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71 レッツ・デート 4

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


 サワサワっと街路樹の葉が揺れ、午後の日差しが木漏れ日がとなって降り注ぐ。二人はタラリア靴店を出て、商業区リンクのお洒落な通りをのんびりと歩いていた。


――――そして、ビアンカはショーウインドーに映っているユリウスをコッソリ眺めていたのだが・・・。


(いや~、本当に・・・、絵本の中から飛び出して来た王子様みたいだ。――――所作も本物の王子様だから美しいし・・・、この素敵な街並みも彼の雰囲気と合っている。ユリウスの美しさは奇跡だな。陛下にも王妃様にも似ていないという謎はまだ解けていないけれど・・・。――――眼福っ!!)


 うっとりとした表情を浮かべているビアンカ。ユリウスはガラス越しに彼女と目が合う。


――――この時、彼はビアンカがショーウインドーに並んでいるアクセサリーへ見惚れていると勘違いしてしまった。


「ビアンカ、この店に入りましょう」


 ここは何のお店だろうと彼女はショーウインドーの奥を覗く。


「――――取り扱っているのは、ネックレス、ブレスレット、ピアス・・・」


 店内に置いてある物を呟いていて行くうちに・・・。


「あっ!!」


 彼女は咄嗟に繋いでいる手を引っ張った。――――ユリウスはビアンカの顔を覗き込む。


「どうしたのですか?」


 繋いでいた手を解いて、ビアンカはユリウスの頭の方へ手を伸ばした。そして、彼の耳たぶを・・・。


「!!!!」


――――前置きもなく突然、耳たぶを掴まれて、ユリウスは目を大きく見開く。


「あー、ごめんなさい。え~っと、これが気になって」


 ビアンカは人差し指でトントンと金色の小さな玉に触れる。


「ああ、ピアス・・・」


 ユリウスは耳を触られた原因が判明し、ホッとした。無意識のうちに彼女を怒らせてしまったのだろうかと心配になったからだ。


「――――いつも付けているのですか?」


「はい、付けています」


「ユリウスはオシャレですね」


「残念ながら、これはファッションで付けているのではありません。――――裏を見てみて下さい」


 ビアンカは親指と人差し指でユリウスの耳をフニッと曲げ、裏側にあるピアスキャッチを確認した。


(おっ、耳たぶが柔らか~い!!――――んんん、これは・・・)


 ピアスの表はシンプルな金色の小さい玉が付いているだけだったが、裏側のキャッチには王家の紋章がしっかりと刻み込まれていた。


「――――直系王族の証です」


「だから、王家の紋章が刻まれているのですね。左耳にも付けているのですか?」


「右だけです」


「そうですか・・・」


 ビアンカはユリウスの耳から手を離す。


「――――急に触ってしまって、すみませんでした!!」


「いえ、こちらこそ期待外れですみません。何なら、お揃いのピアスでも買ってみます?」


(お揃いのピアスか~。二人で同じものを付けるというのはいいかも。だが、それなら・・・)


「――――一対のピアスを二人で分けて付けるというのはどうでしょう?少しは恋人っぽくなるかも・・・」


「それは良い考えですね。この店で探してみましょう」


 ユリウスはビアンカがこの店を気に入っているとまだ勘違いしている。だから、彼女の手を取って迷いなく店内へ進もうとした。しかし、彼女は立ち止まったまま動こうとしない。


「ビアンカ?」


(やけにこの店を推してくるのは何なんだ。ユリウスのお気に入りの店なのか?――――かなり前衛的な雰囲気の店に見えるのだが・・・)


「ユリウスはこの店が好きなのですか?」


「え?」


「先ほどから早く入りたそうですよね」


「いえ、この店に入ろうとしたのは、あなたがショーウィンドーを熱心に眺めていたからです。何か気に入ったものがあるのだと・・・」


(ああああ、ショーウインド―をガン見していたことがバレている!!)


「あ~、気付いていたのですね」


「はい」


「あのう・・・、私が見ていたのは商品ではなく、ガラスに映っていたユリウスです」


「?」


 間近にあるユリウスの目がどうしてと強く訴えて来る。


「奇跡です」


「奇跡?」


「はい、その美しさは奇跡だと。その上、この街並みとも合っていて・・・」


「???」


 ユリウスはビアンカの言いたいことが今一つ理解出来ず、もう一度、彼女の瞳をジーッと見詰めた。


(もっと分かり易く言えということか・・・。少し恥ずかしいが、思っていることを正直に伝えた方がいいだろうな)


