67 主神ダイアは見た!
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
辺境伯城の前に広がる美しい麦畑と繋がっている異次元の静かな神殿で、主神ダイアは苦悩していた。ビアンカに神の力を与えることが出来なかった理由が判明しないからだ。
過去の後継者たちは神の力を与えた主神ダイアに感謝し、また国を治めるためにその力を存分に使っていた。なのに・・・。
「ビアンカは二度目に此処へ来た時『神の力は無いなら無いでいいです。全く困りませんし・・・』と冷ややかに言った・・・」
このビアンカの発言は、主神ダイアの胸に深く突き刺さった。
「神の力など要らないと言われても、やはり、私は・・・」
主神ダイアは視線を上げ、金色の穂が風に揺れる様子を眺める。
ピチャン。
神殿の静寂に一滴のしずくが音を奏でた。
「――――何か起きたのだろうか?」
主神ダイアは壁際に置かれている水瓶を覗き込んだ。この水瓶は主神ダイアの目として、ビアンカたちの住む世界を見守っている。
水面に映し出されたのは・・・。とある宮殿の一室だった。
――――――――
皇太子カリームはバタバタバタという音が耳に入り、玉座の間から中庭へと視線を向ける。強い日光を遮るために軒下へ取り付けられた薄布が強風に煽られていた。
――――あいつらをどうにかしたい・・・。
皇太子カリームは玉座で女を膝の上に乗せている皇帝(父)と、何の役にも立ちそうにないイエスマン揃いの側近を見ているだけで嫌悪感が募る。
――――ここはイリィ大陸の東の海を越えた先にあるシクス大陸。別名、灼熱の大地。その名の通り、大陸の七十パーセント強が砂漠地帯となっているため、人々は水と緑のある場所を求めて生活している。
そんな過酷な環境だからこそ、広大な森と湖のあるターキッシュ帝国の首都オアートは何の努力をせずとも自然に発展していった。
ところが・・・。数年前から急速に緑地が減少し始めたという報告が学者たちから上がって来るようになった。
これは首都が干上がる可能性が出て来たということだ。一刻も早く対策を練って対処しなければならない。
だから、皇太子カリームは皇帝(父)とその側近の達が大陸の外にばかり目を向けていることに強い危機感を持っている。
――――隣の大陸を手に入れるなどという愚かな計画を企てる前に帝国民の暮らしを豊かにする政策の一つでも進めたらどうだ?
そして、エトラ共和国との関係も見直した方が良い。
シクス大陸にあるもう一つの国、エトラ共和国はターキッシュ帝国の支配を好まない八つの民族が集まって国を興したという歴史がある。言わずもがな両国の関係は全く持ってよろしくない。
しかし、ターキッシュ帝国一のオアシスと言われる首都オアートが干上がるかも知れないのだ。いつまでも隣国と不仲でいるわけにはいかないだろう。友好国とまでは行かなくても、国交の正常化くらいは実現しておきたい。そうすれば、首都が干上がったとしても、帝国民はエトラ共和国へ避難することが出来るのだから。
ただ、今の皇帝がそういうことを考えているのかと言えば、答えはノーだ。
――――この国が隣国と仲良く出来ない理由は至って簡単。この国のトップが驚くほど幼稚だからだ。今も皇帝は息子のカリームよりも若い女とイチャついている。
改めて言うが、ここは玉座の間だ、本来なら執務を行う場所なのである。側近達は皇帝に注意などしない。だから、皇帝はこの状況が普通だと思っている。
皇太子カリームは再び、揺れる薄布を目で追った。風は更に強くなってきているようだ。
――――この役立たず達を一掃したい。
特別な信仰心はないが、この状況をどうにかしてくれる神が居るなら、毎日祈りを捧げてもいい・・・。
バタバタバタ・・・。
突然、伝令の男が玉座の間へ走り込んで来た。彼は大宰相へ駆け寄り、懐から出した手紙を彼に渡す。
「陛下、イリィ大陸に潜ませている鷹(密偵)から緊急の連絡が入りました」
「――――何だと?」
