74 レッツ・デート 7
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「うっ、うっ、ぐすっ、うっ・・・」
ユリウスの腕の中で肩を揺らし、嗚咽を漏らすビアンカ。こんなに涙が溢れ出してくるのは初めてだった。
(ダメだ・・・。止まらない。――――私の勘違いだと分かったのに・・・)
ビアンカは涙を止めたいのだが、止め方がサッパリ分からない。
「ビアンカ、あなたを手放すことなど絶対にありません。だから、安心して下さい」
ユリウスはビアンカの耳元へ優しく語り掛ける。彼女は小さく頷く。
「好きです。大好きです。あなたの全てが・・・」
彼はビアンカを抱き締めている手にギューッと力を込めた。
(くっ、苦しい・・・・)
「ユ、ユリ・・ウス、うっ、く、ゔっ、うっ・・・」
ビアンカは言葉で伝えようとしたが、嗚咽に邪魔されてしまう。だから・・・。
トン、トン。
彼の背を叩いて訴えてみた。
「――――――」
しかし、ユリウスは何も答えてくれない。
(あれ?無反応・・・。もしかして、気付かなかったのか?って、ああああ~~~!!)
ビアンカが油断したタイミングで、ユリウスは彼女を更に締め上げてきた。
――――彼の暴挙でビアンカの涙はピタッと止まる。
「ユリウス~~~~~!!苦しい~~~~~!!」
ビアンカはかすれた声を出しながら、彼の背中をバンバンバンと叩く。ここで漸くユリウスは腕を緩めてくれた。
息苦しさから解放されたビアンカが顔を上げると・・・。
「涙は止まりましたか?」
したり顔の彼がそこに居た。
「ユリウス―!!ワザとしたの???」
「はい」
ユリウスは全く悪びれることなく頷く。そして、キレイな指先でビアンカの頬を濡らす涙を拭い取った。
「随分、泣かせてしまいましたね」
「――――いい年をして大泣きしてしまいました。恥ずかしいです・・・」
「恥ずかしくなんかありません。泣いていてもビアンカは可愛いです。大好きです」
「甘過ぎ・・・。勘違いで大騒ぎしたのに・・・」
ビアンカはボソッと吐き捨てる。
(一番問題なのは、マクシムが不祥事の責任を取って王太子を降りると宣言した時、私はその場に居たくせに、次の王太子候補がユリウスということに気付かなかったことだ。――――だから、ユリウスはわざわざ時間を作って、ここでその話をしようとしてくれた。なのに・・・、捨てられると勘違いをして大泣きしてしまった。もう、色々と痛い、痛すぎる!!)
「ユリウスとは離れたくありませんけど、王太子妃の仕事は私に務まるのでしょうか?」
ビアンカは自信なさげに彼へ尋ねた。
「大丈夫です。あなた以上にふさわしい人は居ません。いつも民のことを考えて行動しているでしょう?」
(民のことを考えて・・・か。それは弱い立場の人々を助けたいという想いで国軍に入ったから、自然と身に付いた。そういうことでいいのなら・・・)
「分かりました。取り敢えず、出来ることから頑張ってみます。なので、くれぐれも捨てるのは無しでお願いします」
「はい、絶対にあなたを捨てたりはしません!」
ユリウスはビアンカの目を真っ直ぐに見据えて宣言した。そして・・・。
「ビアンカも私を捨てないで下さい」
「はい、私も絶対にユリウスは捨てません!!嫌がられても、ずっと側に居ます!!――――ところで、捨てないと宣言しあう恋人同士って・・・、どうなのでしょう?」
ビアンカは首を傾げる。
「普通ではありませんね。でも、私達らしくていいのではないでし・・・、ブッハハッハ・・・」
ユリウスはもう我慢出来なかったのか、話している途中で噴き出してしまった。それに釣られてビアンカも少し笑ってしまう。
視線を上げると教会の中は先ほどよりも暗くなっていた。刻一刻と夕日が沈む時間が近づいているのだろう。
「ビアンカ、私の誓いを聞いて下さい」
ユリウスは彼女を抱えて立ち上がった。そして、ビアンカを丁寧に床に下ろし、祭壇の前で向かい合う。
「私、コンストラーナ辺境伯爵改め、ローマリア王国・王太子ユリウス・フルゴル・ローマリアはビアンカ・ルーナ・ピサロ嬢を妻とし、いかなる時も愛し、助け合い、共に歩むとここに誓います。そして、二人で協力し、この大陸の平和と繁栄を実現します」
(ん?この大陸!?この国ではなく?―――だが今、ここで指摘するのはタイミングが悪い。後で聞こう・・・)
「私、ビアンカ・ルーナ・ピサロは夫ユリウスを愛し、共に手を取り合い、より良い未来を築いて行くことをここに誓います」
決められた文句ではなく、互いに自分の言葉で相手への想いを口にすると胸に湧き上がって来るものがあった。
(この誓いは結婚式の時に司祭が一般的なセリフを述べて、それに返事をするだけの誓いとは全然違う。――――これは二人の想いが込められた尊い誓いだ!!)
