48 囮 上
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
強く腕を引かれた瞬間、身体が浮遊した。ビアンカは自分が連れ去られそうになっていることを直感する。
(なっ!?こいつ魔法を使うのか!?どうする?抵抗するか?――――いや、このまま行こう。何を目論んでいるのか探った方がいいだろうからな)
身元不明の魔法使いにビアンカが連れ去られたと気付けば、ユリウスは必ず彼女を探し出す。――――ビアンカはユリウスを信頼し、このままテオについて行くことを決意した。
――――――――
二人が降り立ったのは小さなランプが一つだけ灯っている薄暗い部屋だった。夜目の効くビアンカは日頃の訓練で養われた観察能力を発揮し、部屋の中のチェックをしていく。
(天蓋付きのベッド、応接セット、壁には絵画・・・、豪華な部屋だな。――――サイドボードの上の花瓶には花が生けてある。カーテンの柄もシンプルな縦のラインと鷲の紋章・・・。あれ?この柄は見覚えがあるぞ!?――――もしかして、この部屋は辺境伯城の一室なのでは・・・)
ビアンカはギュッと大斧の柄を握り込む。
(ここがどこであろうと手元に武器がある。私は負けない)
「ビアンカよ。英雄と呼ばれるだけあって、連れ去られたぐらいでは動じないか」
テオの言動は先ほどとはガラリと変わって、高圧的なものとなった。これが彼の本性なのだろう。
「偉そうな奴だな?お前は誰だ!!」
彼女は目の前の男にドスのきいた言葉を吐く。しかし、テオはやはり動じなかった。ビアンカは確信する。こいつはやはり雑魚ではないと・・・。
「俺の名はテオドロスだ。ターキッシュ帝国の第四皇子と言えば分かるか?」
(ターキッシュ帝国の第四皇子だと???一番出会ったらダメな相手じゃないか!?だが、見た目が・・・。本当に本物か?成りすましじゃないのか?)
「目の色が違うじゃないか!」
「ああ、知っていたのか」
テオドロスは指をパチンと鳴らす。瞬く間に金色の髪は黒くなり、ヘーゼルの瞳は紫色に変化した。
(なっ!?こいつ、魔法を使って変装していたのか!!)
「お前、フォンデ王子殿下を騙したのか?」
「ああ、そうだ。サルバントーレ王国は学びに来るものには寛容な国だからな。それにしても、こんな簡単にこの城へ侵入出来るとは思ってなかったが・・・」
テオドロスはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ビアンカ、俺はお前を娶るためにここへ来た。俺たちの国の流儀では、手に入れたい女は略奪すると決まって・・・」
「断る」
ビアンカは彼の話を最後まで聞かずに断った。ターキッシュ帝国は確かに一夫多妻で略奪婚が認められている。だが、ここはローマリア王国である。辺境伯の妻を勝手に連れ去った時点で誘拐だ。略奪婚などという都合の良い言い訳は通用しない。
(こんな傲慢な男なんてお断りだ。話が通じそうにもないが、ハッキリと拒絶する意志を見せておくことが大切だろう)
「クッ、クククッ。キツそうな性格・・・、そそるじゃないか。悪いがお前に拒否権などない。俺が決めたら絶対だ!」
テオロドスはまた指をパチンと鳴らした。ビアンカの手から大斧が離れ、床へドシンと大きな音を立てて倒れる。
(――――手の筋肉が緩んだ。これも魔法の仕業か!?)
彼女が大斧に気を取られている間にテオドロスはもう一度、指をパチンと鳴らす。淡く光るロープのようなものが現れ、ビアンカの両腕と両足を拘束した。
バランスを崩して、床にドサッと倒れ込んだビアンカをテオドロスは肩へ担ぎ上げる。
(――――女を手に入れるために魔法を使って身体の自由を奪うのか・・・、かなり卑怯なやり口だな。ただ・・・、これ・・・、かなり緩い気が・・・)
――――テオドロスのかけた魔法の拘束は、ビアンカが本気で解こうと思えば解けそうだった。
(だが今、解いてしまうとこいつの本心を探ることが出来なくなってしまう。もう少し我慢して、不利な状況に追い込まれているフリを続けるとするか。はぁ~~~~、面倒なことになった。――――しかし、私には魔法の知識も魔力もないのに、これを解くことが出来ると確信出来たのは何故だ。もしかして、神の力のせいか?)
自主的に拘束されているビアンカをテオドロスはベッドへ下した。そして、手早く上着を脱ぎ棄てると、彼女の上に覆い被さって・・・。
(あ~~~~、こいつ・・・。マジで嫌いなタイプだ。女を黙らせるには一発やればいいと思っている奴!!)
ビアンカはどういう手順でテオドロスを倒そうかなと脳内で考え始める。
(身体の動きを封じる魔法を解いたら、力いっぱい股間を蹴り上げてやる!!そして、鼻フックで吊るして・・・・、いや、それくらいでは甘い。どうせなら、二度と女を見る事が出来ないように目つぶし・・・。――――だが、その前に・・・)
「何故、私を狙う」
「紫の瞳の女を探していた」
(こいつらが神の力を欲しているというのは知っている。だが、ここは知らないフリして・・・)
「瞳の色にこだわって、わざわざここ(別の大陸)まで来たのか!?バカバカしい」
「お前は自分の価値を分かっていない」
ザクッ。ザクッ。ザク。
テオドロスはナイフを取り出し、ビアンカのシャツと胸に巻いていた布を切り裂いた。彼女の豊満な胸が露わになる。
「フッ、若い夫は欲に任せて、ダメだな・・・」
彼はビアンカの首筋へ指先を伸ばし、ユリウスが噛み付いた痕を撫でた。
(うわっ、気持ち悪っ!!!滅茶苦茶、気持ち悪っ!!!くぅ~~~~~っ、女戦士ビアンカ!あと少しの辛抱だー!!)
「価値とは何だ?目の色一つで何が変わるというのだ!」
ビアンカは怯えた素振りも見せず、強い口調で問う。そして、彼女は彼の双眸を鋭い視線で見据えている。答えるまで逃さないとばかりに・・・。
「俺たちは神に選ばれた存在なのだ。世界を征服するのも夢ではない」
首から離れた彼の指先が、今度はビアンカの唇をなぞっていく。ビアンカは嫌悪感で背筋がゾ―ッとした。だが、長年培った強い精神力でおくびにも顔には出さない。
「お前が神から選ばれた存在だと?――――残念ながら世界征服を口にする奴は歴史上、大体馬鹿だ。同類か?」
「お前はこの状況で良くもまぁ・・・」
テオドロスは胸を露わにされていることを気にせず、皮肉たっぷりの口答えをしてくるビアンカへ呆れ声を出す。
「で、世界を征服して何をするつもりだ?」
「――――それは・・・、その時に考える」
(はぁ~~~~、色々と我慢して探っているのに、こいつからはユリウスから聞いた話以上の情報が何も出てこないじゃないか。何のために世界征服をするのかも分かっていないバカ皇子とこれ以上話しても無駄だ。――――そろそろ、潮時か?)
★ミニ情報★
テオドロス ターキッシュ帝国第四王子。紫の瞳を持つ。魔法使い。ビアンカを略奪するために来た。
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