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70 レッツ・デート 3

楽しい物語になるよう心がけています。

どうぞ最後までお付き合いください!!


「クララベルです。お待たせいたしました~」


 ユリウスはスッと立ち上がって最初に立っていた場所へ戻る。


「――――どうぞ」


 彼は落ち着いた声でドアの向こうへ返事をした。


(くぅ~!!ユリウスのバカ!!こ、これ以上暴走するのは止めてくれ~、ドキドキし過ぎて心臓が破れそうだ!!)


 ビアンカは乱れている心に蓋をして、クララベルに悟られないよう穏やかな笑みを必死に浮かべる。


 クララベルは抱えて来た大きな木箱から、小道具の入っている籠を取り出した。そして、木箱を裏返しにしてカーベットの上へ置く。


「では、採寸をさせていただきます。ビアンカ様、この木箱の上に紙を敷きますので、その上に立っていただけますか?」


「いや、私は結構(重いのだが)・・・、大丈夫だろうか?」


 ビアンカは普通の女性よりも身体の大きい自分が上に乗ったら、木箱を破壊してしまうのではないかと懸念し、クララベルへ尋ねた。


「ご心配なく!この木箱は頑丈ですから」


 その言葉を聞いて彼女は安心する。そこへタイミング良くユリウスが手を差し出す。彼女は彼のスマートなエスコートでソファーから立ち上がった。


(ドレスを着ているとやはり動きにくい。ユリウスのエスコートが無かったら、結構、無様な姿で立ち上がらないといけなかっただろうな・・・)


 この時、ビアンカは幼少期に習ったことをすっかり忘れていたのである。貴婦人はソファーの背もたれに寄り掛からないということを・・・。


 ビアンカは自分がソファーの両方の肘掛けに手をのせて身体を持ち上げる姿を想像する。


(――――ひじ掛けで筋トレでもしているような姿だな・・・。お上品とは程遠い・・・)


「ありがとう、ユリウス」


 気付けば自然にお礼の言葉を口にしていた。


「どういたしまして」


(あっ、怒っていたことを忘れて、お礼を言ってしまった。むぅ~!不覚!!)


「閣下、念のためにビアンカ様を支えていて下さいますか?これから足の形に沿って線を引いていきますので」


「分かった」


 快諾したユリウスは、クララベルの指示に従いビアンカの前に立って彼女の手を取る。


(両手を繋いで立つことになるとは・・・。しかもこの距離・・・)


 木箱の高さは五センチくらいしかなかったので、相変わらず向かい合わせになるとユリウスの顔が近い。彼のことをあまり意識し過ぎないようにビアンカはクララベルの方へ視線を向ける。


「では、ドレスの裾を少し止めますね」


 クララベルはドレスを少し持ち上げて細いピンで留めていく。


(あ~~~~!あまりスカート部分には触れないでくれ~~~!!ここで短剣が落ちてきたら、非常に気まずい!!)

 

 ビアンカは仕込みの武器が気になって焦ってしまう。


 クララベルの方を見ながら表情が険しくなっていくビアンカをユリウスは眺めていた。そして、その険しくなった理由が閃いた途端、笑いが込み上げて来て・・・。――――彼はそっと視線を明後日の方向へ逸らした。


 そんな二人の心内など気にも留めていないクララベルはビアンカの足を丁寧に形取っていく。足の形を紙に写し終えた後は、首から下げていたメジャーで足長、足幅、甲の高さなどを細かく計測する。


 彼女の邪魔をしないようビアンカとユリウスは静かにしていた。


 クララベルがサラサラと紙へ数値を書き込む音が聞こえる。ビアンカは足を動かせないので視線を巡らせていつものように周りを観察し始めた。


(この部屋は窓が一つと入口が一つか。暖炉もないし、隣の部屋もない。敵が入口から侵入してきたら窓から飛び降りるしかないか。まぁ、二階だからそんなに難しくはないだろうが・・・。ん?ユリウスは何処を見ているのだろう。視線の先には壁しかないぞ。――――もしかして、笑いを堪えているのか!?)


 明後日の方向を見ているユリウスをビアンカはジーッと見詰める。


(――――耳から顎へのライン、首筋も綺麗だなぁ・・・。あっ、嘘!!耳の上の方にピアスをしてる!!髪で隠れていて気が付かなかった!!)


 ビアンカはユリウスの耳についているピアスが気になってしまう。耳の上部についているピアスは金色で丸い形のシンプルなものだった。


(あれと同じものを反対側にも付けているのか?今はよそを向いているから確認するのは難しいな。仕方ない、後で聞いてみよう)


―――――数分後、足の計測が終わる。


 ビアンカはユリウスのエスコートで再び、ソファーに腰掛けた。


「お疲れさまでございます。計測は完了いたしました」


 クララベルは一冊のスケッチブックをビアンカへ渡す。


「こちらは靴のデザイン画集でございます。お好みの物がございましたらおっしゃってください。また、ここに載っていないものもお作り出来ますので、ご希望などございましたらお教えくださいませ」


「分かりました」


 ビアンカはパラパラとページを捲る。ノートの中には素敵な靴の絵が描かれていた。ユリウスも横から覗き込む。


(近い、近いって!!クララベルが居るのに!!)


