49 囮 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
ビアンカは身体を拘束している魔法を解こうと決意する。
(今の私なら、念じればこの程度の拘束など直ぐに解ける!!よし!拘束魔法よ、解け・・・)
バン、ドッカ―ン!!!――――ガッシャ―ン!!
激しい振動共に何かが崩れ落ちる音がした。
(ユリウス・・・?)
ビアンカの視界はテオドロスに遮られているため、状況が今一つ掴めない。更に爆発音から数秒後、彼女に覆い被さっていたテオドロスの身体が物凄い速さで浮き上がり・・・。
ドン!
彼の身体は力強く横の壁へ叩きつけられた。そして、重力に従ってドサッと床へ落ちる。
「ビアンカ!!」
(この声!!!ユリウスだ!!)
ビアンカは即座に魔法の拘束を解いて飛び起きる。
――――と、ここで彼女の切られたシャツの残骸が、ハラリと床へ落ちて・・・。
「わわわっ!!」
彼女は慌てて露わになった胸元を両腕で隠した。
ビアンカの状況を目の当たりにしたユリウス。心が激しくかき乱されて業火のような魔力が体内から湧き上がって来る。――――程なく、ユリウスは自制心が利かなくなった。
ゴン!!
――――バン!!ドシン!!・・・・。
床に落ちていたテオドロスの身体は再び、ユリウスの暴走で宙を舞う。天井や絵画の飾っている壁に衝突しては、また違う方向へと弾き飛ばされていく。それはまるで人形劇の人形が大げさに踊っているかの如く・・・。
(あ、これ、テオドロスがバラバラになるまで終わらないパターン!?――――正直、あいつを助けたいなんて微塵も思わないのだが・・・。ここは止めるべきなのか?う~ん、止めないといけないのか???――――しかし、いくらムカついたといっても、犯人を勝手に殺したらダメだよな・・・)
偉そうなテオドロスに腹が立っていたビアンカだったが、正義を愛する戦士として仕方なく最低限の声掛けをすることにした。
「――――ユリウス?」
彼女の声でハッと我に返ったユリウス。既に意識どころか魂をも失っていそうなテオドロスを遠慮なく床へ落とし、ビアンカの座っているベッドへ飛び込んで来た。
「こんな目に・・・」
ボソボソと何か呟きながら、ユリウスは羽織っていたミッドナイトブルーのローブを脱ぐとビアンカの肩に掛けて優しく抱きしめた。ビアンカもここで漸く張り詰めていた緊張が解けて、彼に寄り掛かる。
(ユリウスの温かい腕の中にいるだけで安心する。ああ、もう、あの男・・・、本当に気持ち悪かった!!後で意識を取り戻したら、渾身の一発をボディーに入れてやる!!だが・・・、あいつ壁に衝突した一発目から気を失っていたし、もう目を覚まさないかも知れない・・・)
ここでビアンカはユリウスに事の経緯を伝えようと話し始めた。
「ユリウス、今回の事件の詳細をお伝えします。私は辺境伯城の一階の渡り廊下で、サルバントーレ王国のフォンデ王子殿下と一緒にいたテオという男に連れ去られました」
ビアンカは床に転がっているテオドロスを指差す。
「テオの正体はターキッシュ帝国の第四皇子テオドロスです。彼の目的は私を略奪婚でユリウスから奪い、ターキッシュ帝国へ連れて行くこと。この城へは留学生を広く受け入れるサルバントーレ王国経由で入り込んだそうです。なお、フォンデ王子殿下は彼のことを建築を学びに来た留学生だと思っています。最後にこのような格好をしていますが、私は無事です。ご安心ください」
ビアンカは事務的な報告を一気に述べた。しかし・・・。
「これのどこが無事だと!?」
ユリウスはビアンカへ強い口調で言い返す。
彼がこの部屋へ踏み込んだ時、ビアンカはベッドの上で手足を拘束されていて、半裸のテオドロスが上から覆い被さっていていた。しかも、彼女が着ていたシャツは切り裂かれて、胸元が露わに・・・。この状況だけで、これからテオドロスが彼女に何をしようとしていたのか、一目瞭然である。
(う~ん、経緯の説明だけでは伝わらないか。実は逃げようと思えば逃げられたという話もしておいた方が良いかも知れない)
ビアンカはユリウスの耳元へくちびるを寄せて、テオドロスの魔法による拘束が甘かったため、あえて逃げられないフリをして犯行目的を探ったという話をした。――――だから、大丈夫と最後に一言付け加えて。
(これで安心してくれるかな・・・)
ビアンカは改めて彼の顔を覗き込んだ。ところが、ユリウスは安心するどころか・・・。いつもの柔らかなライトグレーではなく、研ぎ澄ましてギラギラと光る刃物のような銀色の瞳で彼女へ鋭い視線を向けた。
(あ、目の色が・・・、これ本気で怒っているやつ・・・、ヤバ・・・)
「――――ビアンカ!!!!」
ユリウスの怒号が半壊した部屋へ響き渡った。
(あ、殴られるかも・・・)
ビアンカは覚悟を決めて奥歯を噛みしめる。しかし、彼は・・・。
「――――魔法使いを相手に・・・、何故、大丈夫だと言い切れる?」
ユリウスは彼女を抱き締めたまま、苦しそうに言葉を紡いでいく。
「あなたは甘過ぎる。――――私が少しでも遅れていたら・・・。ビアンカ、――――もう、二度と囮になるなんて、――――止めてくれ・・・」
最後まで言い終えると、彼の目尻から一粒の涙がビアンカの胸元へポタリと零れ落ちた。
(嘘っ!?涙!?――――ユリウスの目から涙が・・・)
――――彼はビアンカの肩へ顔をうずめる。
ビアンカは胸がギューッと締め付けられた。目の奥もジンと熱くなってくる。
(ユリウスをこんなに悲しませてしまうなんて・・・。普段、あんなに冷静な人が涙を溢すなんて余程のこと。――――それだけ、私の身を案じてくれていたということだろう)
ビアンカはユリウスにきちんと謝りたいと思った。
「――――ユリウス、本当に申し訳ありませんでした。次からは絶対、勝手な行動はしません。だから・・・」
(――――いや、そうじゃないな。こういう時は本心を伝えないとダメだ・・・)
ビアンカは心を落ち着かせるために一度、深呼吸をした。そして、通常運転(戦士モード)の口調で本音を語り始める。
「ユリウスなら絶対・・・、私を助けに来てくれると信じていた。だから、少し無茶をしてしまった。――――見ての通り、そこに転がっている男は最低な奴だ。高圧的な態度で私に勝手に触れてきて、――――とても気持ちが悪くてゾッとした。もうこんな囮は嫌だ。――――絶対しない・・・」
ビアンカの肩でユリウスが小さく頷く。
「ユリウス・・・、顔を上げてくれないか?」
ユリウスは首を左右に振った。
「――――ユリウスの美しい瞳が見たい・・・」
ビアンカはユリウスへ甘く語り掛ける。彼は涙で赤くなった目が気になりつつ頭を上げて、ビアンカの方を見た。
「――――ビアンカ、――――涙・・・」
彼女の頬を伝う涙を見つめる、ユリウス。
「フフフフフッ、お揃いだな。ユリウス」
ボロボロと涙を溢しながら、ビアンカは笑う。
「――――助けてに来てくれてありがとう」
ユリウスは返事をする代わりにビアンカの涙を親指で拭い取って、彼女の頬へキスをした。
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