54 英雄は手を抜かない
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
カン、カンカン!!と木剣がぶつかり合う。
(この子は運動神経がいい。しっかりと筋力をつければ伸びそうだ・・・)
今、ビアンカはB班の若手兵士ロキと対戦している。
――――リシュナ領軍にはA~Dの四つの班があり、ビアンカは本日B班、D班のメンバーと対戦する予定だ。ルールは一本先取制。なお、木剣を落としたり膝が地面についた場合も負けとなる。
ロキはビアンカよりも頭一つ背が低く身体の線も細い。そのため、彼はビアンカが力強く振り下ろす木剣を真正面から受けないよう俊敏な動きで攻撃をかわしながら、彼女に隙が出来るのを待っていた。
(ああ、惜しいな。攻撃するフリの一つでもすればいいのに・・・。これでは私の隙を狙っているのがバレバレだ。これが本当の戦闘なら、相手が自分の隙を狙っていると気付いたらこうするだろう)
ビアンカは木剣を握り直そうとして手が滑ったフリを、ロキの目の前でして見せる。予想通り、ロキはビアンカに隙が出来たと勘違いし、これを好機とばかりに木剣を真上に振り被った。
(よし!掛かった!!そんなに派手に振り被ったら、直ぐにガード出来ないだろう~~~。ふふっ、まだまだだな!)
ロキの行動が予想通りでビアンカは心の中でガッツポーズを作ってしまう。そして、間髪入れずに右方向へ腰を落として、ロキの太ももを右下から左上へ叩き上げた。
「うっわぁ~!!」
驚きの声と共にロキの身体は吹っ飛ばされる。そして、地面にドサッと落ちると・・・。
「ううううううっ!!!」
苦しそうな呻き声を上げて足を抱え込む、ロキ。
(斜め上に叩き上げたから。多少、痛くとも骨は大丈夫だろう)
「勝負あり!!!」
審判ルイーズの声が修練場に響き渡る。
ユリウスは一部始終を真剣に見ていた。ロキは現在十四歳でこの軍では有望株とされている。しかし、ビアンカを前にすると実力が違い過ぎて・・・。正直、対戦どころか練習にもなっていない。
――――七年前のあの時、大勢の刺客から一人でユリウスを守り抜いたビアンカはロキと同じ十四歳で・・・。しかも、武器という武器も持たずに・・・。
今更ながら、彼女は生まれた時から何かしらの力を持っていたのではないだろうかとユリウスは疑ってしまう。
「ビアンカ~。次に行っていい?」
ルイーズが確認するとビアンカは木剣を持っていない方の手を上げた。
本来、朝訓練は一時間半ほどで終わる。しかし、本日は三十名との対戦を予定しているため、多少時間がオーバーするだろうと予想していた。
「閣下。いつも(毎日の朝訓練)より早く終わりそう・・・」
ルイーズが隣でボソっと呟く。
「ああ、そうなりそうだ」
「三日も必要なかったですね~。このスピードならこの軍の全員と対戦しても時間が余っちゃう~~~」
「してみるか?」
「いいえ、希望者だけにします。『怖いから退職します!』って、可愛い団員たちに言われたら困るんで~~~!!」
ルイーズは全力で両手を振って断った。
(んんん?ルイーズ、ユリウス相手に何をそんなに嫌がっているのだ?一方、ユリウスは仕事モードで無表情だな。――――良く分からないが・・・。まぁ、いい。今は対戦に集中しよう)
ビアンカは深呼吸をして、集中力を高める。これは相手に対する敬意でもあった。格下の相手だろうと全力で挑むのがビアンカ流なのである。
――――――――
対戦も後半に入り、ビアンカはD班のメンバーと剣を交えていた。
(伸びそうな気がしたのは前半に戦ったロキくらいか。全体的に身体の動きは良いが、戦略に欠けているような気がする。戦術などをもう少し叩き込んだ方が良いかも知れない)
「ビアンカ様、D班のベラです。あたしはこれで戦いたいのですが~。いいですかぁ?」
ベラが手に持っているのは棍棒だった。
「棍棒か。私も合わせた方が良いか?」
「えっ!!ビアンカ様が棍棒!?」
ベラはビアンカが棍棒を使えると知らなかったので素直に驚く。
「是非、棍棒同士で戦いたいです!!お願いしますっ!」
「分かった。ルイーズ!私にも棍棒をくれ!!」
「はいよ~~~!レリック!!ビアンカに棍棒を持って来て」
ルイーズは後ろに立っていたレリックに命令する。彼は慌てて、修練場の武器庫へ走り込んでいく。
――――レリックは直ぐに棍棒を持って武器庫から飛び出してくると、ビアンカの元へ駆け寄った。
「ありがとう」
礼を言って棍棒を受け取ったビアンカにレリックは軽く頷いてから、元の場所へと戻る。
(レリック、素早いが寡黙だな・・・)
「お~い、始めるよ~。二人とも位置について~~~!!」
ルイーズが声を掛けると、ビアンカとベラは立ち位置についた。
(この子、わざわざ棍棒で戦うと言って来たのだから多少、自信があるのだろう。こちらも全力で迎え撃ってやろうじゃないか)
「よし!始め!!」
掛け声と共に二人とも棍棒を前に突き出して、相手の出方を窺う。まだ直立不動の状態で腰は落としていない。
ベラはこの時点でビアンカの隙の無さに驚愕する。いつもなら、棍棒を武器として使う者が少ないということもあり、ベラが長い棍棒を相手に向けて構えるだけで怯ませることが出来た。しかし、ビアンカは木剣から棍棒に武器を替えても平然としている。
(ん?この子、予想していたよりも隙があるな・・・。そんなので大丈夫か?)
