59 お前が一番知っているだろう
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
先ほど部屋に現れた弟の様子がおかしい・・・。
「大丈夫か?」
「――――はい」
ユリウスは元々、口数が多いタイプではない。しかし、ソファーに腰掛けてから、ずっと、うな垂れている。これは何かあったとみて間違いないだろう。マクシムは黙って彼が口を開くのを待つ。
――――置時計のカチカチカチという音が、やたらと耳につく。
カチカチカチ・・・、カチカチカチ・・・。
「はぁ~~~~~ぁ!!」
ユリウスは突然、大きなため息を吐いた。そして、自分の両頬を手でパチンと叩いて背筋を伸ばし直し、マクシムの方へ視線を向ける。
「なっ!!お前、ビアンカみたいなことを・・・。たった数日でそんなに似てくるものなのか~!?」
ブッ、ハハハハとマクシムは天を仰いで笑う。
――――彼の指摘通り、ユリウスは無意識のうちにビアンカ流で気分を切り替えていた。笑っているマクシムを見て、ユリウスもじわりと笑いが込み上げてくる。
「フッ、確かにそうですね・・・」
「で、何があった?」
「あ、いえ、母上が・・・」
「ああ、突然、温室に現れたから驚いた。お前のところにも来たのだな」
マクシムは昼下がりに突然、現れた王妃のことを思い出す。彼女はフォンデの席に堂々と座り、コルネリアとネーゼ王国の国王ネタで盛り上がった後、隣のテーブルに移動して、ポリナン公子夫妻と何かを真剣な顔で話し込んでいた。
その時、マクシムはコルネリアとテーブルに二人きりだったのだが・・・。彼女はマクシムにマリウスのことを聞いてきた。『お二人って、双子のように似ていますよね?』と。
恐ろしく核心を突いた質問だったが、真実を伝えるわけにはいかないので『マリウスは左目の下にホクロがあります』と、判別方法だけ教えておいた。
「――――ええ、来ました。母上は・・・」
ユリウスは話している途中で言葉に詰まる。マクシムに何処から話すべきなのだろうかと・・・。
マクシムは急かすことなくユリウスの言葉を待つ。これは子供の時から変わらない。四つ年下の弟が必死に何かを伝えようとしているのを待つのは兄として当然のこと。
「兄さんは私の母親が母上だと知っていたのですか?」
「は?――――、何だって???」
「兄さんは、母上が私を産んだということを知っていたのですか?」
「――――何を今更?そんなの当たり前だろう」
マクシムは突拍子もない質問に困惑する。
「私は今日知りました」
「いやいやいや、大丈夫かお前・・・。では、今まで誰の子だと思っていた?」
「父上と母上からも同じ質問をうけました」
「だろうな。で、誰の子だと・・・」
「特に思い当たる人はいません。ですが、父上と母上は子宝に恵まれず、叔母上の子である兄さんを実子として迎え入れていましたし、私自身、あまりに家族と髪色、瞳の色や体格が似ていないので、ずっと疑っていました」
マクシムはユリウスの言い分を聞いて、これは確かに誤解するかも知れないと感じた。その証拠に現国王とマクシム、マリウスは体格が良く、身長も百九十センチを超え、髪色はブロンドで瞳はダークブルーだ。一方、ユリウスは王国民の十七歳平均的な身長と同じ百七十八センチで銀髪、そして珍しいライトグレーの瞳を持つ。
しかし、冷静に考えれば、現王室にユリウスと似ている者がいないというだけの話だ。過去を遡れば、話は違ってくるだろう。
「すまない。お前がそんなに悩んでいたと知らなかった。だが、間違いなくお前を産んだのは現王妃だ。私は母上(現王妃)がお前を妊娠していた時のことを覚えている」
「はい、その頃の話は先ほど母上から聞きました。それから今回、母上がこの城に来た目的はビアンカと会うためだったと・・・」
「ビアンカに何か用事でもあったのか?」
「はい」
ユリウスは王妃から聞いた話をマクシムに伝えた。勿論、聞いたことだけを・・・。紫の瞳に関することはピサロ侯爵、国王、ビアンカ、ユリウスだけの秘密なので一切、伝えない。
マクシムはビアンカがあの厳戒態勢の東棟へすんなり入り込んでいたと聞き、『僅か三歳のころから、あいつは規格外だったのか・・・』と呆れてしまう。
「――――というわけで、ブレスレットはビアンカが保管することになりました」
「なるほど、胎児に膨大な魔力か・・・。魔法のことは正直、よく分からないが、あの能天気な母上が苦しんだと嘆くのなら、本当に大変だったのだろう。ただ、ビアンカなら、そんなに心配しなくても大丈夫そうな気がするけどな・・・」
