64 ユリウスの居ない朝 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ビアンカとリシュナ領軍兵士の対戦試合二日目。
本日の対戦相手はA班とC班の兵士だ。彼らは辺境伯がビアンカと結婚すると知ってから、今日までこの対戦を目標にして日々鍛錬を積んで来た。
少しでも高みに登りたいという一心で・・・。
しかし、現実は甘くなかった。指揮官ルイーズが『始め!」と合図した後、ほとんどの兵士が一手目で武器を遠くに飛ばされてしまう。
――――この状況を昨日から見守っているもう一人の指揮官、ホーネットは悶々としていた。
国軍のレベルが猛烈に高いのか?それともリシュナ領軍が弱過ぎるのか?と。
「ルイーズ、ビアンカ様は国軍の中でどのくらいの強さだ?」
彼は試合の合間に隣のルイーズへ質問する。
「ん?どうしたんだいホーネット??国軍の中のビアンカの強さ?――――バカな質問だねぇ~」
ホーネットを一瞥して、再び前を向いたルイーズは苛立ちをあらわにしたまま話を続ける。
「あいつは己の武功で英雄って呼ばれるようになったんだ。どのくらいなんて聞くまでもないだろう。――――もしかして、あんたも女が強いのは気に入らないタイプなのかい?――――いるんだよね~~~、そういう男・・・」
「い、いや、そういうつもりでは・・・」
「そうかい。ならば、この目で見たものが真実だ。あたしはあの子以上に強い戦士を見たことがない。それでも順位が必要だというのなら断言してやる。あいつの強さはこの国、いや、この大陸で一番だ!」
「そ、そうか」
ルイーズに鋭い指摘をされて、ホーネットは己の奥深くにあった差別意識を知る。今の今まで、国軍にはビアンカよりも強い男たちがいると信じていたからだ。だから、彼女の強さを無視して、国軍のレベル云々ということばかり考えていたのである。
ホーネットは偏見を捨てて、この目で見たものを信じてみることにした。
―――立て続けに五人の兵士が一手目で武器を遠くへ飛ばされてしまう。
彼らはビアンカと木剣で打ち合うこともなく負けた。彼女は次元が違う。この場に居る者たちと比較出来ない。それが真実だった。
「この対戦は意味があるのか?」
「意味のないものなんてないさ。あんたが心配しなくても、ビアンカは面倒見がいい子だからね。あたしたちは明日から地獄のような訓練受けることになるだろうよ」
ウフフフフフ~とルイーズは他人事のように軽く笑い飛ばす。ホーネットは血の気が引いた。彼女の基準で鍛えられたら・・・と想像してしまったからだ。
「大丈夫、優しい子だから兵士が命を落とすようなことはしないよ~」
フォローにもならないようなことをルイーズは口にする。ホーネットは天を仰ぐ。
「ルイーズ、俺たちは指揮官だ。一般兵士よりも厳しい訓練だったら・・・、はぁ~~~~~」
隣のいかつい顔をした男がボソボソと泣き言を言っている。
こいつ本当に面倒な奴だな~と思いながら、ルイーズは次の対戦を開始するために「始め!」と叫んだ。
―――――
ビアンカは今、A班のプラドと木剣を構えて向き合っている。
ここまでの対戦で気になったのはC班のゴーシュネンという少年だけだ。彼は木剣を使い慣れていないというのが、一目で分かった。
(ゴーシュネンは手に持つ武器を使う戦い方より、体術が得意そうだ。どうしても武器をというのなら、暗器のような小物を使った戦い方を覚えた方がいいだろう。いっそのこと身軽な者という括りでチームを作ってみるのもいいかも知れない。――――密偵向けの訓練をしたら伸びるかもな)
カン!カン、カン、カン!!
ビアンカは考え事を止めて、目の前に居るプラドに集中する。
次々と仲間が倒されていく中、独特の戦い方でビアンカに挑んで来るプラド。彼はビアンカの関心を引いている。
(この独特の構えと剣さばき。そして、引きの攻撃。この子は負けないやり口を知っている。何より、私に対して怯むことなく間を取り、むやみに踏み込んで来ない。後は勝つための法則を身に付けろ。相手を上手く誘い込む方法を一つでも多く学べ)
「ビアンカ様、少しは攻撃して下さ~~~い」
「おおおお!その強気、嫌いじゃないぞ!!」
プラドはビアンカを挑発して来た。これは今回の対戦で初めての出来事だ。
(やはり、この子は面白い。よし、君の願い通り、攻めてやろう)
ビアンカは利き手ではない左手で木剣を握り、剣先を彼の鼻の高さまで上げる。プラドもビアンカの木剣と同じ位置まで右手で握った木剣の剣先を上げた。
(よし、剣先の動きをそのまましっかりと見ていろ。集中、集中だ!プラド!!)
次の瞬間、ビアンカは持っていた木剣を大きな動きで後方へ下げ、同時に右足で大きく前に踏み込み、彼の右手首を掴んだ。
「えっ!!!」
ビアンカの行動が理解出来ず、プラドは右手に木剣を握ったまま茫然としてしまう。ビアンカは膝を落としながら、掴んだ彼の手首を自分の肩に乗せ、右回りに担ぎ上げて・・・。
(東洋の体術、背負い技の応用編と言ったところだな・・・)
ドッシーン!!!
プラドは美しい軌道を描いて地面に叩きつけられた。
「勝負あり!」
ルイーズの声が響く。修練場に歓声が沸き上がった。これはビアンカを相手に粘ったプラドを称えている声も含まれている。
(ここまでの対戦でこの軍の問題点は大体分かった。まず出身地や男女で分けているこの班分けが失敗だ。運動能力などに合わせて分け直し、各々の能力を伸ばす訓練プログラムを作った方が良い。そして、座学も取り入れ、多種多様な武術、武器、戦法などの知識をしっかりと学ばせる。二、三か月もすれば、かなり変わって来るだろう)
「おや、ビアンカ、いい顔をしているねぇ~。あと三人で終わりだよ!!」
ルイーズはビアンカに近づいて、肩を叩く。
「体術を使って良いというルールは決めて無かったよね~~~~」
それ反則ギリギリだぞと暗に指摘して来るルイーズ。
「ルイーズ、くだらないことを言うな。これがもし実戦だったら・・・」
「あ~~~、はいはい、分かりました。ということで、プラド!お疲れ様!!」
「――――うっ、あ、ありがとうございました・・・」
地面に横たわって呻きながら、プラドはビアンカに礼を言った。
「いや、私も楽しませてもらった。あんた、東洋の剣士から剣術を習ったことがあるだろう?」
「――――いえ、剣士ではなく、僕の祖父から習いました。祖父は東の国サスティベリーからの移民で・・・」
プラドは腰の辺りをさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。
「御爺様はご健在か?」
「はい」
「機会があれば、是非お会いしたい」
「祖父に伝えておきます」
「ああ、よろしく」
二人は握手を交わす。
「さあ、次の対戦に行くよ~~」
ルイーズに促され、ビアンカはスッと気持ちを切り替えたのだった。
★ミニ情報★
リシュナ領軍(ビアンカが気になった兵士たち)
A班
プラド 独特な剣術は祖父から習った
今回の対戦でビアンカが一番気に入った兵士。
C班
ゴーシュネン 体術が得意そうな少年
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