62 真夜中の呼び出し
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「主、急ぎです!!主~、主~、どうしようかな・・・。主~~~、起きていらっしゃいますか~?――――主~?主~~~あ~る~じ~!!ルモンドです!!起きてくださ~~~~い!!あ~~~~る~~~~じ~~~!!!」
ユリウスは頭の中に直接、呼びかけて来る声に気付く。
「ん、――――ああ、どうした?」
脳裏で返事をしながら、彼はベッドから身を起こす。暗い室内へカーテンの隙間から月明かりがほのかに差し込んでいた。まだ夜明けは遠そうだ。
「陛下がお呼びです」
「分かった。直ぐに向かう」
「御意」
ユリウスにテレバシーを送って来たのは王宮魔法師団に所属している魔法使いルモンドだった。彼は魔塔にも所属しており、ユリウスのことを主と呼ぶ。昨今は魔法使いが減少しているということもあり、兼業で魔塔に所属している者も少なくない。
今回の呼び出しは恐らく、マクシムが持ち帰った報告書のことだろう。宰相が怒り狂っている様子が目に浮かぶ。
ユリウスはハァ~~~~と大きなため息を吐いてから、ベッドを降りた。
――――――――
遡る事、数時間。
マクシムは王宮に戻るやいなや、国王及び宰相(ピサロ侯爵)に連絡を入れた。
――――『早急に報告したい案件がある』と。
しかし、ピサロ侯爵を王宮に呼び戻すのに少し手間取ってしまった。今夜、彼は久しぶりに王都の屋敷へ帰っていたのだ。――――結果、王宮の執務室にピサロ侯爵が現れたのは午前一時を少し過ぎた頃だった。
「陛下、殿下、遅くなりました。申し訳ございません」
「いや、こちらこそ急に呼びつけてすまない。マクシムから緊急の案件があるということで貴殿を呼んだ」
「承知いたしました」
「父上、宰相、少し長くなります。座って話しましょう」
マクシムは二人をソファーへ座らせる。そして、報告書をテーブルに並べて、ユリウスから聞いた話を二人へ伝えていった。
一通りの話を終えると宰相はビアンカを手籠めにしようとしたテオドロスに対して、烈火の如く怒り、『今すぐターキッシュ帝国を滅ぼす!!』とテーブルを叩く。いつもなら、冷静に止めに入るタイプの国王も今回は何故か宰相に賛同して『今すぐユリウスを呼べ!!』と部下に指示を出していた。
マクシムは背筋に汗が流れる。『これは本当に攻め込むつもりだ・・・』と。
しかし、ビアンカは被害を受けたとはいえ、特にケガをしたわけでもなく元気にしているのだという。ユリウスはとても心配しているようだったが・・・。
それにテオドロスの身柄もこちらが押さえているのだから、ここは彼を上手く使って国益となるような交渉をすれば良いのではないだろうか。しかし、目の前の二人はどうやら違うらしい。これは一体どうしたものか・・・。
「父上、冷静さを失われていませんか。一般女性ならともかく、ビアンカは強い。テオドロスに誘拐されたのも何か考えがあってのことかもしれません。例えば囮になろうとしたとか・・・」
「囮だと?」
「ええ、ビアンカならするかも知れないと思ったので・・・、あくまでも私の予想ですが」
国王は顎に手を当てて考え込む。ピサロ侯爵はユリウスが作成した報告書を見つめていた。数分後、国王は宰相に耳打ちをする。
「宰相、ビアンカの秘密をマクシムに伝えても良いだろうか?」
「――――構いません。ターキッシュ帝国が出て来たなら、いずれ知れ渡ることです。覚悟は出来ております」
宰相から了解を貰った国王はビアンカの背負っている秘密(紫の瞳)をマクシムに話すことにした。
マクシムはピサロ侯爵がネーゼ王国の王族の血を引いていると聞いて驚いた。ただ、続けて聞いたイリィ帝国の後継者の話は・・・。正直なところ、後継者には神の力を与えられると言う点がピンとこなかった。神が本当にいると信じている者など、今の時代にどれくらいいるというのだろう。それにイリィ帝国が滅びてから五百年も経つのである。『これはおとぎ話の類なのでは?』と訝しんでしまった。
「宰相、その紫の瞳を持つ者同士はこの五百年の間、国もないのに争って後継者を決めていたということか?」
「いいえ、この五百年、イリィ皇家の後継者は不在でした。何故なら、紫の瞳を持つ者が産まれなかったからです。ですので、我が娘ビアンカとターキッシュ帝国の第四皇子テオドロスは五百年ぶりに産まれた後継者候補ということになります」
「――――そうか」
「はい」
国王は今までビアンカがどのように狙われて来たのかという話をいくつかマクシムにした。命を狙われ始めたのは生後一日目からだったということも・・・。
「――――ビアンカが戦士として覚醒したのは身を守るという意味では良かったのかも知れません。ただ、親としては・・・」
ピサロ侯爵は険しい顔で吐露する。しかし、聞くまでもなく彼が娘を国軍に入れたくなかったということをマクシムは以前から知っていた。ということは・・・。
「もしかして、父上が?」
「ああ、国軍の官舎へ入ることを勧めたのは私だ。兵士たちに囲まれている環境の方が屋敷で守るよりも安全だろう」
「確かに・・・」
