50 何のために得た力だ?
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ユリウスが父(国王)と宰相にビアンカが欲しいと口にしてから二年後、彼はピサロ侯爵邸に招かれた。
そして、その時にビアンカにはイリィ帝国の王族の血が流れているという真実を宰相から明かされる。ただ、ユリウス自身も王族なので大した驚きはなかった。
――――むしろ、ビアンカがイリィ皇家の血を引いているというなら、ユリウスの結婚相手としてピッタリなのでは?と楽観的に捉えたくらいだ。
しかし、続けて宰相が語ったイリィ帝国の皇帝には神の力が与えられるという話、後継者(次期皇帝候補者)の証を持つ者たちが玉座を巡って過去に熾烈な争いを繰り広げたという話、そして最後にこの時代の後継者の証を持つ者の一人がビアンカであるという話を聞かされるとユリウスは言葉を失ってしまう。彼女の背負う運命の重さに・・・。
――――宰相とユリウスはしばし沈黙した。
ユリウスは己がどうしたいのかを自問自答する。彼がビアンカに惹かれたきっかけは彼女が正体の分からない子供を命がけで守ろうとした正義感に胸を打たれたからだ。
だから、これからはユリウスがビアンカを狙う別のイリィ皇家の後継者から彼女を守りたい。ただ、十二歳のユリウスにそんな力はなく・・・。
ここで苦悶の表情を浮かべるユリウスへ、宰相は一つの提案をした。
『ビアンカを守れるだけの力を手に入れた時、私は喜んで殿下へ娘を差し上げます』と。
ユリウスはハッとする。宰相はユリウスが力をつければ、ビアンカの縁談を考えると提案して来たからだ。それならば・・・。
――――この後、直ぐにユリウスは国王を説得して、前々から招待されていた魔塔へ足を踏み入れた。そして、僅か数年で魔塔主の座まで上り詰めていく。
昨年、ユリウスは辺境伯爵の地位を得たタイミングで『彼女を守るだけの力を手に入れました』と宰相へ申し出た。――――その結果がこの結婚である。
だというのに、ユリウスの腕の中にいるビアンカは安易に人を頼ろうとはしない。今もテオドロスがここへ来た経緯を探ろうとして・・・、無茶をした。
テオドロスは連れ去ったビアンカの手足を拘束して、シャツを切り刻んだ。ユリウスはビアンカに無体を働いたテオドロスへの怒りと彼女を守ることが出来なかった悔しさでタガが外れて暴走し、最後は不覚にも涙まで溢してしまった。
――――情けない・・・。何のために得た力だ?と心の中で繰り返す。
そんな彼にビアンカは責めることもなく大丈夫だからと何度も口にする。どう見ても彼女の方が大丈夫ではないのに。最後は一緒に涙を流しながら、微笑んでくれるなんて、どれだけ心が美しいのだろうか・・・、愛しき我が妻よ。
――――――――
ユリウスが破壊して、滅茶苦茶になった部屋のベッドの上で、二人はしばらく抱き合っていた。――――落ち着きを取り戻してくると、ビアンカは色々なことが気になり始める。
(この部屋・・・、かなり悲惨な状態だな。壁も一面吹き飛んでいるし、調度品も見る影がないほど壊れている。それに・・・)
「ユリウス、ええっと、アレはどうする?」
ビアンカの切り替えの早さにユリウスは少し置いて行かれそうになった。正直なところ、まだ、甘い余韻に浸っておきたい。だから、いつものように・・・。
ユリウスは振り返りもせず、意識をテオドロスへ向ける。即座に生気を失って倒れていたテオドロスの身体は消えた。
「――――牢に?」
「はい、ここで目覚められても面倒なので」
「面倒って・・・。あいつ、生きているのか?」
つい、いつもの口調が出てしまうビアンカ。
「多分」
ぶっきらぼうに言い捨てるユリウス。
「多分って、適当過ぎないか?」
「そうかも知れないですね」
ユリウスは適当な返事をする。そして、ビアンカを片手で抱き上げて、そのままベッドから降りた。
(おおっ、抱っこ!?あっ、靴がないからか・・・)
ビアンカはここへ来た時に履いていた靴を探そうと室内を見回してみたものの、がれきの山を前に、これは無理だと諦める。――――ボロボロに壊れた壁の外に美しい月が浮かんでいた。
「部屋は悲惨ですけど、月は綺麗・・・」
「そうですね」
「この部屋って、辺境伯城のどこかですか?」
「ええ、ここは別館の一室です。辺境伯城には結界を張っていますから、侵入者は簡単に外へ逃げられません。魔法の転移で侵入することも不可能です。彼はそれを知っていたから、フォンデを利用したのでしょう」
「なるほど」
「その上、テオドロスは魔道具などを使って魔力を漏らさないようにしていた可能性があります。彼が動き出すギリギリまで、私は彼の存在を感知出来ませんでした。今後のためにも魔力隠しの件は対策を考えないといけないですね」
「まさか、ユリウスはこの城へ出入りしている者をすべて把握していると・・・?」
「はい、しています。ビアンカの安全が第一ですから」
「――――私の安全?」
(辺境伯城の守りを固めているのは凶悪犯を入れた牢のためではなく、私のため?――――そんなバカな・・・)
「ビアンカ、やり過ぎだと思っているでしょう?」
「あ、顔に出ていましたか・・・」
「今回のような事件が起きても、そう思いますか?」
「あっ・・・」
(今起きたことを忘れて・・・。迂闊な発言だった。心配を掛けたばかりなのに)
「すみません」
「いえ、あなたが無事ならそれでいいのです。戻りましょう」
「はい」
ユリウスに抱えられて、ビアンカは寝室へ戻った。
――――――――
部屋に到着すると書斎の方から声が聞こえて来る。
「閣下~!!戻られました~?――――閣下~!!」
ユリウスは返事もせず、ビアンカを抱えてクローゼットルームをササッと通り抜け、その先にあるシャワールームへ入った。
(大声で呼ばれているのに無視!?んんん、何故!?)
「あの声はXですよね。急ぎなのでは?」
ビアンカは小声でユリウスへ囁く。
「大丈夫です。恐らく、フォンデのことでしょうから・・・」
ユリウスはビアンカをタイル張りの床へ下ろすとシャワーを出して、湯加減を調節する。ビアンカは彼のフードを脱いで、ドア横にあったフックにバスローブをかけた。スラックスと下着もササッと脱ぐ。
「お湯はぬるめにしています。止めるときはレバーを下にして下さい。バスタオルはドアの前に用意しておきます」
「はい」
ユリウスは彼女に背を向け、必要なことを説明するとドアから出て行った。
(あ、お礼を言い忘れた。まぁ、後でいいか・・・。先ずは身体を洗おう)
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