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大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました)  作者: 風野うた
愛を育もう結婚6日目

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73 レッツ・デート 6

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 ビアンカから不意打ちのキスをされ、ユリウスは頭が真っ白になった。程なく、身体の奥から正体不明のマグマがドカーンと噴き出してきて、彼の思考をかき乱していく。


――――く、くちびるが触れた!?


――――何故、彼女から・・・。


――――うっ、胸が苦しい。熱い・・・。

 

――――だが、嬉しい。天高く飛び上がりたいくらい幸せな気分だ!!


――――これで、ようやく彼女も私のことを・・・。

 

――――いや、それは期待し過ぎだ。


――――でも、たった今、キスを・・・くれたじゃないか・・・。


 ユリウスが自身の感情と向き合っていると・・・。


 隣からザクッ、ザクッという音が聞こえてきた。


 横目でチラリと彼女を覗き見れば、幸せそうな顔をしてパイを頬張っている。ユリウスは下を向いたまま、フッと微笑む。


――――まもなく彼は落ち着きを取り戻した。


――――――――


 パイ専門店ピタピタを出たのは、青い空がどことなく黄色味を帯びてきて、これから夕暮れ時に入ると教えてくれた頃だった。


「ユリウス、デートを始めてから、かなり時間が経ちましたけど、お仕事は大丈夫ですか?」


「はい、部下たちの報告を聞く時間までに戻ればいいので。もう少し付き合って下さい」


「分かりました」


 ユリウスはビアンカの手を引いて、商業区リンクの華やかな通りを更に進んで行った。


「この先は大きな広場なのですね・・・。あー!!あの尖塔は・・・」


 ビアンカは通りの突き当りにある大きな広場の奥に尖塔を見つける。今はまだ木立に邪魔をされて全体像は見えないが、あの形には見覚えがあった。


「はい、私達が永遠の愛を誓った教会の尖塔です」


「――――永遠の愛・・・。あの時は、もう本当に・・・」


 初めてリシュナ領に降り立った時のことをビアンカは思い返す。


(父上が教会の前で仁王立ちしていて、訳の分からないままに結婚式が始まって、何故か刺客に狙われ、ドレスは破れて・・・)


 ユリウスはビアンカの元に駆けつけて、彼女へ自分のマントを掛けてくれた。


「新郎ユリウスは紳士でしたね。ドレスの破けた花嫁を気遣ってくれて・・・」


「いえ、あれは(刺客の三人を仕留める)タイミングを見誤った私が悪かったので・・・。すみませんでした」


 ユリウスはビアンカに詫びる。しかし、彼女は首を横に振った。


「そこに刺客が居たら倒す。――――これは戦士の私にとって当たり前のことです。だから、気にする必要はありません。――――それよりも!!初めて会った時ユリウスが途轍もない美少年で物凄く驚きました。歳も十五歳くらいに見えたので、私は犯罪者になってしまうのではないかとヒヤヒヤしましたよ。あとで十七歳と知って本当に安心しました」


「途轍もない?」


(あ~、そこに触れて来るのか。犯罪者というくだりはスルーしちゃうのね・・・)


「はい、髪も肌も美しくて・・・、お顔も整っていて見惚れてしまいました。あと、穏やかなトーンの声も好きです」


 ビアンカは嬉々として彼のことを褒める。今日は心を育むプログラムを理由に彼の好きなところを思い切り伝えて良いのだ。躊躇する必要はない。


「ユリウス、――――『創世の歌』という歴史書をご存じですか?千年くらい前に編纂されたものです」


「読んだことはありませんが、名前は知っています」


 『創生の歌』というのは、イリィ帝国が成立した頃に活躍した者たちへ焦点を当てた歴史書だ。


 この本には神や天使だけではなく、悪魔や魔王の手記まで登場している。そのため、信憑性に欠けるとして準禁書の指定を受けていた。


 どうしても読みたかったビアンカは王立図書館の特別書庫に閲覧の申請して許可を得て読んだ。――――史書オタクの執念である。


「あの本の挿絵で描かれている天使にユリウスは似ています」


「天使・・・、絵本の王子様の次は天使ですか?」


「はい、そうです。辺境伯城の蔵書に『創生の歌』があったら是非ページを捲ってみて下さい。きっと驚きますよ~~~」


「――――分かりました」


 彼はフワッと笑う。彼女もニコっと微笑み返した。


――――――――


 大きな教会の入口に二人で立つ。


(あの時とは全然見える景色が違う。こんなに緑に囲まれていたとは・・・。それにこの教会・・・)


「歴史的建造物っぽい・・・」


「はい、七百年以上前からこの場所にあったそうです」


「七百年!?」


「はい。この規模の教会としては大陸で一番古いと思います」


「――――そうなのですか・・・」


 ビアンカは視線を上に向ける。縦長のステンドグラスが綺麗に並んでいて目を惹く。左右の尖塔もかなり高さがある。


(改めてみると正面の彫刻装飾だけでも、かなり手が込んでいる。七百年も前にこの技術・・・。父上と大斧を巡って喧嘩している場合じゃなかったな・・・)


 余りにも周りが見えていなかったとビアンカは反省した。戦士たるもの、観察力は必須。油断したら負けである。


「中へ入りましょう。司祭には話を通していますから大丈夫です」


「はい」


 ユリウスとビアンカは手を繋いで、教会へ足踏み入れた。結婚式の時は参列者で埋め尽くされていた座席も今はガランとしている。


「(ここに居るのは)私達だけですか?」


「はい、人払いをお願いしています」


(いつの間にそんな手配を・・・、まさか司祭様に伝言メモで指示を・・・)


 ビアンカは通路を前に進みながら今回は教会の中を堂々と見回していく。すると大破した陶板レリーフのあった壁のところにユリの花が飾ってあることに気付く。


(小さなテーブルを持って来て花瓶を置いたのか。確かにあの陶板レリーフがないだけで寂しい感じがするよなぁ~)


 事実、絢爛豪華な教会内部でここだけポッカリ穴が開いているようだった。


「――――(あの陶板レリーフは)立派だったので残念です」


「ええ、先日大破したレリーフはこの教会が建築された当初からあったそうです」


「ということは、七百年以上前に作成されたということですよね」


「はい」


(刺客たち、何ということを!!)


