44 神だろうと何だろうと 下
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
余りにもあっさりと後継者の儀式を行うことを了承されて、ビアンカはつい口から本音が出てしまう。それに対して主神ダイアは・・・。
「今、お前の記憶を見せてもらったから、特に質問することは・・・」
「はぁ!?嘘!!何を勝手に!!」
烈火の如く、怒りが沸き上がって来たビアンカは主神ダイアの話を遮った。
(記憶を覗いただと!一言の断りもなく!?――――主神よ、何処まで見たのだ?まさか、今朝、ユリウスとキ・・・・。もし見ていたら、ぶっ殺す!!)
「主神、いつの記憶を見たのですか?」
「そなたが生まれてから、この場所へ至るまでを見た」
(最悪!!)
ビアンカの中で何かがブチッと切れる。この音は、何故か隣に居たユリウスにも聞こえた。
「――――主神はプライバシーという言葉をご存じではないのですか?」
至近距離から獲物を仕留めるような視線で、トゲトゲしさ満載の言葉を主神ダイアにぶつけるビアンカ。――――間近でその様子を見ていたユリウスはビアンカがかなり怒っていると察し、彼女を止めるタイミングを見計らう。取り敢えず、大斧は速やかに手の届かない場所へ魔法で移動させた。
「そ、その言葉は知っているが、私の行動に何か問題が・・・、あったのか?」
主神ダイアはビアンカの圧に負けて狼狽えている。
「大ありです。何のために言葉があるのですか?聞きたいことは言葉を交わしたらいいじゃないですか?何の断りもなく相手の心の中を覗くなんて、最低な行為です。私は悪事を働いたのに口を割らず、拷問を受けなければならなくなった重罪人ではありません」
「――――重罪人!?いや、そのようなつもりは全く・・・。すまなかった」
「初めて会った相手にこんなことをしていたら信用されなくなりますよ!!」
主神ダイアはビアンカの一撃で、ズンと凹んだ。――――このタイミングでユリウスが間に入る。
「ビアンカ、落ち着いて聞いて下さい。主神ダイアがあなたの心を覗いた件は確かに良くありません。ただ、この方は友人知人も全くいませんから、誰にもあなたの情報が洩れる心配はないでしょう」
「でも・・・」
ビアンカはユリウスへ耳打ちした。二人の秘め事まで見られたのかと考えたら、とても嫌だったのだと・・・。ユリウスは彼女の可愛さに胸がキュンとしてしまう。
――――と、ここで、ビアンカはユリウスの発言でひとつ気になった点を改めて聞いた。
「主神に――――友達が居ないって、本当?」
「はい、主神ダイアは長年続けていた横暴な振る舞いにより、家族にも愛想を尽かされて今はこの神殿で独り暮らしです」
「ま、魔塔主・・・、それ以上は・・・私の威厳が・・・」
「いえ、ビアンカが嫌がることをしたのですから、これくらいで文句は言わないで下さい」
主神は狼狽えながら、それ以上は言わないでくれと彼に懇願する。しかし、ユリウスの答えはノーだった。
「主神ダイア、妻と子供たちに捨てられたと嘆いていましたが、嫁いで来てくれた妻の気持ちを考えたことがありますか?あなたがいつまでも人間に力を分け与える姿は、彼女にどう映っていたのでしょうか?」
「そ、それは・・・」
「いい機会です。『証』を持つ子を選んで、力を分け与えるというのは今回で終わりにしませんか。そして、ご家族に今までのことを謝られたらどうです?」
「だが、それでは私のいとし子たちの世界が・・・」
「私たちの世界はもう神の力を持つ指導者を必要とはしていません。不必要な力を持つ者の存在は逆に世界を狂わせます。時代は変わったのです」
「むむむ・・・・。――――そうか、時代が・・・」
主神ダイアは険しい表情を見せる。
「そなた(ユリウス)の言うようにした方が良い時期に来ているのかも知れないな・・・」