大宰相は中身を確認するとすぐに女と戯れている皇帝へ声を掛けた。空気を読んだ女はスッと衝立の裏へ去る。
一方、女遊びの邪魔をされたことに腹を立てたのか、皇帝ムガリ二世は不機嫌な声を出した。側近達に緊張が走る。彼の不機嫌は自分たちの首の皮と直結しているからだ。
皇太子カリームは部屋の片隅で状況を見守る。
「テオドロス殿下が消息不明になっていらっしゃると・・・」
第四皇子が消息不明と大宰相が口にした途端、室内の空気が凍り付いた。しかし、大宰相は説明を続ける。
「――――二日前に接触した鷹に殿下はローマリア王国へ向かうと告げたそうです」
「ローマリアだと?」
「はい。殿下はサルバントーレ王国のフォンデ王子を使って、ローマリア王国のリシュナ城へ入り、辺境伯の妻を略奪する予定だと鷹に話したそうです。ところがその後、殿下の消息は一切掴めなくなりました」
「ならば、テオドロスはリシュナ城で拘束されたのか?」
「その可能性が高いでしょう。陛下もご存じの通り、リシュナ城はイリィ大陸でもっとも難攻不落といわれている城塞です。また強力な結界魔法が張ってあり、簡単には・・・」
――――テオロドスはツィアベール公国が潰されて、先走ったのだろう。
それにしても他国の女性を相手に略奪婚を試みるとは・・・。本当に愚かなことをしてくれる。皇太子カリームは下を向いて、密かにため息を吐いた。
「陛下!!一刻も早く第四皇子を取り戻しましょう!!私にお任せを!!」
大声を上げて立ち上がった大将軍ムスターファは拳を天につき上げる。
「ムスターファ、この件はお前に任せよう。テオドロスを救出し、ついでにイリィ大陸も手に入れて来い!」
「御意!!」
皇太子カリームは皇帝と大将軍ムスターファの愚かなやり取りを無表情で見つめた。
――――彼らは隣のイリィ大陸を舐めている。
あの大陸を豊かな資源に恵まれた場所と単純に捉えてはいけない。真実かどうかはさておき、イリィ大陸はこの世界を造った神の住まう場所といわれているのだ。故に神話、伝承、古文書でも手を出してはいけない禁忌の場所と注意喚起されている。
そんな曰くつきの場所へ、ターキッシュ帝国だけが過去に何度も手を出し、その度に痛手を負った。ここに居る者たちは我が国の負の歴史をもっと学んだ方が良い。
――――あの大陸のことはいい加減、諦めろ!!
世界は成熟し、もはや戦いで国を取り合うような時代ではない。今後は互いの国へ敬意を払い、協調を模索していくべきだと皇太子カリームは考えている。
――――さて、この愚か者たちはどうする?
面と向かって説得したところで話が通じる相手ではない。
――――仕方がない。また今回も裏から手を回すとしよう。
カリームは立ち上がった。
「陛下、私も独自のルートでテオドロスの安否を探ってみます」
「――――そうか。カリーム、頼りにしておるぞ!」
息子の発言を鵜呑みにする父親へ笑顔を向けて、彼は部屋から去った。
――――――――
主神ダイアは呟く。
「水瓶よ。何故、これを私に見せたのだ・・・」
彼は焦りを感じる。ここへ隣国の大将軍ムスターファが乗り込んできたら・・・。彼は己の手柄を上げるためにビアンカの命を狙うかも知れない。
「私は愛し子ビアンカに力を与えていない」
もし、ビアンカが死んでしまったら・・・。
――――主神ダイアは居ても立っても居られなくなってきた。
ターキッシュ帝国の一軍がここへ現れる前に何とかビアンカへ自分の力を与えたい。
「仕方がない。マリアのところへ・・・」
主神ダイアはこの状況を打破するため、約五百年ぶりに妻と会う決意をした。
★ミニ情報★
ターキッシュ帝国
皇帝 ムガリ二世 女好き 癇癪持ち
皇太子 カリーム 暴走し続ける自国を心配している。冷静
大宰相と側近達 皇帝のご機嫌取り集団
大将軍 ムスターファ 脳筋
神々の世界
マリア 主神ダイアの妻 現在別居中
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