58 王妃襲来 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
――――警備兵が子供たちの声の方へ走っていく。
すぐに子供たちの声は遠のいていった。『あら、本宮へ帰っちゃったのね・・・』と王妃は呟く。
ガサガサ・・・、ガサガサガサ・・・・。
芝生と通路の間に植えられているサルビアをかき分けて、一人の女の子が現れた。黒い髪に赤いリボンのカチューシャ、利発そうな顔立ち、宝石のように美しい紫の瞳・・・。
「おうひさま、ごきげんよう~!!」
「ごきげんよう」
元気いっぱいの女の子に王妃は優しく微笑みかける。
「――――ビ~ちゃん、お兄様たちは一緒ではないのかしら?」
「あのね、にいにたち、おおきなひとにつかまっちゃったの。でもね、ビーはつおいから、つかまらないの」
「あら、ビ~ちゃんは強いの!?」
「そう、ビーはつよいの!!」
――――この物怖じしない女の子の正体は言うまでもなく、宰相の一人娘ビアンカである。
「あ~、おうひさま!たいへーん!!ポンポン、いたい?」
ビアンカは眉を寄せ自分のお腹に両手をあてて、王妃のお腹と見比べた。
「ビ~ちゃん、これはお病気ではないから、大丈夫よ」
「だいじょうぶ・・・?」
「ええ、お腹の中に赤ちゃんがいるの」
「あ、あかちゃん!!!!」
ビアンカは赤ちゃんと聞いて目をキラキラ輝かせる。
王妃はもっと近くにおいで~と手招きをした。ビアンカはピョンピョンとウサギのように跳ねながら、王妃の横へ移動する。
「あかちゃん、ここ?」
「そうよ。少し元気過ぎる赤ちゃんなのよ~、ウフフフフ」
王妃はお腹をジーッと不思議そうに見つめているビアンカの姿があまりに可愛らしくて、つい顔が緩んでしまう。
「ビ~ちゃん、触ってみる?」
「うん!!」
王妃はビアンカの小さな手を取って、自分のお腹へあてた。すると、ポンポンとすぐに内側から胎児が蹴ってくる。
「うおおおおおおっ!!」
驚いてお腹からパッと手を離したビアンカは、しばらく自分の手のひらをジィーッと見つめていた。そして・・・。
「もっかい、さわってもいい?」
「いいわよ」
――――ビアンカはそ~っと慎重に王妃のお腹へ小さな手をあてる。すると・・・。
ドン、ドン!!――――今度は強めに内側から蹴ってきた。
「うおおおおっ。あかちゃん、あばれた!!」
ビアンカは一度、後ろへ仰け反ってから、またお腹に手をあてる。
「あかちゃん!!あのね、おりこうさんにしたら、ビーがあそんであげる。おりこうさん、おりこうさんよ~!!」
トン。――――今回は一度だけ蹴り返された。まるで『はい』と返事するみたいに・・・。
「おうひさま、このあかちゃんはね、おりこうさん!!」
「あら、それは嬉しいわ!」
「うん」
ビアンカは澄んだ瞳で王妃を見つめる。そして唐突にワンピースのポケットから小さなブレスレットを取り出した。
「これ、あかちゃんにあげる!!ビーのおまもり」
「あらららら、そんなに大切なものは貰えないわ・・・」
「うううん、ビーはつおいからいらないの」
「強いから必要ないの?」
「そう、つよいからいらない。あかちゃんにあげる」
ビアンカはブレスレットを王妃のお腹の上へ両手でそっと置く。
――――次の瞬間、宰相の叫び声が中庭へ響き渡った。
「ビアンカ~!!何処にいる!!出て来なさい!!」
「あら、ビ~ちゃん、お父様が呼んでいるみたいよ」
「ううっわ~、パパだ~!!」
父の声を聞いて慌てたビアンカはどうしていいのか分からなくなり、その場でクルクルクルと回ってしまう。
――――王妃は可愛いお客様の逃走をお手伝いをすることにした。
「ビ~ちゃん、あちらのドアから建物に入って、廊下の先にある階段を上るのよ。そうすれば、マクシムの部屋に着くわ。――――さあ、見つからないうちにお行きなさい。今日のことは二人の秘密ね!」
王妃は口元に人差し指を立てる。
「ひみつ?」
「そう。赤ちゃんが産まれることも、みんなには秘密!!」
「わかった~!!おうひさまとびーのひみつ~!!」
ビアンカは口元に人差し指を立てたまま、王妃の教えた方向へ全力で走っていったのだった。
(――――――――えええっと、全く記憶にない!!どうしよう・・・)
「それでね、不思議なことが起こったの・・・・・・・・」
王妃は意味深な口ぶりで間を取る。――――ビアンカは何が起きたのだろうと話の続きが気になってしまう。
「―――――ビ~ちゃんがお腹を触ってから、変な痛みも起こらなくなって体調がとても良くなったの!!だから、何か特別な力でも持っているのではないかしら~って、宰相とお話しをして・・・。――――あっ、ごめんなさい!実は宰相にあの時のことは報告していたの」
王妃の告白に『特別な力』というキーワードが出て来て、ビアンカはドキッとした。そして、ユリウスは・・・。
「あのう、私は母上から生まれたのですか?」
(んんん?何故に疑問形???)
「あら、やっぱり疑っていたのね!!ユール、あなたを産んだのはわたくしよ。そうじゃなかったら誰の子だというの?」
「――――そうなのですね・・・」
ユリウスは心ここに在らずという感じで、ボーッとしている。
「ユリウス、大丈夫ですか?」
彼の様子が何となく気になって、ビアンカは声を掛けた。
「ユール、質問したいことがあるなら、わたくしに聞きなさい。何でも答えるわよ~」
「―――――似てない・・・」
ユリウスはボソッと呟く。
「あら~~~~~!!そんなことを気にしていたの!?そうねぇ~、近々二人で王宮に遊びに来なさい。ユールの心配事はその時に解消してあ・げ・る!!」
「今がいいです」
「まぁ~、せっかちはダメよ!楽しみは取っておきましょう!!」
「楽しみではないです・・・」
王妃は何処からか扇子を取り出し、オホホホ~と笑う。
(王妃様はこれ以上、話すつもりはなさそうだな・・・)
「では、用事が終わったのなら・・・」
ユリウスは王妃を王宮へ帰らせようとソファーから立ち上がった。
「もう、待って頂戴!!まだ大切な用件が残っているの!!」
王妃は扇子をパシンと畳んでユリウスに向け、今一度そこへ座りなさいとジェスチャ―で示す。ユリウスは渋々ソファーへ腰を下ろした。
「では、改めて・・・。ビ~ちゃん、このブレスレットはあなたへお返しします」
「えっ!?あっ、はっ!?――――ええっと、もう不要ということでしょうか?」
突然、王妃から名指しされたビアンカは咄嗟に余計なことを口走ってしまう。
(――――不要って多分、失言・・・・)
「違う、違う!!そうじゃないの!!いつかユールとビ~ちゃんに赤ちゃんが出来たとき、またこのブレスレットが必要になるかも知れないから・・・。わたくし、あなたたちの子はユールと同じかそれ以上の魔力を持っていそうな予感がするの。だから、ビ~ちゃん、このブレスレットはその時のためにお返ししておきます」
「分かりました。では、大切に保管しておきます」
(う~ん、私とユリウスとの子のことを王妃様はもう心配しているのか・・・。今のところ現実味ゼロな話だな。――――まぁ、いつか、そんな日が来ると・・・、いいけど)
ビアンカは手のひらの上にある小さなブレスレットを見て、無意識に笑みを浮かべてしまうのだった。
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