52 夢の一片
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「陛下、王妃様の主治医がお時間をいただきたいとのことです」
(ん?この声は・・・)
ビアンカは聞き覚えのある声を聞いて、目を開ける。王宮の一室らしき部屋にいるのは、国王と宰相ことピサロ侯爵(ビアンカの父)だった。
(父上たちが若い・・・。これは夢?)
「王妃の主治医が?――――分かった、時間を作ってくれ」
「かしこまりました」
二人のやり取りが終わったところで、場面は切り替わる。次は応接室のような部屋のソファーに国王が座っており、宰相は斜め後ろへ立っていた。そして、向かい側には白衣を着た男が座っている。
(あの白衣の男性が主治医か?わざわざ、時間を取って話をするということは王妃様に何かあったのだろう)
ビアンカは話の内容を聞こうと三人に近づいていく。向こうからは彼女が見えていないようだった。
(夢であるはずなのに現実のようにも感じる。起きた時に覚えていたら、夢ではないということなのだろうか?――――それはそれで奇妙だな。時を遡っているのだから)
「ベンジー医師、王妃の体調に何か問題でも起きたのか?」
「はい、お伝えしておかなければならないことが、少々・・・」
ベンジー医師は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始める。
「王妃様が微熱を出されておりましたので今朝方、診察いたしました。ご懐妊でございます」
「なっ!?なんと!!それはまことか!?」
国王は両手でこぶしを握って、勢いよく立ち上がった。今にも部屋から飛び出して、王妃の元へ駆け出しそうな勢いで・・・。
「陛下、お待ちください。お伝えしなければならないことがあります!!最後まで聞いて下さい」
喜びで浮足立っている国王をベンジー医師が引き留める。
「伝えておくべきこととは、どのようなことでしょうか?」
国王の代わりにベンジー医師へ質問をしたのは宰相だった。
(父上は昔から淡々としていたのだな・・・)
「陛下。王妃様の身籠られた赤子から膨大な魔力を感じました。このまま、お腹の中で成長していくと王妃様の命を脅かす危険性があります。大変申し上げにくいのですが、これからのことをお二人で話し合われた方が良いかと・・・」
「それは・・・、ようやく授かった赤子を諦めろというのか?」
国王は殴りかかりそうな勢いで、ベンジー医師へ詰め寄る。
「いいえ、それは違います。わたくしも長年、陛下と王妃様がお子様を授かるために努力なさっていたことを存じております。ですので、お産みになると決意なさられたら、全力でサポートいたします」
「ああ、すまない。つい興奮してしまった。――――先ずは王妃と話してみよう。少し時間をくれ」
「はい」
――――ここで、スーッと部屋の景色が遠ざかっていく。ビアンカは今見ているのは夢だと確信を持った。そして、王妃様が妊娠しているという赤子は恐らく・・・。
(ユリウスのことだろうな・・・。続きが気になる。しかし、これ、全てを見終われるかな・・・。途中で目覚めてしまったら、――――続きが気になって仕方なくなりそうだ)
次の場面は王宮の中庭だった。以前、幼いユリウスの夢を見たところと同じ場所である。
「父上~」
泥だらけの小さな男の子が現れた。歳は三、四歳くらいだろうか。後方からタオルを持った侍女が走って男の子の後を追って来ている。
(あれはどう見ても・・・、マクシムだな。全身泥だらけになって何をしているのだ?)
「マクシム、その汚れはどうしたのだ」
「ヴィス(デイヴィス)と虫さん見たの。そうしたらね、ビー(ビアンカ)が怒ったの」
(えっ!?ここで私の名前が出るのか?おそらく・・・、兄を取られて暴れた的なやつだな。私は昔、兄上のことが大好きだったからなぁ。――――今は全くだが・・・)
「そうか、そうか、楽しかったか?」
「うん、楽しかった!!」
マクシムは元気よく答えた。国王は泥だらけのマクシムを躊躇せずに抱き上げると侍女の方へ歩いて行く。
(国王夫妻は子供が長年出来なくて悩んでいたという話だったから、マクシムのことを大切に育てていたのだろうな)
そこで世界が暗転した。暗闇の中から、声だけが聞こえて来る。
「陛下。ただ、ひとつ心配なことがあります」
「マクシムのことであろう?」
「はい、マクシムは私達の大切な子供です。このお腹の子が産まれた後も第一王子はマクシムです。あの子に辛い思いはさせたくありません」
「ああ、一部の貴族はマクシムの出自を疑っている。私も第二王子が産まれて、あの子の立場が脅かされるような展開は望んでいない。宰相の提案で、そなたの妊娠は出産が無事に終わるまで伏せておくことにした。だから、時間はある。ゆっくりと最善を考えよう」
(そうだったのか。国王夫妻は子を授かった時に、マクシムのことをとても心配したのだな。いや~、愛情深いご夫婦だ。素敵だな・・・。――――んんん?)