 彼の気配が近すぎて、ビアンカはドキドキしてしまう。


(これ、少し動いたら頬が触れ合うのでは!?――――ワザとか?絶対、ワザとだよな!!ちょいちょい意地悪なことをして来るのは何なんだ!?)


「冷たいお飲み物をご用意しておりますので持ってまいりますね」


 クララベルは大きな木箱を抱えて、また部屋から出て行った。


「二人しかいないから大変そうですね」


「ええ、そうですね。――――ビアンカ、気に入ったものはありましたか?」


「う~ん、もう少し見てみます」


 ビアンカはノートを真剣に眺める。


(先ず、走れないデザインはダメだ。ヒールが太くて脱げにくいものがいい。だとすると・・・)


「これはどう思います?」


 ファッションに自信の無いビアンカはユリウスへ尋ねる。彼はビアンカの足にレースの靴下を履かせているところだった。


「ああああ~、もう!!いつの間に!!」


「気にしないで下さい。好きでしているので・・・」


「いや、そう言われても・・・」


 ビアンカが止めるのが遅かったのか、ユリウスが器用なのかは分からないが、あっという間に靴を履かされてしまった。


「(色々と思うことはあるけど・・・)ありがとうございます」


「はい」


「で、これはどうですか?」


 開いていたページを彼に見せる。彼女が指差していたのは、五センチヒールのパンプスに大きなリボンが付いているものだった。


「可愛いと思います。それに足の甲をリボンで固定出来るので走っても脱げませんね」


「そうそう、走れるというのは大切なポイントです!!ヒールも太めですし、これなら、大斧も振り回せそうです!!」


「では、このタイプを色違いで注文しましょう」


「はい、よろしくお願いします」


「ビアンカ、ブーツは?」


「ブーツ?」


 ビアンカは小首を傾げる。


「ええ、いつも厚手の靴下を二枚重ねて履いているでしょう?」


「ああ、バレていましたか・・・」


 コンコンコン。


「お飲み物をお持ちしました!!」


 クララベルの声がした。


「どうぞ」


 ユリウスが返事をするとクララベルと一緒にジェームスも部屋へ入って来た。黒い革のエプロンを付けたままだった。作業を抜けて挨拶に来たようだ。


「本日はご来店いただき誠にありがとうございます。――――しかしながら・・・、閣下、御用がある時は私どもをお呼び下さいませ。いつでも参上いたしますので」


(ジェームスは私たちが突然、店に現れたから驚いたのだろう。王族や高位貴族は店には行かず、邸宅に業者を呼んで買い物をするのが一般的だからな・・・)


「分かった」


「二人しかいないので至らぬ点も多いかと存じますが、今後ともよろしくお願いいたします。――――ではクララベル、後はよろしく」


 ジェームスは深々と礼をして去っていった。


「こちらを・・・」


 クララベルはクランベリーの入ったソーダ―をビアンカへ手渡す。続けて、ユリウスにも。


「このクランベリーは私の実家で採れたものです。お口に合うかどうか分かりませんが宜しかったらどうぞ~」


「ありがとう。では、いただきます」


 ビアンカとユリウスは迷うことなく、クランベリーソーダを飲んだ。


「想像よりも甘い!!美味しい・・・」


「スッキリしました」


 ビアンカとユリウスが感想を述べると、クララベルは嬉しそうに微笑む。。


(ユリウスが毒見なしで飲むとは思わなかったな・・・。余り気にしないタイプなのか?)


「クララベル、注文を」


「はい、閣下」


 ユリウスの言葉を聞いて、クララベルは伝票とペンを手に持った。


「――――閣下、お願いいたします」


「デザイン十二番のパンプス、黒を三足、白を三足、紫を三足、銀を三足。デザイン三十番のルームシューズ、白と黒を各五足。リシュナ領軍のブーツ三足。以上、合計二十五足」


(二十五足!?オーダー靴は一足いくらだ?――――いや、知らない方が良いこともある。余計なことを聞くのは止めよう・・・)


「承知いたしました。十二番の黒を一足、三十番の白を一足、軍仕様ブーツを一足の三点は明後日中に納品いたします。その他は出来上がり次第で宜しいでしょうか?」


「――――構わない」


「では、こちらへサインを・・・」


 ユリウスはサラサラと迷いなくサインをした。


「大量注文ありがとうございます。失礼ながらビアンカ様、足長に対してかなり足幅が細いですよね。今まではどうされていたのですか?例えば、軍のブーツとか・・・・」


「既製品を履いていました。靴下とか布を巻いて調整して、紐をきつく締めて・・・」


「それでしたら、フルオーダーになさって正解です。サイズの合った靴をお履きになって、靴が足に吸い付いて身体と同化する感覚を是非味わって下さい。もう、靴下の重ね履きは不要です。今よりも動き易くなると思います」


(足に吸い付くような感覚・・・、動き易い・・・。――――良いな!ワクワクして来る!!)


「それは楽しみです」


「ご期待に応えられるように頑張ります!!」


「よろしくお願いします」


 クララベルはビアンカの靴造りにしばらく集中すると話していた。そのため店頭での注文は今月いっぱい停止するとのこと。


――――二人はタラリア靴店を出て、石畳の美しい通りの奥へと歩みを進めていった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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