ビアンカが国軍の官舎に入ったことにより、マクシムはビアンカと会う機会が一気に減った。のちに王立学園で再会することが出来たが、彼女は兵士としての務めを優先させていて、とても慌ただしい日々を送っていたのである。そこへマクシムが入り込む隙など全く無かった。
何より、ビアンカはマクシムに対していつも一線引いた付き合いをしてくる。それはマクシムの婚約者に配慮してのこと。
一方、マクシムは婚約者がいるにもかかわらず、ビアンカを手に入れようと四方八方に策略を張り巡らして彼女を手に入れようとした。しかし、いずれも失敗。
そして先日、ビアンカは特別任務という言葉を信じて、ユリウスとあっさり結婚してしまった。ただ、これで話が終われば良かったのだが、我が妃リリアージュがビアンカを殺そうとして逮捕されるという事態にまで発展してしまうとは思わなかった・・・。
――――マクシムは己の行いを顧みて、同じことを繰り返さないようにしっかり反省しなければと胸に誓う。
「マクシム、そこまで読めたのなら、そろそろ気が付いても良いのではないか」
「?」
国王は突然、謎かけのようなことを言い出す。
「私と宰相はこの大陸の守護神たるビアンカをこの二十一年間、護って来た」
大陸の守護神?――――話の先が見えてこないマクシムは取り敢えず、頷く。
「そこへ膨大な魔力を持つ男児が産まれた」
「――――ユリウスのことですか」
「ああ、そうだ。ユリウスは産まれた瞬間、ビアンカの婚約者と決まった」
「は?」
マクシムは初めて聞いた話があまりに衝撃的で開いた口が塞がらない。
「この婚約は私と王妃とピサロ侯爵夫妻の間で密かに取り決めた。ユリウスをレティア(国王の妹)の子として発表したのも、王家ではなくビアンカを守らせるためだった。結局、あいつは両方背負うことになりそうだが・・・」
「――――どうして、そんな大事なことを(教えてくれなかったのですか)・・・」
動揺を隠せない声で国王へ反論はしたものの、マクシムは身体から力が抜けてしまう。今までして来たユリウスへの嫌がらせやリリアージュへの愚かな言動が脳裏を掠める。
――――手に入らないものを求めているとも気付かずに・・・、何ということをしてしまったのだろう。
その上、マクシムは近々、王太子の位を返上する。これは国王や王妃、宰相夫妻の進めていた計画をすべてダメにしてしまったということ。
「機密を子供に話すわけにはいかない。ユリウスとビアンカが夫婦となった今、ようやく口に出来るということだ」
国王の横でピサロ侯爵が大きく頷いている。
「もしかして、子供のころからビアンカに大人数の影が付いていたのは、ユリウスの婚約者だったからですか?」
「そうだ。王家と侯爵家で影と護衛を付けていた」
国王が肯定し、ピサロ侯爵も頷く。
「ああああ、最悪だ・・・」
マクシムはうなだれる。
――――コンコンコン。執務室の雰囲気が非常に重くなったところで、ドアをノックする音がした。
「私です」
ユリウスの声である。
「入れ」
国王の返事を聞いて、ユリウスは室内へ入った。執務室のソファーへ視線を向けると国王、宰相が隣同士で座り、向かい側のマクシムは頭を抱えている。ただ、先にユリウスはしなければならないことがあるので、このおかしな雰囲気は無視することにした。
「この度の件、宰相閣下へお詫び申し上げます。私が至らなかったためにビアンカが事件に巻き込まれてしまいました。申し訳ございませんでした」
ユリウスは頭を深く下げる。こんなことで許して貰えるとは思っていないが、ビアンカを守るという約束を守れなかったケジメはつけておきたい。
「お詫びを受け取ります。今後もビアンカをよろしくお願いします」
予想外なことにピサロ侯爵はユリウスを咎めなかった。ユリウスはホッとする。『娘を返してくれ』と彼に言われるかも知れないと覚悟していたからだ。――――当然、返すつもりは無いのだが・・・。
「はい、大切にします。二度と彼女が攫われるような事態は起こしません」
もう一度、ユリウスは頭を下げる。
「辺境伯、頭を上げて下さい。大方、娘が囮にでもなってやろうと無茶をしたのでしょう?あの子は本当にじゃじゃ馬だから・・・」
ここでマクシムは宰相も自分と同じ考えを持っていたのだと知った。そして、先ほどは無言だったのにと少し恨めしくも思う。
「ええ、まあ、そうですね・・・」
ユリウスは否定しない。
「は~~~ぁ、やはりそうでしたか~~~」
宰相は眉間を揉む。
「ユリウス、一先ず座りなさい」
国王に促され、ユリウスはマクシムの隣に座った。
「では、これからターキッシュ帝国を滅ぼす計画を練るぞ」
「この際、あの野蛮な国はバラバラにしてやりましょう!!」
真面目な顔をして、とんでもないこと言い出した国王とピサロ侯爵にユリウスは驚く。しかし、直ぐに淡々と諭すように話し始めた。
「父上、宰相閣下、一人の過ちでいきなり戦争を仕掛けるつもりですか?第四皇子テオドロスの身柄はこちらにあります。先ずは、我が国の益になるような交渉を持ちかけた方が良いのではないですか。兵士の命を無駄にするようなことは賛成できません」
彼の説得で国王とピサロ侯爵の勢いは一気に落ちて行く。
「ブッ、クックック、お前にはとても敵わないな・・・」
マクシムは腹を抱えて笑った。
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