「大丈夫ではありません。苦しんだら、可哀想です・・・」
「お、お前の口からそんな台詞が出てくるとは・・・、いや、驚きだな!!」
マクシムは素直に驚いた。弟らしからぬ、その発言に。
「ええ、私もそう思います」
そして、それを肯定するのだから・・・。マクシムはもう言い返すのも馬鹿らしくなってしまった。
「私の話は以上です」
ユリウスは一区切りつけると、持って来た書類をテーブルへ広げていく。
「これは・・・」
不法侵入・誘拐未遂・暴行未遂などの物騒なタイトルが記されている報告書が並び、マクシムは言葉を失う。
「昨夜、サルバントーレ王国フォンデ王子の手引きにより、ターキッシュ帝国の第四皇子テオドロスがこの城に侵入しました。目的は我が妻ビアンカを略奪婚で自国へ連れ帰ること。そして、誘拐未遂と暴行未遂を犯したため、現行犯逮捕しました。現在、フォンデと共にこの城の魔法牢へ入れています」
「待て、ユリウス!!これは大事件じゃないか!!どうして昨夜のうちに私か国王へ報告しなかった!!」
「ビアンカのケアを優先しました」
キッパリと言い切るユリウス。
「代理の者でも構わないだろ!!」
「すみません。昨夜は私もかなり動揺していたので・・・」
ユリウスは素直に謝った。
マクシムは勢いで責めてしまったことを反省する。ユリウスもある意味、被害者であるということに気付いたのだ。
「――――で、ビアンカは大丈夫なのか?」
「はい、今は落ち着いています。ただ、嫌な思いをしたことは一生、忘れないでしょう」
ユリウスの言葉には強い怒りが含まれていた。マクシムは報告書に書かれているテオドロスの悪事を今一度視線で辿っていく。――――その内容の悍ましさに怒りが湧いてくる。
「――――ターキッシュ帝国には大きな代償を払ってもらおう。我が国の新たな王太子妃を傷つけようとしたのだから」
「ええ、そのつもりです」
二人は大きく頷き合う。
「ところで兄さんは本当に王太子を辞めるつもりですか?」
「私が辞めないと事態の収拾がつかないだろう」
「――――そうですね。では、離婚はどうしますか?」
「いや、相手が何処に居るのかも分からないのだが・・・」
マクシムは腕を組んで考える。リリアージュと最後に会ったのは爆発騒ぎのあったパーティーの時だ。それ以降、彼女の行方は全く分からない。もしかすると、リリアージュは商人たちの手を借りて、別の大陸に脱出した可能性もあるのではないだろうか。例えば、ツィアベール公国と繋がりのあるターキッシュ帝国とか・・・。
「それは私が探し出します。兄さんはどの道、リリアージュを捨てるつもりなのでしょう?」
「ユリウス、その言い方は・・・」
マクシムは視線でユリウスを注意した。
「失礼しました。言い方が悪かったですね。私が言いたかったのは兄さんがリリアージュと急いで離婚しなくても良いというのなら、彼女を兄さんの名誉挽回に使うつもりです」
ユリウスはニヒルに笑う。
「お前、その笑みは怖いぞ・・・。もう今となってはリリとの離婚などどうでもいい。それは(私からビアンカを獲った)お前が一番知っているだろう?」
「はい!」
「ムカつくほど、素直に答えたな!!」
マクシムはハァ~~~~と、ため息を吐く。
「――――ただし、今回のテオドロスの一件にリリアージュが絡んでいた場合、この話は無かったことにします」
「ああ、それで構わない。お前の挙式やパーティーの時にビアンカを殺そうとした刺客、あれを用意したのはリリなのだろう?」
「はい、既に母国へ王族の情報を流し、私の妻の殺害を計画及び実行したので彼女は死刑を免れません。その上、テオドロスに絡んでいたら・・・、容赦なく斬り捨てます」
最初に部屋に入って来た時のローテンションが嘘のようにユリウスは通常運転に戻っていた。マクシムは密かに安堵する。
「リリのことはお前に任せる。昨夜の事件は私が父上と宰相へ早急に報告し、ターキッシュ帝国への対応を検討する。今夜は泊まるつもりだったが、これから王宮へ戻る」
マクシムはテーブルの上の書類を集めて、手に持った。
「ユリウス、送ってくれるか?」
ユリウスは頷いた後、直ぐにブツブツと呪文を唱えて、マクシムの足元へ転移魔法陣を作り上げる。
「兄上、よろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」と右手を上げたところで、マクシムの姿は部屋から消えた。
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