 ビアンカはこぶしを握る。


「ビアンカ、心配は要りません。復元する予定ですから」


「!?」


「司祭に頼まれたので、魔塔が請け負います」


「――――良かった!!いや、本当に良かったです!!あの陶板レリーフ、とても素敵でしたから~」


 ビアンカは声を弾ませて喜ぶ。


「ビアンカは美術品がお好きなのですか?」


「そんなに詳しくはないですけど・・・、見るのは好きです」


「では、次回のデートはサルバントーレ王国の王立美術館へ行きましょう」


「そんな気軽に・・・」


「あなたが喜んでくれるなら、何処へでも連れて行きます。楽しみにしていて下さい」


 ユリウスはフワッと微笑んだ。


(うっ、笑顔が眩し・・・。何処へでも連れて行くって殺し文句も凄いけど・・・)


 ビアンカがユリウスの笑顔でクラクラしている間に、一番奥にある祭壇の前へ到着した。


「えーっと、ユリウス、ここへ何をしに来たのですか?」


「六日前にここで誓ったことに変更が生じたので、再度ここで誓い直そうかと・・」


「変更?」


「はい、ビアンカ、あなたはもうコンストラーナ辺境伯夫人では無くなります」


「え?」


(嘘っ!?これって、恋人失格宣言!?いやいやいや・・・、えっ、本当に!?)


 すっかりデートが楽しくてフワフワした気分だったビアンカは、一気に奈落の底へ落ちて行く。


 ビアンカの顔から急激に血の気が引いて行っているのを目の当たりにしたユリウス。彼は今から伝えようとしていることを彼女がもう察したのだと勘違いする。


「ビアンカ、すみません。私もこんな事態になるとは思っていなかったので・・・」


「――――――――」


(ああ、この感じ・・・、本当に別れを告げられるのか・・・。どうしてだ!?さっきまで楽しそうにしていたじゃないか!!――――もしかして、私だけが楽しかったのか?そんなの・・・、悲し過ぎるじゃないか・・・)


 ビアンカはショックを受けて、ほんの数分前に次回のデートの約束をしたことも頭から吹き飛んでしまった。


 彼女の心内を知らないユリウスは話を進める。


「私は近々、辺境伯爵の位を返還して王太子になります」


「――――――ん?」


(はっ、王太子!?何を・・・、え、王太子!って・・・)


 予想外の話が始まり、ビアンカは困惑した。


「ですので、ビアンカも王太子妃になります」


「えっ、ええええっ!?嘘っ!!」


「本当です。兄さんが王太子を返上するので、私が繰り上がります」


「マリウス兄上は?」


「彼は・・・、まだ非公開の話なのですが、ネーゼ王国のコルネリアと婚約する予定ですので、難しいですね」


「はっ!?コルネリア王女とですか!」


(なんと!!あの二人、いつの間に恋仲に!?)


「はい、国王にとても気に入られているようです」


「ああああ、そういう話ですか・・・・」


 ビアンカは気が抜けてその場で崩れ落ちる。


 ユリウスは気丈な彼女が床にへなへなへなと落ちて行く様子を目の当たりにして酷く驚いた。そして、彼は即座に床へ跪き・・・。


「ビアンカ、やはり王太子妃になるのは嫌ですか?」


「いや、違うのです。そうじゃなくて・・・」


「断りましょうか?」


「え?」


「王太子は出来ないと・・・」


「いやいやいや、それはダメですって!この国が、民が、困りますから!!」


「でも・・・」


 苦しそうな表情を浮かべるユリウス。


(ああああ、ダメだ!!早く誤解を解かないと!!この人、本気で断りそうだ!!)


「違う!!違うのです!!私は王太子妃になりたくないのではありません!!恋人失格で辺境伯夫人をクビにされたと勘違いしただけなの!!」


 ビアンカの叫びを聞いて、ユリウスは羽毛のような睫毛をパチパチと数回瞬かせた。


「クビ?どうしてそういう話に・・・」


「あなたが紛らわしい言い方をするからです!!!」


 ユリウスは自分の言ったことを思い返してみる。


『変更が生じた』、『誓い直そう』、『もう辺境伯夫人では無くなります』という言葉が脳裏に浮かんだ。


 確かにビアンカの立場になって受け止めると意味が違ってくる。


「すみません。言葉選びを間違えました」


「ユリウスに、――――――捨てられるのだと思いました。今日のデートが楽しかった分、ショックでした・・・」


 ここまで口にして、ビアンカは俯いた。


 床にポタッ、ポタッと水滴が落ちていく。ユリウスは胸にナイフが刺さったような痛みを感じた。衝動的に彼女を強く抱き寄せる。


「ごめん。ビアンカ、ごめん、本当に・・・」


 彼が謝るとビアンカは堰を切ったように泣き出した。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

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