閣下。お呼びですか?」
「サジェ、ヴィロラーナ公爵令息マリウスを早急に連れて来てくれ」
「承知いたしました」
サジェが部屋を出て行くのと同時に優秀な侍女頭アンナが、全員分のお茶のお代わりをワゴンに乗せて現れる。
(ああああ、お茶まで来てしまった・・・。よし!どうしてもこの場に居ないといけないのなら・・・)
ビアンカはしれっとモルテの隣に腰掛けた。夫婦でカメリア&コルネリアに囲まれて、根掘り葉掘り聞かれるとボロを出してしまいそうだったからである。
(あの二人の前で『恋人の練習をしています』なんて、口を滑らせたら大変なことになってしまう・・・)
「モルテ、今朝は対戦試合の見届け人をしてくれてありがとう」
「いえいえ、大したことはしておりませぬ」
「ところで、あなたには聞きたいことが沢山あって・・・」
「ほう、わしにですか?」
「まずは、魔法使いは生まれ持ってマナを持つと言われているが・・・」
ビアンカはここぞとばかりに魔法使いモルテへ質問を重ねていく。
「――――閣下。ビアンカ様がモル爺に・・・」
「ああ、そうだな」
Xは質問攻めで目を白黒させているモルテのことが気になってしまう。しかし、ユリウスはコルネリアたちに話しておきたいことがあったので、ビアンカのことは聞き流した。
「コルネリア王女、イヴァン国王(コルネリアの父)から何か話を聞いていないか?」
「いいえ、何も・・・。と言いますか、最近はずっとこちらに居たので、会っていませんわ」
「あらあら、コルネリアはいつからここでお世話になっているの?」
「辺境伯夫妻の結婚式の前からですわ」
コルネリアが悪気なく発した言葉を聞いたカメリアは「ハァ――――」と、大げさなため息を吐いた。そして・・・。
「――――閣下。申し訳ございませんでした。姪がとても無作法なことをしていたみたいですわね」
「えっ!?無作法?」
コルネリアは目を剥く。
「そうよ。新婚カップルのところに良くもまぁ~、こんなに長居したものだわ。ナタリア(コルネリアの母)は、あなたに何も注意しなかったのかしら?」
「お母様とは喧嘩中なの・・・」
コルネリアは小声でボソッという。
「ああ、そうなのね。それにしても、あなたのしたことはマナー違反だわ。わたくしと一緒に帰りましょう」
「えっ・・・」
ユリウスとXはカメリアとコルネリアのやりとりを黙って聞いていた。
『これでやっと全員帰国・・・』と、ユリウスは心の中でボヤく。
一方、Xは『別に連れて帰らなくても、閣下たちは周りを無視して勝手にイチャついているので問題ないっす』と考えていた。
コンコンコン。
「ヴィロラーナ卿がお見えになられました」
執事セザンヌの声が、ドアの向こうから聞こえてくる。
「入ってくれ」
ユリウスが返事をすると、白シャツにカーキ色のズボンを履いたマリウスがサジェと一緒に部屋へ入って来た。――――流石に泥はついてなかったが、畑から連れて来られたのは間違いない。
「ユリウス、ビアンカさん、お待たせ!!」
「あっ・・・、マリウス様」
コルネリアは口元を押さえる。
(あれ?コルネリア王女・・・、マクシムに対する態度とだいぶん違う気がする・・・)
「コルネリア王女~!――――あっ!カメリア様もお見えになっていたのですね。お二人とも、ごきげんよう!!」
「ごきげんよう、マリウス様。今日はカリーム皇太子殿下の使いでこちらへ参りましたの」
「ああ、カリーム(皇太子)の使いだったのですね。彼はお元気ですか?」
「ええ、とても」
「ユリウス、カリームはとてもいい人だよ」
(兄上はカリーム皇太子殿下と面識があるのか?しかも、呼び捨て・・・。――――ああああ、忘れていた!!この御方は外交官だった・・・)
「そうですか。話が通じる相手ですか?」
(おっ!ユリウスが直球を投げた・・・)
「うん、きちんと通じるから、心配しないで。彼とは色々な国のコンベンションで何回も会って仲良くなったんだ。僕と同じ二十二歳だよ」
(カリーム皇太子は私の一つ上か・・・)
「ところで、マリウス兄さんはコルネリア王女に伝えないといけないことがありますよね」
「ああ、ちょうどいいタイミングだね」
ユリウスはソファーから立ち上がり、マリウスと入れ替った。
――――そして、マリウスは優雅な所作で、コルネリアの前に跪くと・・・。
「コルネリア王女、私と結婚して下さい」
「!!!!!」
(えっ!!いきなり??前置きも何もなく!?この一族は皆、こんな感じなのか???)
素敵な恋を夢見る乙女コルネリアは突然のプロポーズに固まる。
カメリアはコルネリアの肩や背中をさすって、正気を取り戻させようとするがなかなか上手く行かない。
すると、マリウスは彼女の手を取って・・・。
「驚かせたよね。でも、ごめん。もう、決まったんだ」
彼はフォローにもならないセリフを吐き、コルネリアの手の甲に口づけを落とした。
コルネリアは口をパクパクと動かす。しかし、声が出てこない。
(ああ、ああ、顔も首も真っ赤になって・・・。――――いや、これ、大丈夫か!?)
ドタッ。
ビアンカの不安が的中し、コルネリアは気を失って床へ倒れ込んだ。
「マリウス兄さん・・・」
ユリウスは冷ややかな声を出した。
「ああああ、コルネリア王女~~~」
マリウスは慌てて、コルネリアを抱き上げる。
「マリウス様!」
今度はカメリアが怒気を孕んだ声で彼を呼ぶ。
「カ、カメリア様、私は・・・」
「全っ然、ダメですわ!!出直してきてください!!」
貴婦人からキツイひと言を食らって、マリウスはシュンとした。
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