「――――ビアンカ」
(とても近いところで、ユリウスが私を呼んでいるような気がする・・・)
「ビアンカ、風邪を引きます」
(ああ、もう少し・・・、まだ最後まで見てない・・・)
「ビアンカ!!」
「わぁ!!」
耳元で大きな声を出され、ビアンカは一気に覚醒する。
(視界が横向き・・・。あ、やっぱり、ユリウスだ!!)
どうやら、ビアンカはソファーのひじ掛けに横倒しの状態で眠っていたらしい。ユリウスは床に跪いて、心配そうに彼女の顔を覗き込んでいる。
「こんなところで眠るなんて、かなり疲れていたのでしょう?」
「分かっていたのならわざわざ起こさなくても・・・。ベッドに運んでくれたらいいのに・・・」
彼女の口からポロリと本音がこぼれる。夢の続きが見られなくて残念だったからだ。
「――――気が利かなくてすみません」
元気のない返事が聞こえる。無神経な発言で凹ませてしまったと気付いたビアンカは直ぐに謝った。
「いえ、こちらこそ、横着なことを言ってすみませんでした」
ユリウスは首を振る。
「いいえ、気が利かなかったのは事実なので、気にしないで下さい。ところで・・・」
「ところで?」
彼が言い淀んだので、ビアンカはオウム返しをする。
「ビアンカ、ショックを受けていませんか?」
「ショック?」
「ええ、手足を拘束されたり服を破かれたりと、今日は嫌なことをいっぱい味わったでしょう。こういう時、どこかに不調が出た・・・」
「あります!!!そう、変な感じなのです!!凄い、ユリウスは何でも分かるのですね!!」
嬉しくなったビアンカはユリウスの話を遮って、彼に飛びついた。床に跪いていたユリウスは受け止め切れず、彼女と共に後ろへ倒れてしまう。
「うわっ!すみません」
ユリウスを下敷きにしてしまい、ビアンカは謝る。幸い、床にはフカフカのラグが敷いてあった。
(危なっ!石床の上じゃなくて良かった!!ユリウスにケガをさせるところだった!!!)
「いえ、こちらこそ、受け止め切れなくてすみません」と、ユリウス。
「フフフ、今夜はお互いに謝ってばっかりで面白いですね。フフフフッ」
「ええ、そうですね。――――ビアンカ、変な感じがすると言っていましたが、何か私に出来ることはありますか?」
Xから『ビアンカ様のフォローを』と言われたものの、何をしていいのか全く分からないユリウスは、ズバリ本人に聞いてみる。
「ユリウスがシャワーを浴びに行ってる間の出来事を聞いて欲しいです」
「聞かせて下さい」
「ユリウスがシャワールームへ行った後、ベッドへ横になったのですが突然、テオドロスの顔が思い浮んで吐き気がして・・・。ただ、それは身体一度、起こしてみたら治まりました。それで、もう一度ベッドへ横になってみたのですが、今度は天蓋のカーテンが閉まっていることに気持ち悪さを感じてしまい・・・。なので、直ぐにカーテンを開けてソファーへ移動したのですが、座ると同時に強い眠気が襲って来て、――――負けました」
「――――ストレスを感じているのかも知れないですね」
「ストレス?」
「嫌なことを無理に我慢した結果、ストレスになっているのではないでしょうか?」
「もし、この原因がストレスなら、どうしたらいいのでしょう?」
二人は顔を見合わせて、首を捻る。ユリウスは精神魔法を使うことも少し考えたが、それでは根本的な解決ではないような気がした。
「やはり、こういう時はテオドロスに渾身の一発をお見舞いして、スッキリしたらいいのですかね?」
床の上で抱き合っている状態というのに、ビアンカは色気ゼロの発言をする。
「殴って治る可能性があるのなら、明日にでも試してみましょう。今からと言いたいところですが、アレ(テオドロス)の意識はまだ戻ってないと思います」
「――――でしょうね。ユリウス、人形劇みたいでしたよ。ピョンピョンと人も物も飛んで・・・」
ビアンカはテオドロスが右左に飛ばされていた様子を思い返す。
(テオドロスも部屋もボロボロになっていたからなぁ~。やはり、ユリウスとは対峙したくないな)
「私はあなたのことになると抑えが利かなくなるのだと自覚しました」
ユリウスはビアンカの腰と背に手を回した腕に力を籠める。おのずと密着度が上がった。
「――――ユリウスが噛んだ痕を指でなぞられて、ゾ―ッとした・・・。くちびるも指で触られて気持ち悪くて・・・」
ボソボソとユリウスの耳元でビアンカは恨み言を呟く。もしかすると、こういう本音を聞くことが大切なのかもしれないとユリウスは気付く。
「ゾ―ッとしたのですね」
「そう。ユリウスに触られても嫌じゃないけど、あいつに触れるのは気持ちが悪くて嫌だった」
英雄ビアンカがこんな愚痴をいうなんて誰が予想するだろうか?
――――ユリウスは彼女との距離が少し近づいたと感じた。
「嫌な思い出を忘れられるように、もう一度噛みましょうか?」
「――――荒療治?」
クスクスと笑い合う二人。ユリウスは彼女が自然に眠るまで、今夜は付き合おうと心に決めた。
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