ユリウスは優しくビアンカを見詰めている。
(人を愛するということ。――――私は今まで自分のことばかりで、誰かを愛するということに興味が無かった。しかし、この六日間で人は愛されると、とても幸せな気持ちになるのだと知った。それを知ることが出来たのは愛情をたっぷりと注いでくれるユリウスのお蔭・・・)
彼に感謝する気持ちが心の中から溢れてきて、ビアンカの目の奥はジーンとまた熱を帯びてきた。
―――――しかし、これは感謝の気持ちだけなのだろうか。
もっと、心の奥底にある素直な気持ちを引き出してみた方が良いのではないかとビアンカは考えた。
(私は初めて彼を見た時、その美しさに息を呑んだ。そして次は迷いのない判断と若干、十七歳で辺境伯の仕事をしっかりとこなしているところに惹かれた。そして何よりも心を掴まれたのは私よりも強い心と身体を持っているところだ。その上、魔法使い、しかも魔塔の主まで・・・。いや、正直なところ、これ以上の男はこの世に居ないだろ!!好きにならない方がおかしい。間違いなく彼との出会いは私の人生で一番の幸運だ!!これ以上はない!!)
興奮し過ぎた。もう目尻には堪えきれなかった涙が滲んでいる。
「ビアンカ、誓いの口づけをしても?」
ユリウスは穏やかに尋ねた。
彼女は素直に頷く。
一歩前に出て、ユリウスはビアンカの腰に腕を回す。彼女が瞼を閉じた瞬間、目尻からポロリと美しい雫が零れ落ちた。ユリウスはくちびるでその美しい雫に触れていく。
――――左の頬と瞼、そして、右の頬と瞼に・・・。
「ビアンカ、愛しています」
ユリウスは彼女にそっと告げ、くちびるを重ねる。
(私もユリウスのことが好きだ。もう、とっくに恋に落ちていた。今頃、気付く己の鈍感さに呆れてしまうが・・・)
少し長めの口づけを終えて・・・、くちびるが離れて行くのがとても寂しかった。
「ユリウス、今日の心を育むプログラムは大成功です」
「?」
「何と説明したらいいのか・・・。う~ん、難しいのですけど・・・、昨日までのミッションとは比べ物にならないほどの効果が・・・」
「――――私に抱かれる覚悟が出来たということですか?」
「え、あっ、は!?それは・・・、ここではちょっと答えられません」
ビアンカは顔を両手で覆った。この行動はもう答えを言っているようなものである。
――――――そして、彼女の変化をユリウスはしっかりと感じ取った。
「城に戻りましょう。今すぐに!!」
「いや、あの、その・・・、仕事、仕事のことも忘れないで下さい!!」
「はい!」
ユリウスはビアンカを抱え上げ、馬車の待つ広場の車止めへ素早く転移した。
――――――
馬車が走り出したところで、ビアンカは泣いて赤くなった瞼に治癒魔法を掛けて欲しいとユリウスに頼んだ。
「ユリウスの前ならともかく、城の人たちにこの姿を見せるのは少し・・・」
「分かりました」
彼はビアンカの瞼に手の平を当てる。彼が何か呟くとビアンカはひんやりとした冷気を感じた。
「――――――これで大丈夫です」
「ありがとうございます、ユリウス」
ビアンカはチュッと、お礼のキスを彼の頬にする。
「ビアンカ・・・」
ユリウスは顔を手で覆う。積極的になっていくビアンカにまだ心が追いていないからだ。
「ユリウス、一つ気になっていたことがあって・・・」
「――――はい」
「大きな鳥・・・、気が付きましたか?」
ユリウスは手を外して、ビアンカの方を見た。
「あー、その件ですか。あなたも気付いていたのですね」
「あんなに何度もこちらへ向かって来ようとしていたら、流石に気付きますよ」
「恐らく・・・、いえ、城に戻ったら部下から報告が上がっていると思います。一緒に聞きますか?」
「聞いて良いのでしたら、是非」
「分かりました。――――――ああ、もう、急に仕事の話・・・」
ハァ~と、ユリウスはため息を吐く。
「――――甘い時間を楽しむ前に、くそ面倒な仕事を終わらせないといけないのか・・・」
(珍しい!ユリウスがこんな子供っぽいボヤキをするなんて・・・)
「ユリウス、デートは楽しかったですか?」
ビアンカは彼に聞いてみる。
「ええ、今までの人生で一番楽しかったです」
「――――人生で・・・」
(お、重い言葉・・・。まぁ、私も同じような感想だから何とも言えないけど・・・)
「次のデートも楽しみです。ユリウス、またお揃いのものでも買いましょう」
ビアンカは右耳のピアスを人差し指でツンと触って揺らした。
「ええ、そうですね」と言いながら、ユリウスも左耳に付けている彼女とお揃いのビアスをピンと弾いて揺らす。
――――馬車は薄暗くなった麦畑の中を抜け、丘の上にある辺境伯城へ一気に駆け上っていった。
レッツ・デート最終回です。お楽しみいただけたでしょうか?
段々と糖度が増して来た二人・・・。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!!
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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