47 誰にも似てない
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
――――ビアンカの首筋に甘噛みをして、浴室から逃げたユリウス。
彼はビアンカの無自覚な攻め(裸で抱き締めて来る)に合い、理性を失う前にクローゼットルームへ戻ってきた。
「はぁ、軍服で隠されていた大きな胸が・・・、もう・・・、あんなに全力で押し付けて来られたら・・・、おかしくなる・・・」
濡れた前髪を荒々しくかき上げながら、ユリウスは不満タップリに呟く。彼女に豊かな胸を押し付けられたのに、ジッと耐えた自分の理性を褒めたい。
だが、逃げ帰ってしまったのはダメだ!カッコ悪い!!と後悔し、頭を左右に振る。すると、髪についていた水滴が床へポタポタと落ちてしまった。
「あっ、髪を乾かしてなかった・・・」
ユリウスは風魔法を発動した。――――数秒でいつものサラサラな銀髪へと戻る。
「動揺し過ぎだ。――――情けない・・・」
これまで彼は日常生活において、若さを不利に感じることは殆どなかった。それは何でも器用にこなせる能力と細かなことには動じない性格の賜物で・・・。しかし、ここに来て無意識で攻めて来るビアンカに冷静な対応を取れるほど大人ではないということを自覚した。
周りの人々も本人も忘れていることが多いが、彼は十七歳の健康な男なのである。
ふと鏡に映る自分の顔を見て、ユリウスは愕然とした。彼女に抱き締められてドキドキしたが、まさか顔も耳もこんなに真っ赤になっているとは思わず・・・。
「これでは女に慣れてないと一目で分かる。――――ビアンカが恋愛に対して鈍感で助かった・・・」
彼は髭一つない滑らかな頬を手のひらで押さえた。兄さん(マクシム)のような男らしさが自分には全くないとユリウスは落胆する。――――色素の薄い肌、髪、瞳・・・。王家の誰とも似ていない容姿。鏡は正直だ。
彼は自分の出自のこと疑い、父(国王)へ真相を尋ねたことが幾度もある。しかし、その答えはいつも同じ。
――――『では、誰の子だと思っているのだ?』と笑い話にされてしまう。分からないから聞いているのに・・・。
そして、もう一つの王家の秘密。王女レティアが産んだ双子を何故、王家とヴィロラーナ公爵家で分けることになったのか。
これは単純明快な話だ。レティアが恋人との間に双子を身籠ったと知った前国王が、子供の出来ない国王夫婦に双子の一人を譲ることを条件としてレティアとリカルドの婚姻を許し、ヴィロラーナ公爵家という新しい家門を与えたのである。
双子の生まれた日は改ざんされ、マクシムとマリウスは従兄弟として生きていくことになった。ちなみに公式発表ではマリウスの四か月後にマクシムが生まれたことになっている。
髪を乾かしたユリウスは壁に掛けてある時計を確認した。時刻は午後九時になろうとしている。部下が本日の最終報告に来る可能性も考え、彼はガウンではなく、シャツとスラックスを纏った。
――――クローゼットルームから出て寝室を通り抜け、書斎へ移動する。
ツィアベール公国の取り調べを終えたという書類が机の上に積み上がっていた。現在、大公たちはこの城の地下牢に投獄されており、この件の責任者はユリウスだ。
マクシムには最低限の情報しか伝えていないため、自分の妻のリリアージュがこの城の牢にいるなんて彼は微塵も思っていない。連日、マクシムは他国の王族の世話をするために王都とこの城を行ったり来たりしている。だから、彼に気付かれないよう細心の注意を払う必要があるのだ。
というわけで、部下との会話で逮捕者の名を出すことも出来ない。――――正直、遣り辛い。早く、この城に滞在している王族たちが母国へ帰ればいいのにと本気で願っている。
「先日の緊急会議の時、兄さんがリリアージュとの離婚を仄めかす発言はあったが、結局、別れるとは決まっていない・・・」
ユリウスは視線を書類に落としたまま考え込む。彼が王太子を辞めるのなら、別に彼女と離婚する必要などないのでは?と気付いてしまったからだ。寧ろ、離婚しない方が妻の罪を一緒に被ったという愛の物語が出来上がる。実際は全く違うとしても・・・。
「明日にでも兄さんへ提案するか。――――激怒されるかも知れないが・・・」
ポイっと処理済みの箱へ目を通した書類を投げ込んだ。と、その時。
「ユリウスっ。急ぎの案件じゃ!」
前触れもなく、書斎に現れた老人は魔法使いモルテだった。モルテは魔塔の一員で、七年前にユリウスへ魔塔の招待状を送った張本人だ。今は魔塔主ユリウスの右腕(相談役)として働いている。
「地下牢の取り調べで何かあったか?」
「いや、そうじゃない。高貴なネズミが入り込んだ」
「ネズミに高貴も何も・・・」
ユリウスは彼独特の言い回しにツッコミを入れながら、『で、話の続きは?』と視線で促す。モルテは自身の背丈と同じくらいの杖を彼に向けて、こう言った。
「フォンデ坊やのお友達にネズミが紛れていたのじゃ!」
「ほう。身元は?」
「まだ確認出来ておらん。ただ、わしらと同族(魔法使い)だ。警戒した方が良いぞ」
「――――分かった。ネズミは今、何処だ」
ユリウスは書類を机に置いて立ち上がる。そして、部屋の隅にあるポールハンガーから、ミッドナイトブルーのローブ取って羽織った。
「フォンデ坊やとネズミは夜の散歩に出たようじゃ。待ち伏せて姿を確認しよう。わしもついて行くぞ!」
「では、向かおう」
二人は揃って書斎から廊下へ。そこへ前方から警備兵が慌てた様子で走って来た。
「閣下!!!閣下~~~~!!」
もう何か事件が起きたのか?と、ユリウスたちも彼の方へ駆け寄る。
「アルノルド(警備兵)、何があった」
「――――ビアンカ様が・・・」
――――はぁ、はぁ、とアルノルドは息を切らす。
「フォンデ王子殿下のお連れ様に・・・・、あの、何かご注意をされて・・・、それで、様子が・・・」
途切れと途切れになりながらも、必死に状況を伝えようとする。
「私とモルテが向かおう。場所はこ・・・」
アルノルドへ話している途中で、グワンと空間が歪むような感覚がユリウスの中に走る。
「ユリウ・・・」
モルテが『ユリウス、直ぐに行け!』と叫び終える前に、ユリウスは姿を消した。廊下に残されたのは魔法使いモルテと、一階から一気に三階まで駆け上がって来て息を切らしている警備兵アルノルドの二人。
モルテは杖を持っていない方の手でご自慢の白髭を撫でながら、前かがみで膝に手を置いて肩で息をしている警備兵へ声を掛ける。
「おい、若いの。わしを現場へ連れて行くのじゃ」
「は、はい!かしこまりました!!」
警備兵は深呼吸を数回して呼吸を整えるとシャキッと背筋を伸ばし、ビアンカが大斧を床に突き立てて客人に説教をし始めた場所へ、モルテを連れて移動し始めたのだった。
★ミニ情報★
モルテ 魔塔所属の魔法使い 老人 白髭と大きな杖がトレードマーク
アルノルド コンストラーナ辺境伯城の警備兵 筋肉隆々の剣士だが、走るのはあまり得意ではない。
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