69 レッツ・デート 2
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
商業区リンクへ到着した。
「ここからは馬車を降りて散策しましょう」
ユリウスはビアンカの手を引いて石畳の上へ下りる。ビアンカは辺りを見回した。
(ここも街路樹はオークか、低木は同じ高さで綺麗に整えられている。建物も看板も同じ色で統一されていて、感じがいい)
「この地区は街並みが美しいですね」
「ええ、この地区は石材や屋根の色に厳しい規制がありますから」
「この綺麗に咲いている花々も?」
ビアンカは建物の前に規則正しく置かれているプランターを指差す。
「はい、そのプランターはこの地区の商工会が設置したものです。この辺りはサルバントーレ王国に本店のある高級ブティックや宝飾店も建ち並んでいるので、景観に配慮しているのでしょう」
「なるほど・・・」
サルバントーレ王国は芸術だけではなく、服飾品、宝石加工、革製品の分野でも世界に名を馳せている。――――それくらいはファッションに疎いビアンカでも知っている・・・。
(そして、その支店がこの通りにズラ~ッと並んでいるのだから、驚くよなぁ~。もしかすると私が知らなかっただけで領都バリードは王都に匹敵するくらいの経済規模を持っているのか?目に入る高級店の看板も王都とそう変わらないし、通りを行き交う人も馬車も多い。――――ああ、そう言えば、私達が結婚式をしたあの教会もデカかったな・・・)
この時、ビアンカは失念していた。ここがイリィ帝国の最初の首都だったということを・・・。
「ビアンカ、次は靴屋へ行きましょう」
「靴屋?」
「はい、あの店です」
ユリウスは二軒先を指差す。靴の形をした鉄看板が店頭に下がっていた。
「え~っと、あの靴の看板のところですよね?」
「はい」
ユリウスはビアンカの手を取る。
(おおっと!流れるようにエスコート!こういうところは王子様なのだよなぁ~)
靴屋の店頭は大きなガラス張りだった。外からでも中の様子が良く見える。手前のところの棚には靴が綺麗にディスプレイされていた。紳士靴、婦人靴、子供用などなど・・・。
奥は工房のようだ。一人の中年男性が何かの作業をしている。
――――ユリウスは躊躇わずにドアを開いた。
チリンチリン。ドアの上についていたベルが鳴り響く。
「あっ!?閣下!!!」
工房の男性が作り掛けの靴を片手に顔を上げる。
「あらあらあら!!閣下、奥様もご一緒なのですね!!ようこそ、タラリア靴店へ」と、床に屈んでいた小柄な女性が、ビアンカたちを見上げた。
彼女は手に持っていた布をポケットにしまって立ち上がる。
(彼女は棚の掃除をしていたようだな。奥の男性が職人で、彼女が接客係といったところか?)
「初めまして、ビアンカです」
ビアンカは胸に手を当てて、軍隊式の挨拶をした。
「ごきげんよう、ビアンカ様、わたくしはクララベル、彼は私の夫ジェームスです」
(おおっ!ご婦人は察しが良い。私が奥様と呼ばれることをあまり好んでないとすぐに気づいたようだ)
「このお店はご夫婦で営んでいるのですか?」
「さようでございます。私達は二人とも靴職人なのです。私と夫はこの街で生まれ育ち、サルバントーレ王国のアカデミーに留学しました。卒業後は現地で修行を積み、十年前に帰国してここに店を構えました」
(お二人とも靴職人だったのか。だとしても、この激戦区に店を構えるとはかなり強者・・・)
「そうなのですね。お二人はどちらのアカデミーに通われたのですか?」
「ローゼンタールです。ご存じですか?」
「ローゼンタール・アカデミー!?超名門校じゃないですか!!凄っ!!」
「ありがとうございます!!」
明るいクララベルに釣られて、ビアンカは色々なことを質問したい気分になってくる。彼女がワクワクしていることに気が付いたユリウスは・・・。
「クララベル、妻の靴を注文したい」
――――女性二人がおしゃべりで盛り上がり出す前に本題を告げた。
「まあまあ、素敵なことでございますね~!!では、早速、ビアンカ様の木型を作成いたしましょう!」
