51 側防塔
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
書斎に入ると予想通り、Xがユリウスを待っていた。開口一番、彼は前のめりでユリウスに訴える。
「閣下、やり過ぎですって~!」
大体、フォンデがテオドロスをこの城に招き入れたのが悪いのだから、そんなことを言われてもとユリウスは心の中でごちる。
「外交問題になるんじゃないっすか!?」
「いや、それはない。今回の件が表沙汰になったら、サルバントーレ王国の方が困るだろう」
「んんん、どういうことっすか?」
今起きた事件の詳細を知らないXはユリウスの話をしっかり聞こうと、前のめりになっていた姿勢を正した。
「フォンデはこの城にターキッシュ帝国の第四皇子テオドロスを留学生と信じ込んで連れて来た。テオドロスはビアンカを誘拐しようと目論んでいたようだ。略奪婚をするために」
「はぁ~?嘘でしょ!」
「本当だ。しかも、あいつ(テオドロス)は魔法を使える」
「マジで!?」
Xは驚愕する。騙されていたとはいえ、一国の王子フォンデが誘拐の手引きをしてしまったという事実に・・・。これは公になれば大スキャンダルだ。
そして、ターキッシュ帝国の第四皇子とは何者なのか?――――Xはビアンカの強さを知っている。彼女がそんな簡単に誘拐されることなどあるのだろうか。
「ビアンカは囮捜査を試みたらしい」
「――――魔法使い相手に!?」
「ああ、危機感が無さ過ぎて血の気が引いた」
「ですよね~!?ケガとかは?」
「幸い怪我はなかった。ただ・・・」
ユリウスは言い淀む。部下と情報を共有しなければならないのは分かっているが、ビアンカのプライバシーに関わる内容をあまり口にはしたくなかったからだ。
「閣下。隠し事はナシで!!俺、性格は軽いですけど、口は堅いっす!!」
「――――私が踏み込んだ時、ビアンカは手足を拘束されていて、――――シャツを切り刻まれて上半身が露わの状態だった。そして、テオドロスは彼女の上に覆い被さり、彼女の唇に手を伸ばしていた」
「はい!――――死刑決定!!」
Xはユリウスの心を代弁してくれる。だが、誘拐未遂や暴行未遂では、残念ながらテオドロスを死刑にするのは難しい。だから、今回の事件は外交のカードとして、存分に使ってやるつもりだ。簡単に許すつもりなど毛頭ない。
「閣下・・・。目が怖いですわぁ~」
身震いをして見せるX。かなり嘘くさいが、いちいち指摘するのは面倒なのでユリウスはスルーする。
「お前はフォンデの件でここに来たのだろう。――――降ろしたのか?」
「いえ、そのままっす。王子殿下は既に気を失ってるんで、このまま吊るしていても、あまり意味がなさそうっす」
「分かった。フォンデは側防塔から降ろして、牢に入れておけ」
「御意っす!」
Xは胸に手を当てて、踵を返したところで立ち止まった。そして、その場でクルリと首だけ回してユリウスに声を掛ける。彼にしては珍しく真剣な表情だった。
「ビアンカ様、大丈夫っすかね?囮とはいえ、身ぐるみを剥がれたらショックですよね~」
「ああ、気持ち悪かったと嘆いていた」
「ああああ~、それは可哀想っすね。閣下がしっかりフォローして上げて下さいね。では、失礼しまっす!!」
飄々とした足取りでXは書斎を後にした。彼を見送った後、ユリウスは小首を傾げる。
――――フォローとは何をすればいいのだ?と。
Xの言うフォローとは被害者のケアのことだろうか。それならば、今からでも女性医師を呼ぶべきかと、ユリウスは悩み出す。
「いや、Xは閣下がして下さいと言った・・・」
ボソッとユリウスが呟いたその時、コンコンと寝室側のドアをノックをする音がした。ユリウスは椅子から素早く立ち上がり、ドアを開く。
「あれっ?Xはもう帰ったのですか?」
「ええ、彼の用事は終わりましたから」
「――――テオロドスのことですか?」
「いえ、フォンデのことです」
ユリウスはビアンカから視線を外し、壁に掛けてある絵画へ視線を向ける。そこにはローマリア王国の軍旗を大地に突き立てる勇ましい女神が描かれていた。
(ユリウス、壁の絵をじっと見つめて・・・、どうかしたのか?)
「フォンデ王子殿下に何か問題でも?」
「――――側防塔に吊るしました」
「は?」
「ビアンカが連れ去られたと他人事のように叫んでいたので、腹が立って側防塔に吊るしました」
(ユリウス、真面目な表情で何を言い出すのかと思えば・・・。城の四隅にある側防塔のことだよな?あれ、かなり高いぞ・・・)
ビアンカは側防塔にフォンデが吊るされている姿をつい想像してしまう。すると、笑いが込み上げて来て・・・。
「ブッ、クックック。すみません。想像してしまいました。フフフフフッ」
「残念ながら直ぐに気を失ったようで、効果がイマイチでした」
「アハハハッ、フォンデ王子殿下は運が良いですね」
ユリウスは無表情でコクンと頷く。
(ユリウス、不服そうだな。フォンデ王子殿下がテオドロスを連れて来たから怒っているのだろうが・・・)
ビアンカはここでひとつ気になったことがある。
「――――外交問題になりませんか?」
「Xにも同じ指摘を受けました。大丈夫です。悪いのはあちらですから」
「それは・・・、その通りですね」
(あ、やっぱり、まだ怒っているのか。話題を変えよう・・・)
「ええっと、お願いが・・・」
ビアンカは自分の髪を指差す。タオルで拭いたものの、彼女の黒髪はまだ濡れていた。乾かして欲しいのだと察したユリウスは返事をするよりも早く、風魔法を発動する。
ブワッと暖かい風がビアンカの周りをクルクルと包み込む。
(おおっ!一瞬で乾いた!!やはり、ユリウスの風魔法は便利だな)
「ありがとう、ユリウス」
「どういたしまして。私もシャワーを浴びて来ます。ビアンカは明日の朝訓練に備えて遠慮なく先に休んで下さい」
「分かりました」
ユリウスはクローゼットルームの奥へ消えて行った。
彼を見送ったビアンカはベッドへ横になる。何気なく視線を天井に向けると急に吐き気がした。テオドロスの顔が脳裏に浮かんで来たからだ。
(なっ、なんだ!?この感覚は・・・。うううっ、気持ち悪い・・・)
ベッドから起きて、立ち上がると何もなかったように治まった。
(――――食あたり?いや、それならこんな簡単には治まらないだろう)
気を取り直して、再び横になる。今度は大丈夫だった。手を伸ばし、天蓋のカーテンの隙間を閉じる。
――――ゾクッ。
脳裏にテオドロスの手の感触が蘇る。全身の毛が逆立つような気がして目を開くと天蓋のカーテンで囲われていることに違和感を感じた。
(なんかヤダ・・・)
ビアンカは身体を起こし、カーテンを一気に開く。
(一体、私の身体に何が起こっているのだろうか?)
ベッドの端に腰掛けて、ビアンカは視線を持ち上げる。窓際に置かれたユリウスのベッドが目に入った。
(あまり難しいことは私には分からない。ユリウスが出てくるまで待つとするか)
先に寝るのは諦めて、ビアンカはベッドからソファへ移動した。しかし、何故かソファに座ると激しい睡魔が襲って来て・・・。
彼女はひじ掛けに寄りかかったまま、深い眠りへ落ちてしまったのだった。
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