 ビアンカは彼の持つ美しい姿とこの街の雰囲気が相まって、まるで絵本から出て来た王子様のようだったので、こっそり眺めていたと話した。


「――――それはどうもありがとうございます。絵本の王子様・・・、初めて言われました」


 彼女に容姿を褒められて、ユリウスはついつい表情が緩んでしまう。嬉しい感情がプラスされた彼の微笑みは攻撃力が半端なかった。


(うお~っ、その表情は危険だ!!これ、誰にも見せたくないな・・・)


「そんな顔を見せられたら・・・、独り占めしたくなりますね」


「ええ、独り占めしてください」


 ユリウスはビアンカへ一歩、近づいて彼女の腰へ腕を回す。二人は顔を見合わせてクスッと笑った後、チュッ、チュッと啄むようなキスを数回した。


――――近くを通り過ぎていく人々は温かな視線を二人へ向けている。皆、この二人が辺境伯夫妻だと気付いているからだ。


 王族で切れ者のコンストラーナ辺境伯爵とその妻でこの国の英雄ビアンカのことを知らない領民など、バリードの街には居ないのである。


「ユリウス、ピアスの代金は私が払います」


「何故?」


「今日は武器や靴を沢山買ってもらったので、ピアスは私からあなたへプレゼントしたいです」


「――――分かりました」


 彼女の申し出をユリウスは快く受け入れた。ちなみにビアンカは国軍で活躍する英雄なので、資産はしっかりと持っている。


(豪華な石のついてある物にするのもいいな。石の色はどうしようか・・・)



――――――――



――――結局、二人は目の前のお店へ入ることにした。


「こんにちは」


 ビアンカは店内にいた女性店員へ声を掛ける。


「こんにちは~!!アクセサリーショップ・ポースへようこそ!――――辺境伯ご夫妻、今日は仲良くデートですか?良いお天気ですよね~、ウフフフ・・・」


 若い女性店員は明るい声で話し掛けてきた。彼女は物怖じしないタイプのようだ。


(おっ、元気がいい。歳はユリウスと同じくらいか・・・)


「お探しのものがありましたらお手伝いいたします。遠慮なくおっしゃって下さいませ~」


 定番の台詞を告げると、女性店員は二人のそばからスーッと離れていく。


(もしや、これは自由に見てもいいということか?――――宝石を扱う店にしては珍しい)


「ユリウス、石はどうします?」


「あってもなくても構わないです」


「好きな色は?」


 彼はジーッとビアンカの目を見つめる。


「あ、気を遣わなくても大丈夫です。紫じゃなくても良いですよ」


「いえ、別に気を遣ってはいません。私はビアンカの紫の瞳がとても好きですから・・・」


「――――ありがとうございます。私もユリウスの瞳の色が好きです。穏やかで優しいライトグレーの時も、アグレッシブな煌めきを持つ銀色の時も・・・」


「・・・・・」


 ビアンカの放った矢がユリウスの胸を射抜く。ユリウスはその場で固まってしまった。――――ところが彼女はピアスを選ぶことで頭が一杯だったため、彼の挙動を見逃してしまう。


「う~ん、地金は・・・、シルバーは錆びやすいからプラチナの方が良いですよね。それに紫色の宝石が付いているものはどうでしょうか?お互いの好きな色を取り入れるということで・・・」


「――――――――はい」


 ビアンカは早速、女性店員へ目配せをする。


「何かお探しでいらっしゃいますか?」


「ピアスを探している。プラチナの台に紫色の宝石が付いたものはあるだろうか?」


「はい、数点ほどご用意がございます。只今お持ちいたします!」


「ああ、頼む」


 女性店員はカウンターの奥の扉へ入って行った。


(近寄り過ぎず、でも、頼みごとをしたら直ぐに動く。絶妙な接客だな)


「ユリウス、奇抜なデザインのものが出て来たらどうします?」


 クスクスと笑うビアンカ。しかし、ユリウスは・・・。


「・・・・・」


 ボーッとしていて無反応だった。


「ユリウス?」


(ん?どうした?――――この感じ・・・、まさか・・・・)


 彼女はユリウスの耳元へ唇を寄せる。


「もしかして、お腹が空いたの?」


「――――あっ、えっ!?」


 我に返るユリウス。


「ユリウス、この近くに飲食店はありますか?」


「――――向かい側の小路にピタピタという有名なパイ専門店があります」


 ビアンカの質問につい答えてしまったが、お腹は全然空いていない。――――ユリウスは失敗したと焦る。


(最寄りの飲食店はパイ専門店か、アップルパイ、カスタードパイ・・・。旨そうだな!)


「あと少しだけ我慢して下さいね。ピアスを買ったら直ぐに行きましょう」


「――――――――分かりました」


 今更、行かないとも言えず・・・。ユリウスはお昼にターキーのグラタンを三皿も平らげたことを後悔した。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


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