「ああ、頼む」
(武器の次は靴―っ!?そんなに色々と買って貰うのは申し訳な・・・。いや、ちょっと待て、これから辺境伯夫人として社交の場に出ることが増えるかもしれない。いつものブーツと結婚式の時にユリウスがくれたこの靴だけでは正直、無理がある。ここは素直に受け取った方がいいだろう)
実は寝室の隣にあるクローゼットルームにはドレスとお揃いの靴が用意されていたのだが、残念なことに彼女の足とサイズと合わなかったのである。
だから、ビアンカはこの六日間、手持ちの二足(国軍のブーツと結婚披露パーティーの時にユリウスがプレゼントしてくれた靴)を履き回して凌いでいた。
(幸い、ドレスは裾が長いから同じ靴を履きまわしても、そんなにバレやしない。ただ、夜会でダンスを踊れとか言われたら、一発でアウトだが・・・)
「さぁ、こちらへどうぞ~」
クララベルの誘導で、ユリウスとビアンカは二階のサロンへ。
サロンには毛足の長いフカフカの絨毯が敷かれていた。部屋の真ん中に革張りのひとり掛けソファーが一脚。そして、壁沿いにはベンチが一台。その横にはアンティークのチェストが一棹あった。チェストの上に深紅のバラが一輪飾られていて、とてもオシャレだった。
ユリウスはビアンカをソファーへ座らせて、その横に立つ。
「ユリウスも座ったら?」
ビアンカは壁際のベンチを指差した。彼は一応、頷いたものの座ろうとはしない。
クララベルはビアンカの足元へ四角いクッションを一つ置いた。
「ビアンカ様、採寸の用意をしてまいります。靴を脱いだら、こちらへ足を乗せてお待ちください」
「分かりました」
「では、一旦下がります。失礼いたします」
クララベルは部屋から出ていく。パタパタパタと階段を降りて行く音がした。
「ビアンカ、準備をしましょう」
ユリウスはビアンカの前に跪く。
「ユリウス、な、何を?」
彼の行動に驚いたビアンカは前のめりになって、ユリウスを立たせようと両手を伸ばした。しかし、ユリウスはその手を取らない。そして、困惑するビアンカをじーっと見詰めて・・・。
「お手伝いをします」
「え?」
ユリウスは彼女のドレスの裾を持ち上げ、彼女の足首を掴んだ。
(あ、足を掴まれた!!えええ、何で!?まさか、靴を脱がそうとしているのか!?」
「ユ、ユリウス!!自分でします!しますから~~~」
動揺するビアンカに対し、ユリウスは微笑を浮かべている。そして、彼は彼女の足をドレスから引っ張り出した。
(いやいやいや、私の足を持って嬉しそうにするのは止めてくれ~~~!!こんな姿を他人に見られたら・・・、マズい、マズすぎる!!!)
「ビアンカ、私がやさしく脱がしてあげます。安心して身を任せて下さい」
(その言い方・・・、いかがわしく聞こえてしまうのは何故っ!?――――私がおかしいのか・・・)
ビアンカが悶々としている間に、ユリウスは彼女の右足の靴を絨毯の上に置いた。次は繊細なレースの靴下を指先で摘まんで、爪に引っかけないように少しずつ丁寧に脱がしていく。
(地味にくすぐったい・・・)
――――脱がし終えると靴下をクルクルと巻いて、右足の靴の横へ置いた。
ユリウスは素足になったビアンカの右足をクッションの上へ乗せる。
「こんなことをユリウスにさせていいのだろうか・・・」
ビアンカはボソッと口にする。
「何か問題が?」
左足の靴を絨毯の上に置きながらユリウスが答えた。
「問題しかないと思うのですけど???」
「――――何度見てもあなたの足は綺麗ですね。あの大斧をこの細い足で良く支えられるものだと感心してしまいます」
ユリウスはビアンカの左足からレースの靴下を脱がすと、彼女の足の甲へ口づけを落とす。
「なっ!!!!」
ビアンカは大声を出しそうになり、慌てて口を押えた。
(な、なんてことを――――!)
コンコンコン。
最悪のタイミングで外からノックの音がした。
★ミニ情報★
タラリア靴店(高級オーダー靴店)
店主 靴職人 ジェームス
靴職人 クララベル
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