(主神にも色々と事情があったのだな。ユリウス、ありがとう!胸がすっきりした!――――そして・・・、今回でこういう揉め事になるような贈り物(神の力を分け与える)はキッパリと止めた方がいいだろう。私もその意見には賛成だ)
「主神、ユリウスが勝手にあなたのご家族の話を出したことをどう思いましたか?」
「いい気はしなかった。そなたにこんな私的な話を聞かせるつもりは無かった」
「――――分かったら金輪際、無闇に人の記憶を覗いたりしないで下さい!」
ビアンカは両腕を組み、仁王立ちで告げた。
「ああ、――――よく、分かった。私が悪かった。ビアンカ、許してくれ」
「はい、謝罪を受け取ります」
(フッ、この顔で謝られると父上から謝られているみたいだ。これはこれで気持ちがいいな、フフフッ)
不謹慎なことを考えていることを見破られないよう、ビアンカは何げない素振りで主神ダイアから視線を遠ざける。
「主神ダイア、そろそろ儀式をして下さい。もう一人の後継者の『証』を持つ者が、この大陸を狙っていますので、早急に!!」
ここで透かさず、ユリウスが催促を入れた。ターキッシュ帝国の第四皇子だけではなく、不審な言動をしたサルバントーレ王国の王子フォンデのことも一応、警戒しているからだ。
「(ビアンカの記憶を見たから、もう一人の後継者のことも)知っている。儀式は私の力を分け与えるだけだ。直ぐに済む」
「では、お願いします」
――――もうここまで来ると、この場の主導権を握っているのは主神ダイアではなく、魔塔主ユリウスだとビアンカも流石に気付く。
(だから、不安がる私にユリウスは心配いらないと何度も言っていたのか・・・。ただ、どうして彼が主導権を握っているのだろう。――――聞いたら教えてくれるだろうか。いや、はぐらかされる可能性の方が高いだろうな)
「ビアンカ、もう心を覗いたりはしない。だから、こちらを向いてくれ」
(よし!言質は取った。また勝手に心を覗いたら、次は堂々と大斧を振り回すからな!)
彼女はゆっくりと勿体ぶって、主神ダイアの方へ視線を動かして行く。最終的に視線を交わしても、先ほどのようにジーッと見られることは無かった。
(反省して改めてくれたようだ。気持ちが伝わって良かった・・・)
「では、力を分け与えよう。ビアンカ、利き手をこちらへ」
指示を受け、ビアンカは祭壇の上に右手を差し出す。主神ダイアはその手を両手で包み込んで、目を閉じ「アガぺ・・・」と呪文のようなものを呟き始めた。
(手はピリッとするようなことも無く、ただ温まっていくだけ・・・。――――私に分け与えられる神の力とはどういうモノなのだろうか。うーむ、予想も付かないな。――――それにしても、主神は父上に似ている。その上、横暴なところがあるという性格までそっくりだとは・・・。で、最終的に家族に捨てられた・・・と。この話を聞いたら他人事とは思えなくなってくるじゃないか。――――父上、早めに悔い改めないと、老後は主神ダイアのように一人になってしまいます!!早く私に優しくした方が良いですよ~!プッ、フフフフッ)
ビアンカはユリウスのように下を向いて、こっそりと肩を揺らす。その様子を黙って見ていたユリウスも彼女の隠し笑いに釣られて、程なく視線を下に落としたのだった。
★ミニ情報★
主神ダイア 過去にバリード在住の娘と恋に落ちた。後にその娘との子が大陸を一つにまとめ上げ、イリィ帝国を築く。子に神の力を分け与えた後は、イリィ皇家の後継者となる子へ神の力を分け与えていた。
その後、彼は神の世界で妻を娶った。元々の性格が災いし、現在妻と子は他の神殿で生活しており、主神ダイアはバリードと同じ座標にある別世界で一人暮らしをしている。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
ブックマーク登録もお忘れなく!!
誤字・脱字等ございましたらお知らせください。




