75 意外なつながり 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ユリウスとビアンカが城下にデートへ出掛けて、少し時間が経過した頃、魔法使いモルテは王国軍魔法師団リシュナ支部所属サジェと諜報員Xを辺境伯城の執務室に招集した。
領都ハザードの上空にある結界に何度もアタックしている大きな鳥がいるという報告が入ったからである。
「それで、閣下は何って言っているんすか?」
Xはモルテを急かす。この中でユリウスと即時連絡が可能なのはモルテだけだからだ。
「――――しばらく様子を見ておけと言っておる」
「本当に様子を見るだけでいいのですか?何か起こってからでは・・・」
サジェはモルテに詰め寄った。
――――だから、モルテは直ぐにサジェの言葉をユリウスに伝えたのだが・・・。
「ユリウスはまだ動くなと・・・。我々に・・・勝手な行動を取るなと。ただ、様子だけは見守っておけと言っておる」
「――――分かりました」
サジェは異常事態なのに動くなと言われて少し苛立っていたので、ぶっきらぼうな返事をした。モルテは彼の背中をポンポンと叩いて落ち着かせようとする。――――と、ここで・・・。
「だけどさ~」
Xが不服そうな声を上げた。
「見ているだけじゃ時間がもったいなくないっすか?動くなっていうのも、暴れなければセーフっしょ。あの鳥の出所とかを調べるくらいは、アリじゃないっすか?」
「おお、なんということじゃ!おまえさんとは思えないほど、まともなことを・・・」
モルテは大げさに驚いて見せる。その様子をXはジーッと見詰めて・・・。
「もしかして、爺さん、あれの正体を知っているんすか!?」
「ほう、どうしてそう思った?」
「いや、セリフが芝居じみてるから・・・」
モルテはニヤリと笑ったものの、Xの質問には回答しなかった。
―――――結局、ユリウスの指示に従い、サジェは先日、隣国の王子が吊るされた側防塔の上に待機。そして、Xは大きな鳥が飛んでいる真下あたりへ移動して、詳しく観察することにした。
「うっわ~!?何、あれ、閣下とビアンカ様、こんな街中で・・・、ゲロ甘じゃん・・・」
ショーウインドーの前で、人目も憚らずに口づけをしている上司とその妻を目撃してしまい、Xは気まずい気分になってしまう。
彼はユリウスたちのいる場所から少し離れた路地へ入り、腕を組んで壁に寄り掛かった。そして、空を見上げ、大きな鳥が近づいて来ては結界に阻まれて遠くへ押し戻されていく様子を観察する。
―――――本当にデカい鳥だなぁ~。何処から来たんだろうなぁ。
通りを行き交う人々も、じーっと空を眺めている男のことが気になって、ついつい空を見上げてしまう。
すると、大きな鳥が上空を行ったり来たりしていることに気付いて、しばらく立ち止まって空を眺める者も一人、二人と増えて行き・・・。
「あら~、本当に大きな鳥ね~」
その中の一人、恰幅の良いご婦人がXに話しかけてきた。
「いや~本当に大きいっすね~。何という鳥なんだろう・・・」
Xはいつもの軽いノリで彼女へ返答する。すると、通りを歩いていた背の高い男が・・・。
「あれはね、エトワールコンドルだよ。シクス大陸の南部やメリニーク島に生息している。この辺にまで飛んでくるのは珍しいね。迷子かも・・・」
「――――お兄さん、何者?」
「ああ、私は鳥類の研究をしている学者だよ」
「学者!?スゴっ!あの鳥が何なのか気になってたんすよ。分かって良かったっす!!あざっす!!」
「いや~、お役に立てたなら良かったよ~~~」
男は右手をヒョイと上げ、爽やかに去って行った。隣にいた恰幅の良い女性は手に持っていた扇をパチンと閉じ「いい男ね~」と、うっとりとした声で呟く。
「そうっすね~!本当にカッコいい人だったっす!!」
「で、あなた、何故、あの鳥を探っているの?」
「え?」
――――――
馬車が辺境伯城の玄関に到着すると執事が待ち構えていた。ユリウスとビアンカは有無を言わさず、応接室へ連れて行かれる。
「えっ!?これは・・・、どういう状況?」
ビアンカが口走るのも無理はない。応接室のソファーには魔塔の魔法使いモルテ、王国軍魔法師団・リシュナ支部のサジェ、王国軍魔法師団・諜報部のXと見知らぬ貴婦人、そして、ネーゼ王国の王女コルネリアが座ってお茶を楽しんでいたからだ。
(あの貴婦人は・・・)
彼女は脳内の貴族ファイルを開く。
(体格がいい・・・。栗色巻き毛の髪、白い肌、エメラルド色の瞳・・・)
「(もしかして)――――メリニーク王国、ガシャラン公爵夫人カメリア様?」
「あら、光栄ですわ。ビアンカ様はわたくしのことをご存じでしたのね!!」
カメリアは扇子で口元を隠して、オホホホホ~と高らかに笑う。
(カメリア様はネーゼ王国・モリアリア侯爵家の出身で、ネーゼ王国の現王妃の姉だ。そして、コルネリア王女の伯母でもある。――――そんな御方が、どうしてここに居る?)