ビアンカは棍棒を使う珍しい兵士が現れたので、その腕前をじっくり見極めるつもりだった。先ずは様子見をするべく、棍棒の中心あたりを左手で握り、右手は棍棒の端まで引き下げて二点で持つ。
(この状態から私が突くか、なぎ倒すか、あるいは回転させてダメージを与えるのか、この子はどう予想するのだろう・・・)
膠着状態を壊したのはビアンカだ。彼女は武器を動かさず、大きく一歩踏み出したのである。
(ここで慎重な者は静かに一歩後ろへ下がるだろう。だが、恐怖を感じている者は攻撃を仕掛けて来る。そして、この子は・・・)
ベラは警戒しつつ、一歩下がった。ビアンカは彼女に興味が湧く。
(無闇に打ち込んで来ない点はいい。後は武器を使いこなせているかどうかだ)
ビアンカは彼女の攻撃を見たかったので、棍棒で真っ直ぐ突いてみた。すると、彼女は棍棒を横向きに持ち替えて、防御の構えを取る。
(慎重だ。それはいい。ただ、攻撃を仕掛けないと戦いは終わらない)
続けて、棍棒に体重を乗せて横一線に薙いでみたり、縦に回転を掛けて、棍棒の左右の端で殴りかかったりもしてみたのだが・・・。
(おいおい!!防御一択じゃないか・・・)
「ベラ、攻撃しろ!」
とうとうビアンカはしびれを切らして、ベラに注意をした。すると・・・。
「怖くて攻撃できません~~~。どうしたらいいですか?」
「それを私に聞くのか!?」
(いやいやいや、この緩い感じは怖いって・・・。これ本当の戦闘だったらどうするつもりだ?というか、ここは戦闘の多い地域だろ!実戦経験もそれなりにあるはずだろうに)
「お前は敵に『どうしたらいいですか?』と毎回聞いているのか?」
「聞きません」
「私を倒したいなら、自分で考えて攻撃してこい!」
ビアンカに喝を入れられ、ベラは腹を括る。
「雷神一閃!!」
ベラの棍棒が上下左右に激しく且つ不規則に回転し始めた。
「おおおう。ワクワクする技を持っているじゃないか!!かかって来い!!」
ビアンカはここで漸く腰を低く落として、棍棒を使う時の正しい構えを取る。
遠目からビアンカを見ているユリウスは、彼女の纏う雰囲気が一気に変わったと感じた。
(この子の繰り出す技がどんなものか見極めてやろう!)
カン!カンカン、カンカンカン!!!
ベラの繰り出す一撃はビアンカにことごとく阻止されてしまう。
(まあまあ動きは良いが、この子も戦略が悪い。長い棍棒の特性を生かして、回転を掛けて相手に当てる戦法なのだろうが・・・。例えば相手が剣だったらこれでもいい。だが、同じ武器(棍棒)を持つ相手をこのやり方では倒せないぞ。そろそろ潮時か・・・)
ビアンカは防御を止めて攻撃を開始する。棍棒を三百六十度(全方向)に回転し始めると、ベラへ半歩ずつ近づいていく。
――――程なく、ビアンカの棍棒は目に見えないほど早く回転し、ビュオンビュオンと轟音を鳴らし出した。目の前のベラだけではなく修練場にいる者たちにもこの後どうなるのだろうかと恐怖を感じ始める。
(よし、今だ!!)
ベラの間合いに入った瞬間、ビアンカは棍棒の遠心力へその身を乗せて、彼女の手元へ回し蹴りを入れた。
コン、カンカンカン・・・。
棍棒がベラの手から離れて地面に転がる。
「勝負あり!!」
腕を押さえたベラは苦痛に満ちた顔をしていた。
(かなり痛いだろうに声も上げないのか。根性はあるようだな)
「――――ビアンカ様、ありがとうございました」
ベラは痛みをこらえながら挨拶を終えると救護室の方へ歩いて行く。視線の先にサジェがチラリと見えた。ユリウスが兵士の治療のために呼んだのかも知れない。
(対戦はあと三人か。結構、けが人を出してしまったな。それにしても、想像していたよりも兵士たちに課題が多いぞ。鍛え直さなければ!!!)
―――――リシュナ領軍との対戦一日目、三十試合は四十五分で終了。ビアンカは危なげなく全勝したのだった。
★ミニ情報★
ロキ 14歳 リシュナ領軍 若手ホープ
ベラ 16歳 棍棒の使い手
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