61 いろいろある
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
いきなり溢れ出して来たユリウスの色気にビアンカは息を呑む。
フルフルと揺れる羽毛のような睫毛のその奥、熱情のこもったライトグレーの瞳に捕らえられると頭がボーッとして来て、官能的なイランイランの香りを強く吸い込んでしまったかのようにクラクラしてしまう。
「ユ、ユリウス・・・」
狼狽えた声でビアンカは彼の名を呼ぶ。ユリウスは無言で手を伸ばし、ビアンカの顎を指先で持ち上げた。
(こっ、これは・・・・。恋物語でこんなシーンがあった・・・。えーっと・・・・)
しかし、彼女の思考は再び停止する。ユリウスのくちびる近づいて来たからだ。あと少しで触れる・・・という、その瞬間。
「――――この色気、本当に十七歳?」
ビアンカの口から本音がこぼれ落ちる。それを最悪のタイミングで聞いてしまったユリウスはパチパチパチと瞬きをした。そのまま、ユリウスはビアンカから離れ、クルリと背を向ける。
(わわわっ、ユリウス、どうした!!もしかして、私が変なタイミングで余計な事を言ったからか!?――――あ、いや、肩が揺れている!!―――笑っているのか?)
ユリウスの背中を見つめるビアンカ。彼の雪のように白い肌は健やかで瑞々しく若さに溢れていた。勿論、筋肉もしっかりと付いている。
(この肌を見れば、ユリウスが十七歳だと納得出来る。しかし、放ってくる色気は、もう目の毒というか何というか・・・。生まれてから二十一年、彼氏ナシの私には太刀打ち出来そうにないくらいの攻撃力で・・・)
「ユリウス、お肌ピチピチですね。羨ましい・・・」
彼の背中に向かってビアンカがボヤく。一瞬、肩の揺れが大きくなったのはきっと気のせいだろう。
「髪の毛も、キラキラと光り輝くきれいな銀髪で、お顔も整っているし・・・。私のカラスのような濡れ羽色の髪と物珍しいだけの紫の瞳では、とてもあなたを誘惑することなど出来なさそうです」
ユリウスは首を左右に振った。しかし、ビアンカの独り言はまだ続く。
「大体、身長が伸びすぎたのが一番ダメでした。一気に伸びたのはネロと出会った後です。再会した時、驚いたでしょう?こんな姿では可愛げも何もないですから・・・」
「――――分かって無さ過ぎです!」
ユリウスはビアンカの方へ向き直る。
「あなたは今の今、私を誘惑したばかりじゃないですか・・・」
彼はビアンカへ更に近づいた。そしてもう一度、彼女の顎を指先で持ち上げる。
「無自覚は一番タチが悪いです」
ユリウスは不機嫌な顔で、ビアンカにチュッとくちづけをした。
(お、おおおう。そんな顔でキスするのか!?ビックリした・・・)
「ビアンカ、課題!」
(はあっ~?切り替え早っ!!)
「あ、あああ、はい!!――――ユリウス、キスして」
ユリウスは右手の人差し指でトントンと彼女の唇を軽く叩く。
「?」
その行動の意味が分からないビアンカは彼をジーッと見詰める。ユリウスは視線を合わせたまま、自分の舌を少し出して見せた。
(べ―って、何だ???)
「????」
彼の言いたいことが、もっと分からなくなったビアンカは小首を傾げる。彼女が理解していないようだったので、ユリウスは行動で示すことにした。
そっとくちびるを重ねる。いつもならここで終わるのだが、今回は少し深いキスをするつもりだ。ユリウスは彼女の後頭部へ左手を添える。そして、重ねているくちびるをほんの少しだけ離して、舌先でトントンと彼女のくちびるをノックした。
(は!?――――この合図は、ま、まさか・・・!!)
初心なビアンカとて、恋人のスキンシップに関する知識を少しくらいは持っている。
(多分、ユリウスは恋物語のシーンにあったようなことをしようとしているのではないか?)
どうか間違っていませんようにと願いながら、ビアンカは少しくちびるを開いてみた。
――――――――
「大丈夫ですか?」
「――――無理」
ビアンカはユリウスの肩に顔をうずめる。
(ううううっ、凄かった・・・。もう上手く言えないけど、とにかく恥ずかしいし、絡み合う感じが生々しくて・・・。心臓もギュウッとなって・・・大変だった。ユリウスはどうしてそんなに冷静なの!?)