つぎにカメリアはスッと立ち上がって、カーテシーを披露すると・・・。
「ごきげんよう、コンストラーナ辺境伯夫妻。わたくしはメリニーク王国の王弟ベルモント・ドゥ・ガシャラン公爵の妻、カメリアと申します。この度はご夫妻宛ての大切なお手紙を義理の息子から預かって参りました」
(義理の息子?え~っと、彼女の娘は確かセシリアで、嫁ぎ先は・・・)
「ターキッシュ帝国の皇太子か?」
ビアンカが考えている間に、ユリウスが答えた。
「左様でございます。わたくしの娘セシリアはターキッシュ帝国・カリーム皇太子殿下、唯一の妃として五年前に嫁ぎました。そして、三年前と昨年に二人の皇子を授かりました」
(唯一の妃!?皇太子はハーレムを持たない主義なのか。もしそうなら、テオドロスとは毛並みが違うというか・・・、絶対に気が合わないだろうな・・・)
カメリアは金色の封蝋が付いた手紙をユリウスへ手渡す。
ユリウスは手紙に呪いや毒などの危険がないか、魔力を通して確認していく。――――だが、特に怪しい点はなかった。
ペーパーナイフで封を開け、中身を取り出した。
開いた手紙の文面をユリウスとビアンカは一緒に読む。
(なっ・・・なんと!テオドロスはローマリア王国の法に則って、厳しく裁いて欲しいと書いてあるぞ!?そして今後、馬鹿な奴らが貴国へ乗り込む計画を立てているが、責任を持って海に沈めるので、ご安心を・・・って、これ、本気か!?――――ターキッシュ帝国に対するイメージが、かなり変わって来るのだが!?)
手紙には自国の愚かな行動に対するお詫びと、大将軍を中心にしたローマリア王国への奇襲計画の密告、そして、腐りきった国を変えたいという願望が丁寧に記されていた。
「ツッコミどころの多い内容ですね。どこから手をつけましょうか」
ユリウスはビアンカだけに聞こえる声でボソッという。
「私は皇太子が信頼出来る方かどうかが気になります。一度、会ってみたいですね」
ビアンカもヒソヒソ声で返す。
「そうですね。百聞は一見に如かずと言いますから」
ユリウスはビアンカの意見に賛成した。
「ガシャラン侯爵夫人、カリーム皇太子と直接会いたい。手配は可能だろうか?」
「閣下、お任せくださいませ。メリニーク王国の王都とターキッシュ帝国の首都は転移門で繋がっていますから・・・」
(ほう・・・。そういうルートがあるのか。知らなかった)
「では、頼む」
「はい、早急に手配いたしますわ」
カメリアは優美なカーテシーで了承の意を伝える。
「では、この件のお話はこれで終了いたしますわね」
扇を取り出し、ピシャツと話を切り替えていく、カメリア。
(ああ、恐ろしいくらい貴婦人らしい方だ・・・。どんなに努力しても、私はこんな風に立ち回ることは出来ないだろう)
★ミニ情報★
メリニーク王国 王弟 ベルモント・ドゥ・ガシャラン公爵の妻 カメリア
ネーゼ王国 王妃 ナタリア (カメリアの妹)
ネーゼ王国 モリアリア侯爵家(カメリアとナタリアの実家)
ターキッシュ帝国 皇太子妃 セシリア (カメリアの娘)
メリニーク島はイリィ大陸とシクス大陸の間にある。位置としてはイリィ大陸の南東で、シクス大陸の西。
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