63 ユリウスの居ない朝 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
コンコンコン。
ビアンカはノックの音で目覚めた。
(音がしたようだが・・・、ユリウス、まだ寝ているのか?)
起き上がって天蓋のカーテンを開けると室内はまだ薄暗い。窓際に置かれたベッドの方へ視線を向けてみると・・・。
(あれ!?ユリウスがいない!!!――――だから、返事をしなかったのか。ということは・・・)
「ドアの前に居るのは、アンナ?」
「はい、その通りでございます。ビアンカ様、お部屋へ入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
ビアンカは天蓋のカーテンを開け放って、ベッドから降りる。
――――ふわりと香ってくるバターの香り。アンナがワゴンを押して部屋へ入って来た。
ビアンカの素直なお腹はグゥ~と可愛らしい音を立てる。アンナはニッコリと微笑み、ビアンカは照れ笑いを浮かべる。
(空腹といえば・・・。昨夜、ユリウスは夜食でステーキを二枚も平らげて・・・。あの時間にステーキ・・・。いや、本当に若いよなぁ~)
ビアンカは『一緒に食べませんか?』と彼に誘われたが、寝る前にステーキを食べるほど、お腹は空いてなかった。
(丁重に断ったら、ちょっと寂しそうな顔をしていて・・・。少し胸が痛んだというか何というか・・・。でも、あの時間にステーキは無理だ)
「ビアンカ様、おはようございます。朝食をお持ちいたしました」
「おはよう、アンナ。ええっと、ユリウスは?」
ビアンカはユリウスのベッドへ視線を向ける。
「閣下は王宮へ行かれました」
(王宮に!?)
「いつ頃?」
「午前一時頃だったと執事から聞いております」
「分かった。ありがとう」
(午前一時か・・・、眠りについて一時間後くらいだな。全く気付かなかった・・・)
アンナにお礼を告げ、ビアンカは身なりを整えるためにクローゼットルームへ移動した。軍服に着替えるだけなので侍女の手伝いはいらない。アンナもそれは了承してくれている。『ただし、ドレスを着る際はこちらに全てお任せ下さい』と約束させられた。そこは侍女として譲れないものがあるのだろう。
ビアンカは顔を洗ってから、ハンガーに掛けてあったリシュナ領軍の真っ黒な軍服を手に取る。瞬く間に着替えを終え、脱いだネグリジェは洗い物用の籠にポイっと入れた。毎日違うネグリジェが用意されていて一体、何枚用意したのだろうと密かに心配している。
次はブラシで髪を整える。直毛で肩口までしかないのでサッサッサッと撫でつけるだけだ。こちらも一分足らずで終了。ここでやっと鏡に映る自分と目が合った。肌が艶々としている。疲れたら必ず出てしまう目の下のクマは消えていた。血色も改善され、見るからに健康そうだ。
(これは美味しくてバランスが良い料理をしっかりと食べて、寝心地のいいベッドを使ったから?それとも美しい顔の夫が毎日愛情を注いでくれるから?――――ブッ、プッ、ククククッ、一週間前の自分に今の状況を教えてやりたい。――――まぁ、絶対に信じないだろうけど!!ウフフフフフッ)
ニヤニヤしながら、頬を抓ってみる。しっかりと痛いので、これは現実だ。
――――――――
寝室に戻ると配膳は終わっていた。ビアンカが着席するとアンナは朝食の説明を始める。
「本日のご朝食はパストラミビーフを挟んだクロワッサンサンドとミニサラダでございます。お飲み物はオレンジジュース、アップルジュース、ミルクをご用意しておりますが、いかがいたしましょう?」
「では、ミルクで」
「承知いたしました」
アンナはワゴンに置いてあるピッチャーから、テーブルに置いてあるグラスへミルクを注いだ。
「ありがとう、アンナ」
「では、わたくしは廊下に控えておりますので、お食事が終わられたらお呼び下さい」
ビアンカが頷くと彼女はワゴンを押して部屋から出て行った。
(恐ろしく仕事が早い。しかも余計なことは言わない。やはり、アンナは優秀・・・)
ビアンカはパストラミビーフの挟まったクロワッサンサンドを手に取る。もう、持っているだけで外側がパリパリなのが分かった。これは期待出来る!!
(食べやすい朝食にして欲しいとリクエストしたら、こんなに豪華なサンドイッチが出てくるとは・・・。最高だ!!)
パクッと噛り付くとクロワッサンのパリパリッという音が耳を擽る。次にしっとりとした食感と芳醇なバターの香りがして、柔らかなパストラミビーフの旨味が溢れ出す。最後にホースラディッシュが鼻の奥をツンと刺激してきた。
「うっま~~~~!!」
ビアンカは一口、一口、美味しさを噛みしめる。
「結婚して良かった~~~~!!!」
(朝訓練の前にこんなに美味しい食事を食べられるなんて、幸せ過ぎる!!)
ユリウスが不在で少し寂しさを感じていたビアンカだったが、クロワッサンサンドのお蔭で少しずついつもの調子を取り戻していく。
(――――リシュナ領軍との対戦試合もあと半分か・・・。今日はどんな兵士が出てくるのだろう・・・。面白い戦い方をする奴が居たらいいなぁ~~)
ここでビアンカはユリウスから『リシュナ領軍の司令官になりませんか?』と言われた時のことを思い返す。
現在の司令官は辺境伯であるユリウスだ。彼の仕事をビアンカに任せてもらえるのは、とても光栄なこと。ただ、安易に引き受けるのは止めたい。真剣に向き合って答えを出そうと思う。
(折角、ユリウスがチャンスを与えてくれたのだから、私もその期待に応えられるように頑張ろう。先ずは兵士たちをしっかりと観察するぞ!!)
ビアンカは二つ目のサンドイッチに手を伸ばした。
―――――
リシュナ領軍との対戦試合二日目は司令官ユリウスが不在のままスタートすることになった。
そこで、ユリウスの代わりに王国軍魔法師団リシュナ領支部のサジェと魔塔のモルテという魔法使いが本日の対戦試合の見届け役をするのだという。
(モルテという魔法使いは可愛いおじいさんだなぁ~~~。白髭がとてもいい)
サジェは手に何も持たずに立っている。しかし、その隣に立つモルテは身長と変わらないくらい大きな杖を左手で持ち、白く長い髭を右手で撫でていた。
(サジェはローブを被ってなかったら魔法使いだと分からないだろうな。だが、あのおじいさんは魔法使いにしか見えない)
ついつい、ビアンカの視線はモルテの方へ向いてしまう。もともと、魔法使いが大好きなビアンカである。彼女はモルテに興味津々だった。
魔法使いが出てくる物語が大好きで、幼い頃からよく読んでいた。国軍で戦地へ赴いたときに魔法使いが現れたら密かに観察したりすることも・・・。
ただ、モルテのように見た目だけで魔法使いだと分かるような人物に会ったのは初めてだ。
(モルテはどんな魔法を使うのだろう。一見、強そうな感じだけど、魔法のことはあまり分からないからなぁ~~~)
「ビアンカ~~~。あんた、モルテ爺に気を取られ過ぎだよ。そろそろ試合を始めてもいいかい?」
ビアンカに釘を刺したのは、リシュナ領軍の指揮官兼ビアンカの元同僚ルイーズだ。
「――――ああ、すまない。始めよう」
(ぼーっとしている場合ではないな。今日の仕事をしっかりしよう・・・)
南の国から伝来した集中力を高める呼吸を三回ほど行って、ビアンカは気合を入れ直した。
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