「――――ビアンカ、課題・・・」
「鬼!!!!」
(このタイミングで五回目!?無理、無理、無理・・・)
「そんなに嫌だったのですか?」
「――――嫌とかじゃなくて・・・、ただ恥ずかしいだけ・・・」
ビアンカは彼にボソボソ言い返す。ユリウスは間近にある彼女の耳元へ囁く。
「慣れるには練習あるのみです」
「―――――いじわる!!」
バシャン!!
ビアンカはユリウスを湯の中に押し倒した。
―――――
お風呂でひと暴れしたビアンカとユリウスが寝室に戻ると・・・。
ご丁寧に冷たいハーブティーと果物がテーブルの上に置いてあった。
「もしかして、お風呂で大暴れしたことがバレている!?」
青ざめるビアンカを見て、ユリウスはクスッと笑う。
先ほど、浴槽でビアンカに押し倒されたユリウスはお返しに彼女をお湯の中へ引きずり込んだ。それがきっかけとなり、二人の間で謎の戦いが勃発した。要するにいい大人二人が風呂で暴れたということである。
「大丈夫です。これは私がアンナに指示して用意させました。毒の心配もありません」
「ユリウス、前々から気になっていたのですけど、遠くにいる人にどうやって指示を出すのですか?」
「相手が魔法使いの時はテレバシーで伝えることもありますが、大体は伝言メモを送ります」
「テレパシー?」
「相手に向かって念じればいいだけです」
(なっ!?そんな便利な伝達方法があるのか!!国軍は未だに急ぐ時は鳥を使っているというのに・・・)
「魔法使いなら、そのテレパシーというのを使えるのですか?」
「いいえ、使えるのは全体の十パーセントくらいです」
(だろうな・・・・。ユリウスを基準にしない方が良いというのはこの五日間で学んだ)
ビアンカの髪に暖かい風が吹いて来た。これはユリウスの風魔法である。
「ユリウス、ありがとう」
「どういたしまして」
髪は直ぐに乾いた。ビアンカはソファーへ腰を下ろす。そして、ユリウスもその隣へ。ビアンカはテーブルに置いてあるピッチャーへ手を伸ばし、果実水を二つのグラスに注いだ。
「はい、どうぞ。のどが渇いたでしょう?」
「ありがとうございます。久しぶりに大暴れしたので・・・」
ユリウスはビアンカの手からグラスを受け取ると一気に中身を飲み干した。
(あ、そうだった。ユリウスは成長中・・・、お腹も空いているかも)
ビアンカはもう一度ピッチャーから彼の持っているグラスへ果実水を注いだ。ユリウスはニコッと笑みを浮かべる。
「ありがとう」
「どういたしまして。ユリウス、押し倒してごめんなさい。アハハハッ」
「いえ、なかなか楽しかったです。いい運動になりました」
ここで、ユリウスはチラリと時計を見た。
「ビアンカ、あと少しで時間切れですけど・・・、どうします?」
(あああ、最後の一回が残っているのだった!!)
「あのう、他にもいろいろあるのですか?」
「いろいろ?」
「はい、口づけにもいろいろあるのかなと・・・。さっきの口づけは恥ずかしくて・・・」
大斧を振り回す女戦士ビアンカが顔を赤くして恥ずかしそうにしている。ユリウスはこんな風に無防備な姿を見せてくれるビアンカが愛おしくて仕方ない。
「いろいろあると思いますが、何よりもまず二人の気持ちが大切でしょう。と、私が言っても、説得力がありませんね。こんな課題をあなたに押し付けているのですから」
「いえ、慣れるための練習と捉えているのでユリウスが謝る必要はないです。むしろ、年上なのに恋愛レベルゼロの私が悪いので・・・」
ビアンカはリンゴをピックで刺して、何気なくユリウスに差し出す。彼は躊躇なくパクッと食べた。続けてオレンジ、バナナ、そしてもう一度リンゴを口元へ持って行く。彼は全て食べた。
「ユリウス、もしかして、かなりお腹が空いています?」
「はい、とっても・・・」
「お夜食を用意して貰った方が良いのでは?」
「それは今日の課題が終わってからにします」
(ああ、忘れそうになっていた!!!)
ビアンカは一度、深呼吸をしてから口を開く。
「――――ユリウス、キスして」
「はい」
ユリウスは隣に座っているビアンカを抱き寄せて、耳元へ囁き掛ける。
「愛しています、ビアンカ」
五回目のキスは、先ほどの激しいキスとは真逆のしっとりと優しいキスだった。
(こんなに甘い言葉を吐かれたら、いつか心臓が止まってしまうのではないか??でも、無事に課題を終えられて良かった~~~。恋人の練習五日目終了!!――――少しは恋人らしくなっているといいのだが・・・)
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